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王子妃の護衛
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「ミラ、すみません」
帰るなりアランが暗い表情でそう言ったのでミランダは戸惑った。
アランはいつも仕事を終えて走って帰ってくる。
馬車を待つ時間も惜しいらしい。
馬車を追い抜いていく男として子供たちの間で有名らしい。
馬車抜き男に会ったら背が伸びるとか、百点をとるとか。
ラッキーシンボルらしい。
いつもなら帰ってくるなり抱きついて来るのに、下を向いている。
アランのことだからきちんと話してくれるはず。ミランダはいつも通りに食事を用意してアランを待った。
「どうしたの?食べましょう」
「ミラ、配置替えになってしまいました」
「そうなんですか。まあどこへでも行きましょう。あ、引っ越すのですか?」
「そうではないんですが、王子妃の護衛を殿下から直々に……」
「クリスティーヌのですか?」
「はい。」
「それは……なんというか、御愁傷様です」
「帰る時間が遅くなります。それに」
「あの子のことだから、振り回されるでしょうね。アラン、お疲れ様です」
クリスティーヌの護衛はもう十人は替えられている。初めは殿下の焼きもちかと噂になったが、クリスティーヌ妃も噂以上に変人なのだ。
隙があれば抜け出そうとする。
天才的な頭脳をもって最低限の常識と良心しかもたない、とミランダは思っている。
本当に気の毒なことだと思っていた。
「あの子の対処法なら私も少しはお役に立てるでしょう。殿下もそのおつもりでアランを選ばれたのかもしれませんね」
「ミラ、がんばりますが、妹殿に嫌われたりクビにされたらミラに申し訳なくて」
「そんなことはありませんわ。アランは常識的なのであの子の好みの変人ではありませんわ」
言ってから、あらこれは殿下に不敬ですわね、とクスクス笑った。
その様子にアランは感動してキスをして、止まらなくなって抱きしめていたけれど
「食事が先ですよ」
と手をつねられた。
「ありがとう、暴走する俺を止めてくれるところも好き」
私も、素直にいつも愛情を伝えてくれるアランが好き。
言葉にはしなかったけれど頬に軽いキスを返した。
それから二週間。
アランはやつれていた。
「アラン、ありがとう。クリスティーヌは奔放なところが魅力なんだけど、買収されないし魅了されない護衛はアランしか居ないと思って」
殿下に誉められた。
買収はされない。
魅了なんかされるわけがない。
姉妹といってもこんなに違うのかと思う。
ミランダが常識人で本当に良かった。しかもミランダはずっとこの奔放な妹の尻拭いをしてきたのだろう。
だからあんなに優しく穏和で辛抱強く内面が素晴らしいんだ。
それに引き換え。
王子妃は研究をしているかと思えば外に出ている。目が離せない。
奔放?
そんな言葉で表現しきれない。
「ねえ、ちょっと街に出たいのだけど」
「いけません。午後は講義があります」
「ちょっとだけだってば」
「無理です」
「頭の固い男はお姉ちゃんに、飽きられるかもよ」
ギリィッ。
それでもクリスティーヌ妃は能力は高く対外的にはきちんとした態度もとっている。
アランや、殿下の前では気を抜いているのだろうか。身内として認められているなら喜ぶべきことなのかもしれない
「ねえ、お姉ちゃんの子供の頃の話、教えてあげるから一時間だけ護衛を離れてくれない?」
「…………無理です。ミラの話はミラから聞きたいです」
「愛されてるねえ」
殿下が来たときにはアランは休憩できる。
はずだった。
「なんで、塀の外にいらっしゃるんですか。殿下は?」
「見つかっちゃったかー!
