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一年間以上、恋人や良い感じの相手がいなかったのは久しぶりな気がする。
カトリーヌは彼氏と距離を置くようになれば、自然と次の良い相手がそばに現れていた。
浮気は絶対にしないけど、一か月後くらいには食事に誘われたり紹介されたりしていた。
それが、一年前に騎士団の彼氏に浮気をされてから、誰とも親密になりたいと思わなかった。
仕事に真剣に取り組んだことも一因だ。
それと、名前も知らない「あの人」のことが気になっていた。
後輩のリーゼは顔も知らない魔術師団長に憧れていた。夢見がちだから心配していたけど、そのつぎにやっと生身の男に恋をした。少しヘラヘラした軽い感じの下っ端魔術師だけどリーゼのことを大切にしているのがわかったから安心していた。
恋を実らせて結婚した後輩が眩しい。
酔いが醒めてきた。
宴会場からずいぶんと遠ざかってしまったので、もう寮に帰ろうかと思った。
あの人と出会った場所に近づく。初めのうちは何回か待ってみたけれど、もう無駄だと思ってからは言っていない。
どちらかと言えば、避けていた。
でも、今日なら会える気がした。
今日会えないなら諦められる。
「……なんで」
宴会場を出てきたときには怒りで心臓がドクドクと打っていた。廊下を走っているときも。
その時よりも、もっと痛い。
「なんでいるのよ」
横に倒れた木に片膝を立てて座っている。
「なんでって……宴会はもう飽きたし、久々に落ち着くところで飲み直そうかなって」
「ここ、私も好きな場所なのに」
「草だらけだったぞ」
「最近は来てなかったから」
「飲む?」
酒瓶とコップをくっと上げる。
コップは一つしかない
「やめとく」
「こっち座るか?」
頷いて、横に座る。
横顔を見ても、覚えがあるようないような。でも、声が同じ。
「あなた、ジオス?」
「そうだけど。なんで名前」
「セルジオさんに聞いた」
「ああ。あんたから俺の名前を聞いたのか?」
改めて言われるとこそばゆい。
「聞いた」
「なんで」
「探してたから。ここで待ってた。辞めるなんて知らなかった」
「ふーん」
そっぽ向いて、酒を注いでいる。
それだけ!?
何か言いなさいよ!
と口を開いたときに、ジオスの耳が赤いことに気づいた。
セルジオさん、これですか。
照れてるんですか、こいつ。
可愛い。
「やっぱりお酒もらうわ」
コップを奪って飲んだけど、濃すぎて舌が痺れた。
「無理……」
ジオスが笑って、上体を傾けた。
笑うことないじゃない、と睨んだら、
腕を捕まれて
キスをされた。
舌を捕まえられる。
まだ痺れているのを宥めるように。
一瞬で離れて、
カトリーヌが言葉を発するより先に
酒を飲んでからもう一度キスをされた。
ジオスの舌が熱くて、口内を溶かすように熱を染み込ませていく。
酔いが回っていくように、熱が頬や胸に次々と灯っていく。
捕まれている腕も熱い。
ジオスが抱き締めてきたので触れる胸も背中に回された腕も全部が生まれる熱を閉じ込めているみたいだ。
カトリーヌが息継ぎをして、ジオスが酒を飲んでまたキスをする。
溶けかけた理性が、ねだっている。この先にあるものを知っているから。
ジオスの目にも熱が宿っている。
求めれば、もっと先をくれるんだと理解して、体が震えるほど期待してしまっている。
ジオスの背中に腕を回してしまっているし、息もうまくできないくらい、
この人が欲しい。
カトリーヌは彼氏と距離を置くようになれば、自然と次の良い相手がそばに現れていた。
浮気は絶対にしないけど、一か月後くらいには食事に誘われたり紹介されたりしていた。
それが、一年前に騎士団の彼氏に浮気をされてから、誰とも親密になりたいと思わなかった。
仕事に真剣に取り組んだことも一因だ。
それと、名前も知らない「あの人」のことが気になっていた。
後輩のリーゼは顔も知らない魔術師団長に憧れていた。夢見がちだから心配していたけど、そのつぎにやっと生身の男に恋をした。少しヘラヘラした軽い感じの下っ端魔術師だけどリーゼのことを大切にしているのがわかったから安心していた。
恋を実らせて結婚した後輩が眩しい。
酔いが醒めてきた。
宴会場からずいぶんと遠ざかってしまったので、もう寮に帰ろうかと思った。
あの人と出会った場所に近づく。初めのうちは何回か待ってみたけれど、もう無駄だと思ってからは言っていない。
どちらかと言えば、避けていた。
でも、今日なら会える気がした。
今日会えないなら諦められる。
「……なんで」
宴会場を出てきたときには怒りで心臓がドクドクと打っていた。廊下を走っているときも。
その時よりも、もっと痛い。
「なんでいるのよ」
横に倒れた木に片膝を立てて座っている。
「なんでって……宴会はもう飽きたし、久々に落ち着くところで飲み直そうかなって」
「ここ、私も好きな場所なのに」
「草だらけだったぞ」
「最近は来てなかったから」
「飲む?」
酒瓶とコップをくっと上げる。
コップは一つしかない
「やめとく」
「こっち座るか?」
頷いて、横に座る。
横顔を見ても、覚えがあるようないような。でも、声が同じ。
「あなた、ジオス?」
「そうだけど。なんで名前」
「セルジオさんに聞いた」
「ああ。あんたから俺の名前を聞いたのか?」
改めて言われるとこそばゆい。
「聞いた」
「なんで」
「探してたから。ここで待ってた。辞めるなんて知らなかった」
「ふーん」
そっぽ向いて、酒を注いでいる。
それだけ!?
何か言いなさいよ!
と口を開いたときに、ジオスの耳が赤いことに気づいた。
セルジオさん、これですか。
照れてるんですか、こいつ。
可愛い。
「やっぱりお酒もらうわ」
コップを奪って飲んだけど、濃すぎて舌が痺れた。
「無理……」
ジオスが笑って、上体を傾けた。
笑うことないじゃない、と睨んだら、
腕を捕まれて
キスをされた。
舌を捕まえられる。
まだ痺れているのを宥めるように。
一瞬で離れて、
カトリーヌが言葉を発するより先に
酒を飲んでからもう一度キスをされた。
ジオスの舌が熱くて、口内を溶かすように熱を染み込ませていく。
酔いが回っていくように、熱が頬や胸に次々と灯っていく。
捕まれている腕も熱い。
ジオスが抱き締めてきたので触れる胸も背中に回された腕も全部が生まれる熱を閉じ込めているみたいだ。
カトリーヌが息継ぎをして、ジオスが酒を飲んでまたキスをする。
溶けかけた理性が、ねだっている。この先にあるものを知っているから。
ジオスの目にも熱が宿っている。
求めれば、もっと先をくれるんだと理解して、体が震えるほど期待してしまっている。
ジオスの背中に腕を回してしまっているし、息もうまくできないくらい、
この人が欲しい。
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