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21.博物館にて

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古代遺跡の出土品が展示されていた。

講演会があるらしく人が集まっている。
保存や補修の部の管轄なので、王宮からも何名か派遣されている。
ラルフは同期のジェフに頼んで手伝うことにした。
「意外だな、こういうの興味あったっけ」

「ちょっと、気になることがあって。」

「あれか?偽物婚約者」

「知ってるのか?」

「まあね。何回か見た。お前を直接知ってる俺たちからしたら、ラルフがそんなこと言うわけないだろって感じだけど。」

「どんなことを?」

「婚約者が仕事で忙しいから、この展示を代わりに見てきてくれ、とか。
あの先生とお近づきになってくれ、とか。この資料を借りてきてくれ、とか。それはさ、頼られているって自分をよく見せるための見栄だとしても。ラルフが婚約者を便利使いするということだろ?それは貶めることでもあるのに。あ、安心しろ。全然信用してないからな。」

「ありがとう。俺は放っておいてもいいんだが、彼女が誤解されるといけないので」

ジェフは笑った。
「忙しいだろうけど、本当の彼女とあちこち出掛けるのが一番手っ取り早いぞ。博物館は来月は衣装と家具の展示を予定してるから令嬢も親しみやすいんじゃないかな」

「ありがとう。話してみる」

作業員は平民も多く、王宮からの派遣の者とは服装が違う。ジェフは説明の時のためにスーツを着ていたが、その上に防寒のためのジャケットを着ていた。作業員と同じものだ。
ラルフも防寒着を借りた。
帽子も借りて埃よけのマスクも借りた。

「似合うじゃないか」

「発掘作業も今度手伝ってくれよ」

そんな声がかかる。

資料整理を手伝いに来たのに、早く終わったので陳列も手伝ったり人の整理もこなしていた。

「おい、現れたらしいぞ。
講演会のあとに、他の客と談笑するのが多い」

ジェフに、言われて探してみると。
ベール付きの帽子で顔はよく見えないが、雰囲気で若い令嬢とわかる姿が見えた。

端の方で紳士と話している。奥方も合流した。
和やかに見えたが、少し近づいてみて、背筋が寒くなった。

何やってるんですか、アリア様と侯爵。
侯爵は変人博士ではなくきちんとした侯爵の格好で。アリア様も眼鏡をかけて、服装は華美ではなく衿もつまっていて、どこかの教師のようです。

逃げろ、逃げてくれ知らない令嬢。

自分も彼女を追い詰めるつもりで来たのに、ついそう思ってしまった。

アリア様とバッチリ目が合ってしまった。

逃げたい。
手招きされている。

「あら、紹介するわ。友人の息子ですの」

令嬢は、さっと上から下まで見ると、興味の無さそうな顔をした。
「今日はこの発掘の手伝いに来ていたのね。『奇遇だわあ。』『あなたも気になって来たのね』」

逃さないわよ、という圧を感じる。
「ええ、まあ」

すると、さっきまで令嬢と話していた別の紳士が話しかけてきた。
「こちらのお嬢さんは若いのに知的好奇心に溢れていて素晴らしい。君のような考古学に興味のある人となら話も合うんじゃないか?」

お節介はどこにでもいる。
令嬢は多分平民だと思ったのだろう。
「残念ですが、私には婚約者が居ますので。
彼は仕事が忙しくて来られませんが、また一緒に展示に来たときには説明をお願いいたしますわ」

「まあ、お忙しいのね。どちらにお勤めかしら」

「あまり言えないのです。王族のかたの側近候補ですので」

「まあ、お嬢さんの年頃の相手で側近候補だなんて。
もしかして、優秀なあの方かしら。そういえば、お嬢さんにも見覚えがあるような気が……夜会で遠くから拝見したことがあるのかしら。あまり若い方に知り合いがいなくて、間違っていたらごめんなさいね。お名前をお聞きしても?」

「いえ、実はこっそり来ていますので、名前は秘密ですの。彼にも誰にも名乗らないように言われています」

アリア様、怖いです

「おーい、ラルフー!なあ、ラルフ見なかったか?」

ジェフの声がする。

「あら、ラルフ様がここにいらっしゃるのかしら。
もしかしてお嬢さんと待ち合わせを?」

令嬢は、見るからにビクビクして青い顔をしている。

「いえ、その、人間違いですわ、私は、別にその」

「呼んできましょうか?」

侯爵がにっこり笑う
楽しんでる!さすがアリア様の伴侶。

「ジェフ、何言ってんだよ。ラルフは領地に戻るって帰ったよ」

助かったーーーー!

ラルフも二人の思惑がわからないし、ジェフ達とどういう打ち合わせなのかもわからない。
目の前の令嬢もほっとしている。
「では、私はこれで失礼し……」

「婚約者が領地にいるから、迎えにいくって珍しくはしゃいでたじゃないか」

アリア様と侯爵様が令嬢をじっと見つめる。

何も言わないのが怖い。

「あの、私、ラルフ様とは関係なくて」

令嬢が泣きそうな声で言った。

「どうして誤解されるような言動をしたんですか」

ブルブルと震える令嬢を、博物館のホールから連れ出して話を聞いた。
ジェフがお茶を運んできた。

「初めは、フローラ様がラルフ様と婚約されたと聞いて、羨ましかったんです。あまり目立たないけれど多分知的な方で、私は外見を飾るのに飽きていて、中身を磨こうって。でも、令嬢が居なくて注目されて話しかけられたりして嬉しくて」

ハンカチで目元を押さえながら、令嬢は言った。

「初めは悪気がなくても、誰かを騙るのは罪だ」

「はい、申し訳ありませんでした。もう、しません」

令嬢は何度もお辞儀をして帰ろうとした。

「あ、でもあなたが来てくれて俺は嬉しかった。若い方がどんな理由であれ博物館に来てくれて。
次は、興味のある展示があれば、本当のあなたに見に来てほしい」

ジェフが声をかけると、またハンカチで目を覆って泣いた。

「アリア様、気が済みましたか」

「まあね。あんまり悪質じゃなくて良かったわ」

「悪質だったら、色んなプランがあったんだよ。ラルフ殿、聞きたいかい?」

「遠慮しときます。」

ラルフはアリア様と侯爵の武勇伝を母から聞いているので、あまりこの二人を怒らせないようにしようと思った。













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