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18. 偽物

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王都にある有名な菓子店で事件が起こった。
その店を有名にしたともいえるクッキーが、他の店で安価に売られていたというもの。

形を真似しただけではなく味もそっくり。
店を辞めた菓子職人がレシピを覚えていて作ったのだった。

菓子職人の腕は確かで、明らかに別物であれば問題なかった。
二つの店のクッキーを食べ比べる客もいて、売り上げはどちらも伸びた。

似ていると比べたくなるのが人の心というものだ。

「確かによく似てるわね。私はこちらの方がサクサクしていて好きですわ」

アリアは貰ったクッキーの皿を差した。

「僕は君の買ってくれた以前からの方が好きだな。でもこれはノスタルジー加算かもしれない。子供の頃からお気に入りだったから」

アリアの夫である侯爵とお茶をしていた。

「クッキーならこうやって比べるのも簡単だし、どちらも美味しければ罪は無いのよ。クッキーにはね。作った人間の罪は別として」

「そうだね。騙ることで失うものもあるのに」

侯爵は『博士』という愛称で知られる。発明を趣味としていて自宅に実験工房を持つ。

もう一つの趣味は変装で、「変人の博士」の格好であちこちに出かける。そちらが知られすぎて、正装してきちんと侯爵として振る舞っていたところ、謎の貴族として噂になったこともある。
 
「では、あなたの見た偽物令嬢の話をもう一度教えてくれる?」

『ラルフ殿の婚約者を騙る者』のことを話したら、怒りの表情だった。今はノートとペンを手にしている。アリアの取材モードだ。

「僕が会ったのは博物館の講演のあとだ。質問を待つ人の間で若い令嬢は目立っていた。数人と話していたかな。内容は『自分の婚約者も頭がいい、忙しくてこういう場にこられない』と。
僕の知り合いは薬局で見たと言っていた。図書館でも見るらしい。知的なお嬢さんを好む男性がいる場をよく考えているね」

「若い男性の気を引きたいのかしら」

「若くないけど独身の男性はそれなりにいるし、親世代からも好感はもたれるだろうね」

「なにがしたいのかしら。フローラを攻撃するつもりなら許さないけど」

「自分からはラルフ殿の名前は出さないけれど、話を聞いた相手がそう思っているね」

「夜会などでは、ラルフ様とフローラは一緒に出席するので、皆さん容姿もご存知でしょうけど。遠くから見たくらいでは、普段の格好は見間違えますわね」

侯爵はアリアの考え込むところが好きだったので、邪魔しないようにお茶のおかわりをメイドにそっと頼んだ。







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