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31.結婚式

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新緑の季節に行われたその結婚式は前代未聞のものだった。
断片的に注目を集めていたものの、全貌が明らかになったのは当日で、参列した客も平民も、皆が驚いていた。

王族が行う大聖堂での結婚式を特別に許可された。

花嫁のドレスは歩く度にふわふわと裾が揺れた。

「雲のような、霧のような透ける布を何枚も重ねて、今までに見たことのないドレスなのになぜか懐かしい柔らかい気持ちになりました。
フローラ様の清楚な美しさを引き立てて、散りばめられた宝石が雫のようで、あれが綿なのですか?」

「私は今まで絹が最高で、あの光沢が好きだったんですが大聖堂のステンドグラスの光を柔らかく受け止めるあのドレスとフローラ様が忘れられませんわ」

「それに、なんと言っても御披露目の!
王城の庭園の緑とフローラ様のドレスが本当に素晴らしくて。重なりあう布がほんの少しずつ染めてあるんですってね。髪に、生花を飾るのも真珠を飾るのも、妖精のようでした!ドレスが軽いのですね、すいすいと動かれてダンスまで!」

フローラのドレスは令嬢たちの注目を集めた。
フローラは参列した客と笑い、食事を食べ、ラルフと何か囁きあっては笑っていた。

「本当に、素敵なお二人ねえ」

目にした者がそう言わずにはいられないほど、どこも笑顔で溢れていた。

そっと賑やかな空間から離れて、人影が移動する。

「ベン、着いてきてるんでしょ」

「ニナ殿下」

ベンも今日は作業着ではなくジャケットを着用している。

ニナ殿下はベンの手を取った。
「ニナ様、なにを!いけません。ワシの手は洗っても汚いです」

「そんなことないわ。
働き者の手よ。
お互い歳をとってしまったわね。あなたが元気で庭を変わらず守ってくれて嬉しいわ。本当に、夢に見ていたのよ」

「ニナさま」

「故郷を思うとき、この庭園を思い出していたわ。家庭教師に叱られたときも弟が生まれて母さまをとられた気がした時も、ここで泣いてたの」

「そう、でしたね」

「ベンは、植え込みを少しだけ刈り取らずに残していてくれたでしょう」

「たまたまですよ」

「私が隠れられるくらいの茂みを残して、そこに野スミレを咲かしてくれた。」

「雑草を引くのを忘れただけです」

「あの株が、私の愚痴を聞いてくれるお友達だったのよ。
結婚して帰ってこれないことも話した
お別れもしたわ。
仕方ないわよね、まだ十歳にもならないのに、誰にも弱音は吐けなかった」

「でも、結婚した人は幸いいい人で、上手くいってたわ。あの国にも、野スミレがあったの。土が違っても咲いていたのよ。視察の時にみつけて、どうしても欲しくて鉢にもらってきたの。そこから増やして、王宮にスミレだけの小さな花壇を作ったのよ」

「きれいでしょうな。

ワシが、こんなことを言うと不敬かもしれませんが」

「許します。」

「ニナ様は、本当によく頑張られました。昔から辛抱が良すぎて心配しておりました。立派なレディになられて、その、この庭をもう一度ニナ様に見てもらい、がっかりされないことがワシの仕事の支えでした」

「ふふ、本当にありがとう。
それに、あの二人のおかげね。この庭園がこれからも誰かの一生の思い出に残るのだと思うと嬉しいわ」


ニナ殿下がハンカチで目元をおさえる。その姿を陛下と王妃が見ていた。

「本当に、素晴らしいタイミングだった」

ラルフの同僚たちも王宮なら来るのが容易かった。
仕事をしている外の部署の人間も祝いを言いに来てくれた。
後で聞くと、親しくなった男女が何人かいたようだ。


結婚式をのあと、二人は王都の侯爵邸の離れに住む。

「フローラ疲れてはいないか?」

「疲れました。でも、こんなに幸せな疲れは初めてです。準備したことが全部叶って皆さんに喜んでもらえて、お天気も良くて、最高でした」

「君が主役なのに、精一杯皆をもてなしたんだね。」

「ラルフ様もお疲れさまでした。」

「私はなにもしてないから。フローラを見ているだけで楽しかった」

「私もラルフ様の衣装を詳しく教えてもらってなかったので、びっくりして何度も見てました」

アンリさんのサプライズで、ラルフの衣装も仕掛けがあった。裏地を少しだけ見せるような裁断だった。

「フローラ、忘れてるかもしれないけど私にとってはこれからも本番だから」

珍しく悪戯めいた目で見つめられてフローラは理解した

そう、初夜だ。

「まさか本当に忘れていたの?」

「忘れてないですけど、考えないようにしていたといいますか、その。


ラルフ様の意地悪っ」

「とりあえずゆっくり湯につかっておいで」

部屋から出たラルフは、
口を抑えて自室に走った。

(あれは可愛すぎるな、危険だ。今日は疲れているだろうから無理はできないが、可愛い)

余裕がなくて情けない。
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