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第1部 仮初めの婚約者

感謝

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「申し訳ございません。クレア様の贈り物の管理はわたくしの役目なのです。ですがこれまでは皇女様方から決してクレア様に知られてはならないとキツく言いつけられておりまして、お渡しすることが叶いませんでした」
「そうだったのですね……」

 喉の奥が熱くて、言葉が上手く出てこなかった。
 だが、肩を震わせて自分に対して謝罪をするリリーに非がないことはハッキリと理解をすることができた。

「顔を上げてください。あなたは悪くありません」
「……ですが……」
「ここでは皇女様方の命令は絶対ですから。拒否をすれば無事ではいられません」

 その言葉がクレアの心を縛り付けたようだった。
 そうだ。リリーとアンナはどうなるのだろうか。自分にこのような親切を施してくれたことがあの二人にバレてしまえば、きっと二人には残酷な罰が待っているのだろう。
 だが、あのような形でリリーが自分を迎えに来てくれた時点で、自分が二人と関わりがないとしらを切ることもできそうにない。

「……あなた方は、このままでは大変な罰を受けてしまうかもしれません。何か手立てを考えなければ……」
「構いません。元より覚悟の上です」
「でも……」

 顔を伏せるクレアに、これまで傍で静かに話を聞いていたアンナが口を開いた。

「先日、クレア様はイザベル皇女殿下の本の捜索に加わっていただき、一生懸命探してくださった末に見つけてくださいました」
「え、ええ。そうですが、それが何か関係があるのですか?」

 リリーは深く頷いた。

「はい。あの時、わたくしがイザベラ皇女殿下のご本をお持ちできなければ、わたくしは既にこの皇女宮からは追放され厳しい処分くだされていたはずです。ですので、危機をお救いいだたクレア様のお力添えをするのは当然のことです」
「……そうだったのですね」

 だが、その通りでも二人のこれからのことを思うと胸が痛んだ。
 
「さあ、クレア様。装飾品をお選びになってください」

 辛い現実が待ち受けているはずなのに、それを微塵も感じさせない笑顔を向けてくれるリリーを見ていると、心に切ない気持ちと温かい気持ちが同時に込み上げてくるように感じた。

(このままではいけない。何か二人のために力になりたい)

 クレアはそう強く思いながら、クリスタルのネックレスを選んだのだった。
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