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16章 『秘薬』の開発

第164話 第二の『魔王城』へようこそ―『聖女様』

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 ラヴィが困惑したようにそう口にすると、俺は足を進めながらその質問に答えてやった。

「『魔王』なんて肩書きも成り行きでなっただけだからな。本物の『魔王』と違って、生まれつきのものじゃない」
「ほ、本物の『魔王』……ですか?」
「ああ。……おい、セリィ」

 俺の言葉に、影がゆっくりと伸びる。
 そこからセリィがズズッと音を立てながら姿を現すと、ラヴィが驚いた様子で声を上げた。

「さ、さっきの人……こ、この魔力……ま、まさか、こんな子供が本物の『魔王』ということですか……?」
「……そうか、貴様も『聖女』とやらだったな。あの女ほどではないが、それなりに強い力を持っているようだ」

「あ、あの女……? も、もしかして、それはメルト様のことを仰られてるのですか……?」
「ふむ……確かそんな名前だったか? ふん、わざわざ『聖女』などの名前など覚えてもおらぬ」
「噓つけ」

 お前、普通にメルトの名前に反応するだろうが。
 堂々ととぼけたフリをするセリィに対してそう口にすると、その顔に不機嫌さを浮かべつつも、軽く宙に浮きながら明後日の方向に視線を向けて俺に言葉を返してきた。

「……ふん、そんなことはどうでも良い。しかし……その本物の『魔王』などという呼び方は好かんな。現にアイドは十分に『魔王』としての役目を果たしている。その活躍はすでに引退している我よりも立派だ。ならば、本物というのであれば、アイドこそ本物の『魔王』ではないか?」

「そんな立派なものじゃない。『勇者』になったのも、『魔王』になったのも、結局はどっちも成り行きだ。ただ何となく強さを求めているうちに、気付いたらなってた。それだけの話だ」
「な、成り行きで……? そ、そんなものなんですか……?」
「まあ、そういうもんだ」

 俺から返って来た答えがあまりにもイメージしていたものと違ったのか、困惑した表情を見せるラヴィ。すると、空からレファーが俺達の下へとゆっくりと降りながら隣を歩くラヴィを見て感心したように声をこぼす。

「しかし、実に興味深い……教会が『聖女』を二人も用意するなど、通常はあり得ないことだ。少なくとも、私はそのような話は聞いたことがない」
「確かにな。こっちは『勇者』を代わりに用意したことはあるが、それと同じようなものかと思ったが……ラヴィは魔力を目で見れるんだよな?」

「は、はい……一応、ですが……」
「ってことは、どこぞの『偽物勇者』と違って『聖女』ってことに違いは無さそうだ。まあ、そういう細かい話は向こうの『聖女』も混ぜて話した方が良いだろ」

 そう言って、俺は盗賊から奪い返した『秘薬』を軽く片手で弄ぶ。すると、その視線の先に見慣れた建物が目に入った。

「着いたぞ」
「ここは―」

 驚いたように声を上げるラヴィを横目に、俺は軽く笑みを作るとその建物を軽く指しながら迎え入れるように言葉を返す。

「第二の『魔王城』へようこそ―『聖女様』」
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