上 下
6 / 32

6.  うちの息子が申し訳ない

しおりを挟む
婚約の挨拶にラルフ様が来てくださることになっていたのですが、日にちがなかなかまとまらず。

両家の顔合わせも兼ねて侯爵家での晩餐会となりました。

私たちは午後のお茶会から親睦を深め、そこにお仕事を終えたラルフ様が帰宅されるということになりました。

きっとこれも異例なのですが侯爵家からの提案を断わるわけにもいきません。
それに、どんな形でも緊張するのなら一度に済むほうがいいと思いました。

父と母は侯爵家の夜会や茶会に参加したことがあるそうです。
いつ見ても素敵なお庭ねえ、と母は喜んでいました。

玄関ホールで侯爵夫人が待ってくださっていました。
「まあ、侯爵夫人!お待たせして申し訳ありません」

母と私が頭を下げると、
侯爵夫人が母の手を取りました。
「よく来てくださったわ。私、アリア様からお話をよく聞いていたのでメラニー様もフローラ嬢も初めてお会いした気がしませんの。どうぞ気楽になさってね」

メラニーというのは母で、アリアというのは母の従姉にあたります。侯爵夫人とは学園からの親友で今でも親しくされているそうです。

ラルフ様が真面目な方なのでお義母様になられる方も誠実な方だろうなと思っていたのですが、厳格な方という場合もあるなと思っていました。
でもとても柔らかな雰囲気の方でした。

侯爵と父も会話をしていて、和やかに庭園でお茶会が始まりました。

和やかに始まろうとしたのですが、
侯爵と夫人が真剣な顔で頷いたあと
「この度はうちの息子がすみませんでした!!!」

と頭を下げられました。

「頭をお上げになってください」
あわててこちらの三人が言ってもそのままで、周りを見渡しても使用人の方まで深々と、頭を下げていらっしゃいます。

「フローラ、こんなに謝られるような、もしや、まさかとは思うが彼と、まさかもう?」

父が涙目で震えています。

「まあ、若い二人が合意の上で更にきちんと縁を結んでくださったのですから、ねえ」

母も乾いた声で震えています。

「え?」

侯爵夫妻も一旦驚いて顔を上げて、
「ええっ?」

夫人は侯爵に寄りかかりました。
「まさか、そんな、こんな急に事を進めて仕事ばかりしていると思ったらやることやってるなんて、なんてお詫びしたら」

「あのっ!誤解です!
ラルフ様とは、夜会以外で個人的にお会いしたことはありませんから」

ベテラン侍女がお茶のワゴンを運んできた。

「僭越ながら、皆様一度落ち着かれてはいかがでしょうか。お茶をどうぞ。その後にそれぞれの情報のすり合わせをなさるのがよろしいのでは」

「その方が良さそうね。取り乱して申し訳なかったですわ。とりあえず、うちの息子がこの場にいないことが誤解の原因なのだけれど。」

夫人がため息をつきながら席に座った。

「仕事ばかりでしようのない息子ですが、皆様とは末長いお付き合いになるわけですから、誤解をゆっくり解くのも良いでしょう。さ、うちのシェフ自信作の焼き菓子です。温かいうちにどうぞ」

侯爵もすすめてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

かつて「お前の力なんぞ不要だっ」と追放された聖女の末裔は、国は救うけれど王子の心までは救えない。

当麻月菜
恋愛
「浄化の力を持つ聖女よ、どうか我が国をお救いください」 「......ねえ、それやったら、私に何か利点があるの?」  聖なる力を持つ姫巫女(略して聖女)の末裔サーシャの前に突如現れ、そんな願いを口にしたのは、見目麗しいプラチナブロンドの髪を持つ王子様だった。  だが、ちょっと待った!!  実はサーシャの曾祖母は「お前のその力なんぞ不要だわっ」と言われ、自国ライボスアの女王に追放された過去を持つ。そしてそのまま国境近くの森の中で、ひっそりとあばら家暮らしを余儀なくされていたりもする。  そんな扱いを受けているサーシャに、どの面下げてそんなことが言えるのだろうか。  ......と言っても、腐っても聖女の末裔であるサーシャは、嫌々ながらも王都にて浄化の義を行うことにする。  万物を穢れを払うことができる聖女は、瘴気に侵された国を救うことなど意図も容易いこと。  でも王子のたった一つの願いだけは、叶えることができなかった。  などという重いテーマのお話に思えるけれど、要は(自称)イケメン種馬王子アズレイトが、あまのじゃく聖女を頑張って口説くお話です。 ※一話の文字数は少な目ですがマメに更新したいと思いますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~

すずなり。
恋愛
夫から暴力を振るわれていた『小坂井 紗菜』は、ある日、夫の怒りを買って殺されてしまう。 そして目を開けた時、そこには知らない世界が広がっていて赤ちゃんの姿に・・・! 赤ちゃんの紗菜を拾ってくれた老婆に聞いたこの世界は『魔法』が存在する世界だった。 「お前の瞳は金色だろ?それはとても珍しいものなんだ。誰かに会うときはその色を変えるように。」 そう言われていたのに森でばったり人に出会ってしまってーーーー!? 「一生大事にする。だから俺と・・・・」 ※お話は全て想像の世界です。現実世界と何の関係もございません。 ※小説大賞に出すために書き始めた作品になります。貯文字は全くありませんので気長に更新を待っていただけたら幸いです。(完結までの道筋はできてるので完結はすると思います。) ※メンタルが薄氷の為、コメントを受け付けることができません。ご了承くださいませ。 ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。

死亡フラグ立ち済悪役令嬢ですけど、ここから助かる方法を教えて欲しい。

待鳥園子
恋愛
婚約破棄されて地下牢へ連行されてしまう断罪の時……何故か前世の記憶が蘇った! ここは乙女ゲームの世界で、断罪され済の悪役令嬢だった。地下牢に囚えられてしまい、死亡フラグが見事立ち済。 このままでは、すぐに処刑されてしまう。 そこに、以前親しくしていた攻略対象者の一人、騎士団長のナザイレが、地下牢に現れて……?

異世界に引っ越しする予定じゃなかったのに

ブラックベリィ
恋愛
主人公は、高校二年生の女の子 名前は、吉原舞花 よしはら まい 母親の再婚の為に、引っ越しすることになったコトから始まる物語り。

処理中です...