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第1部 仮初めの婚約者
広大な私室
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それから、リリーとアンナに連れられて廊下を進んで階段を登り、突き当たりの部屋の前で歩みを止めた。
「こちらが、本日からクレア様にご利用をしていただきますお部屋でございます」
「案内していただき、ありがとうございます」
クレアが仮初めの婚約者になることは、たった先刻前にほぼ成り行きで決まったことなのに、すでにクレアの部屋が用意されていることは全くもって意外だった。
おそらく、第二宮の使用人たちは相当優秀でかつ主人に忠実で仕事が早いのだろう。
これまでクレアは、物置だった部屋に無理矢理朽ちたベッドを持ち込み居室とされて住んでいたのだが、今回はどのような物置なのだろうか。
ふと、そんなことを思いながらリリーが開けてくれた扉の先に一歩踏み込んでみる。
──すると、そこはクレアの予想と全く反し物置部屋などではなく、広大な居室であった。
居室に広大などいう表現はそぐわないのかもしれないが、ともかく広いのだ。
皇女の部屋には踏み入る許可がなかったので比べることはできないが、目前の部屋は何かのイベントを開催しても問題がなさそうなくらい広く、このような広い部屋をクレアはこれまで目にしたことはなかった。
居室は二間続きとなっていて、どうやら活動を行う部屋と寝室とが分かれているようだ。
身体を硬直させて動けずにいると、傍にいるリリーとアンナが急に膝を折って頭を下げた。
「クレア様。ご居室はお気に召しましたでしょうか」
振り返るとそこには穏和な表情を向けた女性が立っていた。見たところ三十代後半といったところか。
身体も思考も未だに固まっているし、リリーには申し訳ないのだが、そもそもこの部屋が自分の割り当てられた部屋だということ自体が間違いではないのではないかと巡らせていたところだった。
「……はい。……このような素敵なお部屋をご用意していただき、とても嬉しく思います」
何とか、思考を搾り出して伝えることができたので心の中で小さく安堵の息を吐くが、まだ気を抜くことはできそうになかった。
「そのような温かいお言葉をいただきまして、安心いたしました。わたくしは本日よりクレア様の専属の侍女長を拝命いたしましたサラと申します。よろしくお願いいたします」
「サラ様ですね。こちらこそよろしくお願いいたします」
サラは微笑んだまま首をゆっくりと横に振った。
「こちらが、本日からクレア様にご利用をしていただきますお部屋でございます」
「案内していただき、ありがとうございます」
クレアが仮初めの婚約者になることは、たった先刻前にほぼ成り行きで決まったことなのに、すでにクレアの部屋が用意されていることは全くもって意外だった。
おそらく、第二宮の使用人たちは相当優秀でかつ主人に忠実で仕事が早いのだろう。
これまでクレアは、物置だった部屋に無理矢理朽ちたベッドを持ち込み居室とされて住んでいたのだが、今回はどのような物置なのだろうか。
ふと、そんなことを思いながらリリーが開けてくれた扉の先に一歩踏み込んでみる。
──すると、そこはクレアの予想と全く反し物置部屋などではなく、広大な居室であった。
居室に広大などいう表現はそぐわないのかもしれないが、ともかく広いのだ。
皇女の部屋には踏み入る許可がなかったので比べることはできないが、目前の部屋は何かのイベントを開催しても問題がなさそうなくらい広く、このような広い部屋をクレアはこれまで目にしたことはなかった。
居室は二間続きとなっていて、どうやら活動を行う部屋と寝室とが分かれているようだ。
身体を硬直させて動けずにいると、傍にいるリリーとアンナが急に膝を折って頭を下げた。
「クレア様。ご居室はお気に召しましたでしょうか」
振り返るとそこには穏和な表情を向けた女性が立っていた。見たところ三十代後半といったところか。
身体も思考も未だに固まっているし、リリーには申し訳ないのだが、そもそもこの部屋が自分の割り当てられた部屋だということ自体が間違いではないのではないかと巡らせていたところだった。
「……はい。……このような素敵なお部屋をご用意していただき、とても嬉しく思います」
何とか、思考を搾り出して伝えることができたので心の中で小さく安堵の息を吐くが、まだ気を抜くことはできそうになかった。
「そのような温かいお言葉をいただきまして、安心いたしました。わたくしは本日よりクレア様の専属の侍女長を拝命いたしましたサラと申します。よろしくお願いいたします」
「サラ様ですね。こちらこそよろしくお願いいたします」
サラは微笑んだまま首をゆっくりと横に振った。
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