27 / 32
27.帰りを待ちながら
しおりを挟む
ラルフ様の帰りを待って一緒に食事をしようと思っていたけれど、もう日も暮れている。途中で何か手違いがあって宿に泊まるということも考えられる。
それでも、待ちたいと思った。
ラルフ様が帰りたいと思っているのなら、待ちたい。もし何かあれば連絡をくださる筈だし。
いえ、本当のところは何をしていても落ち着かないから、時間つぶしを思い付かないだけかもしれない。
夜会でラルフ様と話していた時は、恋人らしい雰囲気ではなかったし婚約なんて考えもしていなかった。
婚約者になってからとても大切にされている。
彼を待つ時間は、なにもしなくても無駄だとは思わなかった。
用意された軽食とお茶。
クラッカー、チーズ、サンドイッチ。ブランデー漬けのフルーツの入ったケーキ。
侯爵家の皆さんが本当によくしてくださって、ご両親も仲良くて羨ましい。こんなふうにラルフ様と歳を重ねていけるといいな。
馬車の音がした気がして見下ろすと、門をくぐるところだった。
ブランケットを肩にかけて
一階へ降りる。
門番の一人が玄関ホールのなかまで来て家令に話している。
どうやら、ラルフ様は馬車の中で眠られているようだった。
「お疲れなのですね」
しかし、男性を担ぐことは簡単ではなく馭者も声をかけるのみだった。
起こしていいものかどうか、と言いに来たのだった。
それでも馬車の中では安眠できないし、起きていただく方がいいだろうとの意見で一致した。
「あの、もしかしたら」
声をかけると、皆が振り返った。
「お茶を差し上げても良いでしょうか。」
「フローラ様の声で起きるかもしれませんね」
馭者が笑って舌を出して、家令に咳払いをされた。
「だって若様、とにかく早く走らせてくれって。婚約者様によっぽど会いたかったんでしょう」
フローラが頬を押さえて赤くなった。
ハーブティーを入れてフローラが馬車のドアを開けた。
ラルフは頭を抱えるようにして眠っていた。これは体が痛くなりそうな体勢だと思った。
「ラルフ様、お茶をどうぞ」
瞼が、少し動いた。
「ん、ありがとう。フローラ」
眠っているのかまだ目は開けず、ふにゃっ、と笑った。
「!」
かわいい。
思わず、他の使用人たちと顔を見合せる。
あきらかにニヤニヤしている者もいる。
「ラルフ様、おかえりなさい。」
肩を揺すると、目があいた。
「ただいま、フローラ」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
お茶を差し出すと、ゆっくりと飲んでくれた。
少しは暖まっただろうか。
「ラルフ様、歩けますか」
「うん、」
まだ眠そうなので門番が手を添える。
屋敷に入ってから、ラルフ様が瞬きをした。
「フローラ、待っててくれたのか」
頷くと、抱き締められた。
「こんなに遅くなってごめん、もう休んでると思ってた。ありがとう」
「ラルフ様、お食事は?」
「軽く済ませた。フローラは済んでる?」
「私も軽く頂きました」
「もしよろしければ、軽くつまむものをお部屋にお持ちしますが」
そう声をかけられて、抱き合ったままだと二人は気づいて赤くなった。
「もう少し話したいけど、いい?」
「はい、私も。」
「じゃあ、ワインとお茶も頼む。」
「どちらのお部屋にお持ちすれば?」
二人とも固まる。
ラルフの私室にフローラを呼ぶのも
フローラの使っている客室を訪れるのも
この時刻に未婚の男女が、しかも両親がいるのにまずい気がする。
(婚約者だし屋敷内のことで外聞を気にする必要はない。ただ、理性がもつかどうかだな)
ラルフはため息をついて、フローラが使っているのとは別の客室に用意するように頼んだ。
フローラが案内された部屋にいると、ラルフが着替えてやってきた。
「ラルフ様、お疲れですよね。早くお休みになった方がいいのでは」
