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16章 『秘薬』の開発

第123話 二人の女王

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 セリィとは母親が違うだけで、正統な『魔王』の血族であるレファー。
 吸血鬼の女王を母に持っていたレファーは顔付きはセリィとは似ても似つかないが、父親が同じ『魔王』ということもあるのかどこか面影はあった。

 そして、そのレファーは生まれた順番的にセリィの姉にあたり、こうして妹のセリィを煽りぶつかることが多いものの、そこに険悪な雰囲気はない。

 レファーにとってこれは妹のセリィへのコミュニケーションであり、それを理解している俺は必要以上に止めたりはせず、事の成り行きを見守るようにしている。

 それは他の『魔王軍』も同じで、俺よりも長く二人を見てきたムエイ達は笑顔でそれを見守っていた。

 そんな中、レファーの挑発じみた言葉を受け、玉座の手すりに腰掛けていたセリィが眉間を動かしながらそれに応じてしまう。

「おい、貴様……今、なんと言った? 誰が器が小さいだと?」
「おや? なんだ、聞こえていなかったのか? ならば、もう一度言ってやろうではないか。なあ? 器の小さい『元魔王』様?」

「ぐっ……き、貴様……! 貴様のような器も見た目も小さい女に言われたくはない!」
「ふふ、負け犬の遠吠えだな。背はお前よりも私の方があるのを忘れたか?」

「しょ、所詮は大した差では無い!」
「たった少し……だが、お前には超えられない大きな差だが?」
「き、貴様……!」

「相変わらず、仲が良いことで」

 顔を真っ赤にして肩を震わせるセリィと、そんなセリィをニマニマとした目で見下すレファーを横目に俺はため息交じりにそう言葉にする。

 しかし、そんな俺の言葉を耳にした二人は、それぞれ対極的な反応を見せながら俺を睨み付けてきた。

「主よ……貴様、その目は飾りか? どこをどう見れば、こんな格下の女と我がそう見える?」
「格下? それは、私の目線よりも低い位置に居るお前の間違いではないのか?」

「ぐ……!? 貴様……言わせておけば……少しデカい程度で図に乗りおって! 所詮、口ばかり大きいだけの器の小さい女が……もう許さん、そのふざけた態度を今日こそ消し去ってくれよう。そして、我が前に屈させ、誰が格上なのかを思い知らせてくれる」

「ハッ、やめておけ。私とお前では、身長だけでなく器の大きさも違うのだ。現に我らが王が『秘薬』の開発という大義を成しているというのに、お前は責めるばかりだ。まるでなっていない。やれやれ、これだから器の小さい女は嫌だというのだ」

「くぅっ……!」

 レファーを相手にした時のセリィは弱い。
 今でこそ、誰に対しても偉ぶった態度を取っているセリィだが、子供の頃はレファーに甘えてばかりいたそうだ。

 正直、それをムエイから聞いた時は半信半疑だったが、確かに他の奴らに対しての態度とレファーへの態度は別ものだと最近つくづく感じる。

 普段であれば、どんな相手にも優勢に会話する『元魔王』だが、姉であるレファーに対してはそれも形無しであり、レファーの方もそれを分かっているからこそ、セリィをからかうのを楽しんでいるわけだ。

 とはいえ、何だかんだで実力行使に出ないあたりセリィも満更でもなさそうだが。

「―アイド様。少しよろしいでしょうか」
「ん……?」

 『魔王軍』を代表する二人の王女に暖かい目を向けていると、生真面目な男の声と共に室内に魔法で映像が映し出される。

 その映像には眼鏡を掛けた白髪の男が研究員らしき服装で立っており、俺に恭しく頭を下げていた。

 その男こそ、『秘薬』の開発を頼んでいた『魔王軍』第四の将ピーミットだ。
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