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第1部 仮初めの婚約者
イザベラの悪だくみ
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時は少し遡り、披露パーティーが終わって二時間ほどが経過した頃。
「クレアはどこ⁉︎ あの女、どこに行ったの⁉︎」
皇太子就任パーティーの終了後、第一皇女イザベラは妹の第二皇女トスカと共に皇女宮へと戻っていた。
現在は、イザベラの私室に夜着姿でトスカと向き合って椅子に腰掛けている。
「ただでさえ、勝手に故郷から送ってきたドレスを勝手に着たという大罪を犯したから、あれやらこれやらそれはそれはもう楽しい罰を考えていたのに! こ、こともあろうに……‼︎」
イザベラは興奮をしていて、中々次の言葉を紡げなかった。
「皇太子殿下の婚約者になった」
見兼ねたのか、トスカが代わりに言葉を引き継いだ。ちなみにアーサーは二人にとって異母兄だが、立場はアーサーの方が上なので敬称で呼んでいるのだった。
「そうよ、それですわ‼︎」
イザベラは、バンッ! とテーブルを両手で叩いて大きな音を立てた後、鬱屈していた気持ちを吐き出したら少しだけ冷静になったのか、ソファに腰掛け直した。
「一体、どうして何があったらそんなことになりますの⁉︎」
「そ、そうですわね……」
勢いに押されたからか目を逸らしたトスカに、イザベラは訝しげに思った。トスカは何かを隠しているときの表情をしていると思ったのだ。
何かあるのかと勘ぐると、あることに思い当たる。
「そういえば、トスカ。晩餐の前にクレアと共に中庭へ行きましたわよね」
びくりと身体を跳ね上げて顔を引き攣らせたトスカの様子を見ると、イザベラは確実に何かがあると確信した。
「は、はい」
「けれど、あなた一人で戻ってきたわよね。何があったのかしら」
イザベラは、あの時はダンスが始まっていて訊く余裕もなかったのだ。
「実は……」
それからイザベラはトスカから事情を聞き、中庭で起こったことを知った。
「まあ、皇太子殿下がブルーノお兄様の婚約者であるイリス公女と密会していましたの」
思わぬスキャンダルに、声は弾んでイザベラの心は躍るようだった。
「それで、クレアを二人の前に突き出したら、どういうわけかクレアが皇太子殿下の婚約者になったのですね」
「……ええ」
目を閉じて思考を巡らせてみる。
「なるほど、そういうことでしたか。おそらく皇太子殿下は公女との仲を世間から欺くためにクレアを利用したのですわ」
納得しからか、心が落ち着きを取り戻していくように感じた。
「お姉様。でしたら、クレアが偽りの婚約者だということを世間に公表したらいかがでしょうか」
「いいえ、それはあまりよろしくない判断です。下手に世間に公表などしたら皇室自体の評判を落としかねないですから」
まさにスキャンダルは諸刃の剣だと思った。
情報を公表させて失墜させることもできるが、一歩間違えればこちらも巻き添いを食ってしまう可能性もあるのだ。
「でしたら、このまま何もしないおつもりですか?」
「そうですわね……。あら、そういえばお父様は婚約式を執り行うと仰っておりましたわね」
「え、ええ。確かに」
「……そうですわ。モーラを呼んでもらえないかしら」
「侍女長ですか? 何かご用件ですか?」
「ええ。とても楽しい要件ですわ」
ニヤリと口角を上げてイザベラは微笑んだのだった。
「クレアはどこ⁉︎ あの女、どこに行ったの⁉︎」
皇太子就任パーティーの終了後、第一皇女イザベラは妹の第二皇女トスカと共に皇女宮へと戻っていた。
現在は、イザベラの私室に夜着姿でトスカと向き合って椅子に腰掛けている。
「ただでさえ、勝手に故郷から送ってきたドレスを勝手に着たという大罪を犯したから、あれやらこれやらそれはそれはもう楽しい罰を考えていたのに! こ、こともあろうに……‼︎」
イザベラは興奮をしていて、中々次の言葉を紡げなかった。
「皇太子殿下の婚約者になった」
見兼ねたのか、トスカが代わりに言葉を引き継いだ。ちなみにアーサーは二人にとって異母兄だが、立場はアーサーの方が上なので敬称で呼んでいるのだった。
「そうよ、それですわ‼︎」
イザベラは、バンッ! とテーブルを両手で叩いて大きな音を立てた後、鬱屈していた気持ちを吐き出したら少しだけ冷静になったのか、ソファに腰掛け直した。
「一体、どうして何があったらそんなことになりますの⁉︎」
「そ、そうですわね……」
勢いに押されたからか目を逸らしたトスカに、イザベラは訝しげに思った。トスカは何かを隠しているときの表情をしていると思ったのだ。
何かあるのかと勘ぐると、あることに思い当たる。
「そういえば、トスカ。晩餐の前にクレアと共に中庭へ行きましたわよね」
びくりと身体を跳ね上げて顔を引き攣らせたトスカの様子を見ると、イザベラは確実に何かがあると確信した。
「は、はい」
「けれど、あなた一人で戻ってきたわよね。何があったのかしら」
イザベラは、あの時はダンスが始まっていて訊く余裕もなかったのだ。
「実は……」
それからイザベラはトスカから事情を聞き、中庭で起こったことを知った。
「まあ、皇太子殿下がブルーノお兄様の婚約者であるイリス公女と密会していましたの」
思わぬスキャンダルに、声は弾んでイザベラの心は躍るようだった。
「それで、クレアを二人の前に突き出したら、どういうわけかクレアが皇太子殿下の婚約者になったのですね」
「……ええ」
目を閉じて思考を巡らせてみる。
「なるほど、そういうことでしたか。おそらく皇太子殿下は公女との仲を世間から欺くためにクレアを利用したのですわ」
納得しからか、心が落ち着きを取り戻していくように感じた。
「お姉様。でしたら、クレアが偽りの婚約者だということを世間に公表したらいかがでしょうか」
「いいえ、それはあまりよろしくない判断です。下手に世間に公表などしたら皇室自体の評判を落としかねないですから」
まさにスキャンダルは諸刃の剣だと思った。
情報を公表させて失墜させることもできるが、一歩間違えればこちらも巻き添いを食ってしまう可能性もあるのだ。
「でしたら、このまま何もしないおつもりですか?」
「そうですわね……。あら、そういえばお父様は婚約式を執り行うと仰っておりましたわね」
「え、ええ。確かに」
「……そうですわ。モーラを呼んでもらえないかしら」
「侍女長ですか? 何かご用件ですか?」
「ええ。とても楽しい要件ですわ」
ニヤリと口角を上げてイザベラは微笑んだのだった。
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