上 下
11 / 32

11. 結婚までに恋をする

しおりを挟む
結婚の準備というものはいくらでもやることがあって、一つ終われば次の段取りがある。
フローラは、ぼんやりとすることが増えた。

本当に結婚していいのかしら。
両家は祝福してくださっているし、ラルフ様も私のことを評価してくださっている。穏やかな家庭を築いていく相手として。
でも、私は最近はおかしい。
ラルフ様に本当の愛する人が出来たときに、冷静に身を引くことが出来ないと思う。
 それなら結婚前にラルフ様に好きな人ができて破談になる方がマシかもしれない。
とさえ思う。
起こってもいないことで悩むなんて無駄なことだと思っていた。恋愛は不安が増えるものだと知った。

ラルフ様と会う時に今日こそ話してみようと思うのだけれど、ラルフ様はどちらの屋敷でも二人きりにならないようにしているようだ。
あとは商会やドレスのデザイナーとの打ち合わせ。

夜会で、唇を合わせたのも一瞬のこと。それ以来は全く触れなかった。
「フローラ?もしかして結婚に乗り気ではないの?」

商会のあとで馬車の中でラルフ様にそう聞かれた。 

「そんなことは。
いえ、幸せすぎて、実感が無いんです。きっと。」

「実は私も」

「え?」

「こうして昼間に約束してフローラと会えるなんて。未だに実感がない。
君が来るかどうかわからない夜会に顔を出して、君を探してさりげなく寄っていって。少し話をして満足して帰る。そんなことを繰り返していたんだ。」

びっくりして声が出なかった。

それは、まるで

「君に会えたら満足だった。そんな幸せが結婚したら毎日続くかと思うと、現実とは思えない。
私は、それが恋だと気づくのにとても時間を費やしてしまった。」

ほんとうに、私を?

「わたしは、恋が、怖くて」

急かさずにラルフ様は聞いてくれる。
「他の人のいう、激しい感情や自分が自分でなくなるよあうなことが、どうしても楽しいとは思えなくて。
ただ、穏やかに過ごしていたかったんです」

ラルフ様はまっすぐ見つめてくれる。

「もし、ラルフ様が同じように穏やかなことを望まれて、私に申し込んでくださって。
そのあと、ラルフ様が誰かを本当に好きになったときには身を引こうと思っていました。
それに、私がラルフ様に恋をして激情をぶつけたり嫉妬したら、がっかりされてしまうのではないかと怖くて」

ずっと抑え込んでいた気持ちかこぼれてしまう。

「フローラがいつも穏やかなことを好む人で、そこに好感を持っていた。惹かれたのも事実だ。
でも、ごめんね。先に激情を抑えきれずに君をつかまえたのは私だ。

私もフローラにがっかりされないかと不安だ。でももう離してあげられない」

ラルフ様は手をつかんでキスを落とした。

「結婚までに、二人で恋を練習しよう。私たちは真面目だからきっと優秀だよ」

笑って、頷くと、涙がこぼれた。
ほっとしたときにも流れるのか。
ラルフ様が身を乗り出して、涙のあとを唇でなぞった。

「こういうことにも、慣れて欲しいような、慣れて欲しくないような。矛盾だらけで申し訳ない。
色んなフローラが見たい。一生かけて」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

処理中です...