お茶に一服盛っただけよ」
……殿下、あなたほんとうにこの頭のネジの外れた方を愛してらっしゃるんですか
慌てて殿下を見に行くと、
「ああ、あれはクリスティーヌの照れ隠しで。本当は私が睡眠不足だから昼寝をするように薬を特別に配合してくれたんだよ。愛されてるだろう」
殿下、本当にあなた大丈夫ですか。
あんな方を妃にだなんて、王宮に閉じ込められるとでも思ってやがりますか?正気ですか
でも、殿下がクリスティーヌ妃を選らばなかったら
ミランダとアランの政略結婚もなかったわけで。
アランは二人に返せない恩がある。
そこもきっちり二人に押さえられてそうで、アランは耐えるしかなかった。
早く帰ってミランダに、労ってもらおう。
帰るなりアランが暗い表情でそう言ったのでミランダは戸惑った。
アランはいつも仕事を終えて走って帰ってくる。
馬車を待つ時間も惜しいらしい。
馬車を追い抜いていく男として子供たちの間で有名らしい。
馬車抜き男に会ったら背が伸びるとか、百点をとるとか。
ラッキーシンボルらしい。
いつもなら帰ってくるなり抱きついて来るのに、下を向いている。
アランのことだからきちんと話してくれるはず。ミランダはいつも通りに食事を用意してアランを待った。
「どうしたの?食べましょう」
「ミラ、配置替えになってしまいました」
「そうなんですか。まあどこへでも行きましょう。あ、引っ越すのですか?」
「そうではないんですが、王子妃の護衛を殿下から直々に……」
「クリスティーヌのですか?」
「はい。」
「それは……なんというか、御愁傷様です」
「帰る時間が遅くなります。それに」
「あの子のことだから、振り回されるでしょうね。アラン、お疲れ様です」
クリスティーヌの護衛はもう十人は替えられている。初めは殿下の焼きもちかと噂になったが、クリスティーヌ妃も噂以上に変人なのだ。
隙があれば抜け出そうとする。
天才的な頭脳をもって最低限の常識と良心しかもたない、とミランダは思っている。
本当に気の毒なことだと思っていた。
「あの子の対処法なら私も少しはお役に立てるでしょう。殿下もそのおつもりでアランを選ばれたのかもしれませんね」
「ミラ、がんばりますが、妹殿に嫌われたりクビにされたらミラに申し訳なくて」
「そんなことはありませんわ。アランは常識的なのであの子の好みの変人ではありませんわ」
言ってから、あらこれは殿下に不敬ですわね、とクスクス笑った。
その様子にアランは感動してキスをして、止まらなくなって抱きしめていたけれど
「食事が先ですよ」
と手をつねられた。
「ありがとう、暴走する俺を止めてくれるところも好き」
私も、素直にいつも愛情を伝えてくれるアランが好き。
言葉にはしなかったけれど頬に軽いキスを返した。
それから二週間。
アランはやつれていた。
「アラン、ありがとう。クリスティーヌは奔放なところが魅力なんだけど、買収されないし魅了されない護衛はアランしか居ないと思って」
殿下に誉められた。
買収はされない。
魅了なんかされるわけがない。
姉妹といってもこんなに違うのかと思う。
ミランダが常識人で本当に良かった。しかもミランダはずっとこの奔放な妹の尻拭いをしてきたのだろう。
だからあんなに優しく穏和で辛抱強く内面が素晴らしいんだ。
それに引き換え。
王子妃は研究をしているかと思えば外に出ている。目が離せない。
奔放?
そんな言葉で表現しきれない。
「ねえ、ちょっと街に出たいのだけど」
「いけません。午後は講義があります」
「ちょっとだけだってば」
「無理です」
「頭の固い男はお姉ちゃんに、飽きられるかもよ」
ギリィッ。
それでもクリスティーヌ妃は能力は高く対外的にはきちんとした態度もとっている。
アランや、殿下の前では気を抜いているのだろうか。身内として認められているなら喜ぶべきことなのかもしれない
「ねえ、お姉ちゃんの子供の頃の話、教えてあげるから一時間だけ護衛を離れてくれない?」
「…………無理です。ミラの話はミラから聞きたいです」
「愛されてるねえ」
殿下が来たときにはアランは休憩できる。
はずだった。
「なんで、塀の外にいらっしゃるんですか。殿下は?」
「見つかっちゃったかー!
お茶に一服盛っただけよ」
……殿下、あなたほんとうにこの頭のネジの外れた方を愛してらっしゃるんですか
慌てて殿下を見に行くと、
「ああ、あれはクリスティーヌの照れ隠しで。本当は私が睡眠不足だから昼寝をするように薬を特別に配合してくれたんだよ。愛されてるだろう」
殿下、本当にあなた大丈夫ですか。
あんな方を妃にだなんて、王宮に閉じ込められるとでも思ってやがりますか?正気ですか
でも、殿下がクリスティーヌ妃を選らばなかったら
ミランダとアランの政略結婚もなかったわけで。
アランは二人に返せない恩がある。
そこもきっちり二人に押さえられてそうで、アランは耐えるしかなかった。
早く帰ってミランダに、労ってもらおう。
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