「そう、なんだけどね」
珍しく歯切れが悪い。
それでも、待ちたいと思った。
ラルフ様が帰りたいと思っているのなら、待ちたい。もし何かあれば連絡をくださる筈だし。
いえ、本当のところは何をしていても落ち着かないから、時間つぶしを思い付かないだけかもしれない。
夜会でラルフ様と話していた時は、恋人らしい雰囲気ではなかったし婚約なんて考えもしていなかった。
婚約者になってからとても大切にされている。
彼を待つ時間は、なにもしなくても無駄だとは思わなかった。
用意された軽食とお茶。
クラッカー、チーズ、サンドイッチ。ブランデー漬けのフルーツの入ったケーキ。
侯爵家の皆さんが本当によくしてくださって、ご両親も仲良くて羨ましい。こんなふうにラルフ様と歳を重ねていけるといいな。
馬車の音がした気がして見下ろすと、門をくぐるところだった。
ブランケットを肩にかけて
一階へ降りる。
門番の一人が玄関ホールのなかまで来て家令に話している。
どうやら、ラルフ様は馬車の中で眠られているようだった。
「お疲れなのですね」
しかし、男性を担ぐことは簡単ではなく馭者も声をかけるのみだった。
起こしていいものかどうか、と言いに来たのだった。
それでも馬車の中では安眠できないし、起きていただく方がいいだろうとの意見で一致した。
「あの、もしかしたら」
声をかけると、皆が振り返った。
「お茶を差し上げても良いでしょうか。」
「フローラ様の声で起きるかもしれませんね」
馭者が笑って舌を出して、家令に咳払いをされた。
「だって若様、とにかく早く走らせてくれって。婚約者様によっぽど会いたかったんでしょう」
フローラが頬を押さえて赤くなった。
ハーブティーを入れてフローラが馬車のドアを開けた。
ラルフは頭を抱えるようにして眠っていた。これは体が痛くなりそうな体勢だと思った。
「ラルフ様、お茶をどうぞ」
瞼が、少し動いた。
「ん、ありがとう。フローラ」
眠っているのかまだ目は開けず、ふにゃっ、と笑った。
「!」
かわいい。
思わず、他の使用人たちと顔を見合せる。
あきらかにニヤニヤしている者もいる。
「ラルフ様、おかえりなさい。」
肩を揺すると、目があいた。
「ただいま、フローラ」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
お茶を差し出すと、ゆっくりと飲んでくれた。
少しは暖まっただろうか。
「ラルフ様、歩けますか」
「うん、」
まだ眠そうなので門番が手を添える。
屋敷に入ってから、ラルフ様が瞬きをした。
「フローラ、待っててくれたのか」
頷くと、抱き締められた。
「こんなに遅くなってごめん、もう休んでると思ってた。ありがとう」
「ラルフ様、お食事は?」
「軽く済ませた。フローラは済んでる?」
「私も軽く頂きました」
「もしよろしければ、軽くつまむものをお部屋にお持ちしますが」
そう声をかけられて、抱き合ったままだと二人は気づいて赤くなった。
「もう少し話したいけど、いい?」
「はい、私も。」
「じゃあ、ワインとお茶も頼む。」
「どちらのお部屋にお持ちすれば?」
二人とも固まる。
ラルフの私室にフローラを呼ぶのも
フローラの使っている客室を訪れるのも
この時刻に未婚の男女が、しかも両親がいるのにまずい気がする。
(婚約者だし屋敷内のことで外聞を気にする必要はない。ただ、理性がもつかどうかだな)
ラルフはため息をついて、フローラが使っているのとは別の客室に用意するように頼んだ。
フローラが案内された部屋にいると、ラルフが着替えてやってきた。
「ラルフ様、お疲れですよね。早くお休みになった方がいいのでは」
「そう、なんだけどね」
珍しく歯切れが悪い。
1
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる