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16章 『秘薬』の開発

第132話 懺悔

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 俺の言葉を聞いたムエイとミンクは驚いたように顔を上げる。
 そこには戸惑いも混じっており、困惑気味な様子でミンクが声を出した。

「ふ、不問……ですか? し、しかし、私の所為で『秘薬』のサンプルは盗まれてしまったというのに……」

「確かに盗まれてしまったのはお前達の過失かもしれん。しかし、忠誠心の高いお前達がやすやすとただ盗まれるとは考えにくい。であれば、何かしら問題が起きたのではないか?」

「そ、それはそうですが……で、ですが、実際に盗まれてしまったことは事実です。このような大義を仰せつかったにもかかわらず、それを賊に奪われてしまっておきながら無罪放免など、他の者達にも示しが付きません!」

「では、聞かせてもらっても良いか? お前達が『秘薬』のサンプルを盗まれてしまった時、何があった?」

 そうして俺が先を促すと、ミンクは気まずそうに口を何度か開きかけながら恐る恐るした様子でその時の状況を口にしていく。

「……本城からからこちらへ伺う際、森の中で突然見知らぬ場所に移動しておりました。そして、気付いた頃には『秘薬』のサンプルが無くなっていたのです……後で気付いたのですが、恐らく幻術か何かに掛かってしまっていたようでした……申し訳ありません」

「なるほど、幻術か……」

 俺やセリィはともかく、魔力の低いミンクではそれを見破ることは難しいだろうな。

 ついこの間『金鉱山』を根城にしていたフェグという竜が使っていたレベルの幻術はそうそうお目に掛かることは無いが、軽い幻術を使える奴ならこの世界にいくらでも居る。

 とはいえ、そんなレベルの幻術に掛かるのは『魔王軍』でも少ないだろう。
 そんな中、『魔王軍』としてまだ成長途中のミンクでは幻術を見破ることは難しかったわけだ。

 それを知った俺は目の前で跪いているムエイとミンクへと言葉を投げ掛ける。

「輸送部隊の人選をムエイに任せたのは俺だ。それはムエイを信頼してのことだったが、今回のようなケースもあるのだと学ぶことが出来た」
「申し訳ありません、アイド様……」

「顔を上げてくれ、ムエイ。俺にとっては今後の良い教訓となった。ミンクの言う通り、示しが付かないというのはあるが、お前達の処罰について撤回はしない。とはいえ、今回は不問だが次は無いと思え」
「あ、ありがとうございます!」

「なんと慈悲深い……このムエイ、今回のことを胸により一層あなた様への忠義を強めることをここにお約束いたします」

 俺の言葉にミンクとムエイがそれぞれ言葉を返す。
 そんな二人の反応を受けつつ、俺はそれを制するように手を向ける。

「気にするな。それよりも『秘薬』のサンプルを早急に奪い返す必要がある。イグン、調べについてはどうなっている?」

 俺がそう言って『魔王軍』第五の将イグンを呼び出すと、事の成り行きを見守っていたイグンは洗練された動きで前に出ると、俺の言葉に応じた。

「はい。どうやらあの一帯には盗賊が潜んでいるらしく、また彼らは幻術を使った強盗を繰り返しているようだとの情報がありました。そのことから、恐らくミンクを始めとした輸送部隊は彼らの襲撃を受けた可能性が高いと思われます」
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