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30. いたたまれない

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ベッドにそっと音を立てないように近づくと、フローラはまだ、眠っていた。
その事に安堵する。

賢く強く、芯のあるフローラの無防備な姿を知るのは自分だけだと思うと顔がゆるんで しまいそうだ。


夜会で見かけてから目で追うようになったのはいつからだったか。容姿が慎ましく好ましいと思ったけれど、目立つタイプではない。
人の多い夜会で見つけようとしたから、見つけられたのだ。
フローラにとって良い伴侶になれるだろうか。

自分が間違ったことをしたときにフローラは正してくれると思う。
額にキスをすると、身じろぎした。

目が開き、瞬きをして、赤くなる。

「おはよう」
「おはよう、ございます」

すみません、と身を縮めて恥ずかしそうにしているフローラに笑ってしまう。

「どうして君が謝るの。私のせいなのに」

「いえ、ラルフ様はお疲れなのにお話してしまって、申し訳なかったと」

そうモゴモゴと言い終わる前に抱き締められていた。

「可愛いし、本当にもうどうしていいかわからなくなりそうだ。フローラに会う前の自分は、どうして君なしで平気で居られたんだろう。」

ぎゅうぎゅうと抱きしめながら頬擦りをされて、フローラは更に赤くなる。

「ラルフ様は、そんなことをあまり、言わない人だと思っていました」

「そうだね、私も女性をこんな風に大切に思うことはなかった。仕事を常に最優先で、女性の意見もこれから先は必要だと思っていたからなるべく話しかけられたら応対はしていたが、正直つまらなかった」

「そうなのですか?」

「夜会などで話しただけなので、その人の好むものや価値観などは知らない。深く話せば興味深いと思う人も居たかもしれない。それでも、だいたいの女性は私が気に入るであろう話題や返答をするので、皆同じに見えた。彼女らも、誰かにとっては掛け替えのない人かもしれないからつまらない人間のように言っては失礼だな。少なくとも私にとってはそのように、感じた。」


フローラは、ラルフのこういう謙虚であろうとするところも好きだ。

お茶を届けてくれたので、二人で飲んだ。

こんな風に、朝も夜も、次の朝も。
この人と生きていくというのはそういうことなんだと思った。
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