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11. 結婚までに恋をする
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結婚の準備というものはいくらでもやることがあって、一つ終われば次の段取りがある。
フローラは、ぼんやりとすることが増えた。
本当に結婚していいのかしら。
両家は祝福してくださっているし、ラルフ様も私のことを評価してくださっている。穏やかな家庭を築いていく相手として。
でも、私は最近はおかしい。
ラルフ様に本当の愛する人が出来たときに、冷静に身を引くことが出来ないと思う。
それなら結婚前にラルフ様に好きな人ができて破談になる方がマシかもしれない。
とさえ思う。
起こってもいないことで悩むなんて無駄なことだと思っていた。恋愛は不安が増えるものだと知った。
ラルフ様と会う時に今日こそ話してみようと思うのだけれど、ラルフ様はどちらの屋敷でも二人きりにならないようにしているようだ。
あとは商会やドレスのデザイナーとの打ち合わせ。
夜会で、唇を合わせたのも一瞬のこと。それ以来は全く触れなかった。
「フローラ?もしかして結婚に乗り気ではないの?」
商会のあとで馬車の中でラルフ様にそう聞かれた。
「そんなことは。
いえ、幸せすぎて、実感が無いんです。きっと。」
「実は私も」
「え?」
「こうして昼間に約束してフローラと会えるなんて。未だに実感がない。
君が来るかどうかわからない夜会に顔を出して、君を探してさりげなく寄っていって。少し話をして満足して帰る。そんなことを繰り返していたんだ。」
びっくりして声が出なかった。
それは、まるで
「君に会えたら満足だった。そんな幸せが結婚したら毎日続くかと思うと、現実とは思えない。
私は、それが恋だと気づくのにとても時間を費やしてしまった。」
ほんとうに、私を?
「わたしは、恋が、怖くて」
急かさずにラルフ様は聞いてくれる。
「他の人のいう、激しい感情や自分が自分でなくなるよあうなことが、どうしても楽しいとは思えなくて。
ただ、穏やかに過ごしていたかったんです」
ラルフ様はまっすぐ見つめてくれる。
「もし、ラルフ様が同じように穏やかなことを望まれて、私に申し込んでくださって。
そのあと、ラルフ様が誰かを本当に好きになったときには身を引こうと思っていました。
それに、私がラルフ様に恋をして激情をぶつけたり嫉妬したら、がっかりされてしまうのではないかと怖くて」
ずっと抑え込んでいた気持ちかこぼれてしまう。
「フローラがいつも穏やかなことを好む人で、そこに好感を持っていた。惹かれたのも事実だ。
でも、ごめんね。先に激情を抑えきれずに君をつかまえたのは私だ。
私もフローラにがっかりされないかと不安だ。でももう離してあげられない」
ラルフ様は手をつかんでキスを落とした。
「結婚までに、二人で恋を練習しよう。私たちは真面目だからきっと優秀だよ」
笑って、頷くと、涙がこぼれた。
ほっとしたときにも流れるのか。
ラルフ様が身を乗り出して、涙のあとを唇でなぞった。
「こういうことにも、慣れて欲しいような、慣れて欲しくないような。矛盾だらけで申し訳ない。
色んなフローラが見たい。一生かけて」
フローラは、ぼんやりとすることが増えた。
本当に結婚していいのかしら。
両家は祝福してくださっているし、ラルフ様も私のことを評価してくださっている。穏やかな家庭を築いていく相手として。
でも、私は最近はおかしい。
ラルフ様に本当の愛する人が出来たときに、冷静に身を引くことが出来ないと思う。
それなら結婚前にラルフ様に好きな人ができて破談になる方がマシかもしれない。
とさえ思う。
起こってもいないことで悩むなんて無駄なことだと思っていた。恋愛は不安が増えるものだと知った。
ラルフ様と会う時に今日こそ話してみようと思うのだけれど、ラルフ様はどちらの屋敷でも二人きりにならないようにしているようだ。
あとは商会やドレスのデザイナーとの打ち合わせ。
夜会で、唇を合わせたのも一瞬のこと。それ以来は全く触れなかった。
「フローラ?もしかして結婚に乗り気ではないの?」
商会のあとで馬車の中でラルフ様にそう聞かれた。
「そんなことは。
いえ、幸せすぎて、実感が無いんです。きっと。」
「実は私も」
「え?」
「こうして昼間に約束してフローラと会えるなんて。未だに実感がない。
君が来るかどうかわからない夜会に顔を出して、君を探してさりげなく寄っていって。少し話をして満足して帰る。そんなことを繰り返していたんだ。」
びっくりして声が出なかった。
それは、まるで
「君に会えたら満足だった。そんな幸せが結婚したら毎日続くかと思うと、現実とは思えない。
私は、それが恋だと気づくのにとても時間を費やしてしまった。」
ほんとうに、私を?
「わたしは、恋が、怖くて」
急かさずにラルフ様は聞いてくれる。
「他の人のいう、激しい感情や自分が自分でなくなるよあうなことが、どうしても楽しいとは思えなくて。
ただ、穏やかに過ごしていたかったんです」
ラルフ様はまっすぐ見つめてくれる。
「もし、ラルフ様が同じように穏やかなことを望まれて、私に申し込んでくださって。
そのあと、ラルフ様が誰かを本当に好きになったときには身を引こうと思っていました。
それに、私がラルフ様に恋をして激情をぶつけたり嫉妬したら、がっかりされてしまうのではないかと怖くて」
ずっと抑え込んでいた気持ちかこぼれてしまう。
「フローラがいつも穏やかなことを好む人で、そこに好感を持っていた。惹かれたのも事実だ。
でも、ごめんね。先に激情を抑えきれずに君をつかまえたのは私だ。
私もフローラにがっかりされないかと不安だ。でももう離してあげられない」
ラルフ様は手をつかんでキスを落とした。
「結婚までに、二人で恋を練習しよう。私たちは真面目だからきっと優秀だよ」
笑って、頷くと、涙がこぼれた。
ほっとしたときにも流れるのか。
ラルフ様が身を乗り出して、涙のあとを唇でなぞった。
「こういうことにも、慣れて欲しいような、慣れて欲しくないような。矛盾だらけで申し訳ない。
色んなフローラが見たい。一生かけて」
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