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1. なんて無駄なことを

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お茶会の片隅で、小さくため息をつく令嬢。
フローラは、早く帰りたかった。目立たぬように他の令嬢の会話に相槌をうちながら、眠気をこらえていた。

流行のドレスも、学園の恋の噂も次の舞踏会も、わりとどうでもいい。 
基本、ドレスは相手に失礼のない程度ならいいだろうと思っている。
同じ形で十枚くらい仕立ててもらいたいくらいだ。
悩む時間がもったいない。

側に立っていたメイドにお茶のおかわりを頼んだ。濃いめで苦いくらいのをおねがいします。

眠くて眠くて。

というようなことを、礼儀正しく言った。

フローラのことを他の令嬢が笑っているのは知っている

清貧令嬢、壁の花、地味令嬢

だいたいそんな事を言われている。
事実なので構わない。
着飾る人は繁殖期の動物のように目的があるのだから、無駄ではないのだろう。
自分は自由恋愛で結婚したいとも思っていないし両親の納得する人との縁談があれば受けたいと思う。
まあ数年はまだ急かされずにすみそうだ。

とある夜会で彼に声をかけられるまでは、目立つことなんて縁がないと思っていた。

「貴女は、実になんというか、目に優しいな。」

そういって飲み物を片手に壁際にやってきたのは
いつも令嬢に囲まれている
ラルフ・バーリヤ侯爵令息。
当代一の秀才と名高い文官です。宰相補佐官です。青みがかった黒髪とチャコールグレーの瞳、銀色の眼鏡がお似合いの知的な美形です。

誉められたのでしょうか。

「地味なだけです」

「最近の夜会では貴女の容姿しか覚えていない。他の令嬢は喋りすぎるし色がうるさいし誰と話しているのかわからなくなる。」

これは令嬢方が聞いたら悲しまれますね。皆さんアピールが逆効果のようです。

「グラスを持って、軽食を皿にのせていると踊るつもりがないと一目瞭然ですわ」

「なるほど、それは良いことを聞いた」

彼がずっと飲み物を持っているので他の令嬢も違う令息のところへ動いたようだった。

「貴女のような人が好ましい。落ち着いて会話ができる」

「だって皆様、ラルフ様に恋をされているのですから落ち着かないのですわ。
もったいないですわね」

「もったいない、とは?」

「非難するつもりはありませんのよ。ラルフ様のような容姿も頭脳も優れた方ならどんな令嬢も望むままでしょうのに、そういった恋の駆け引きが苦手だなんて。ただ資産としてもったいないことだと思ったのですわ。」

ラルフ様は目を丸くされています。
ああ、また驚かれてしまう。彼も変わり者令嬢だと離れていくかもしれない。
夜会で少し挨拶をするだけの関係だったけれど失くなるとさみしい。
彼は社交の合間に息継ぎのように壁のそばに来る。そこにたまたま私がいるだけ。

「自分の容姿を資産と思ったことはなかったけれど、そうなると肩書きも役職も資産か……すると女性の装飾品や化粧は粉飾決算ではないのか?」

「まあ。ふふふ。女性のおしゃれは武装ですのよ。流行を取り入れてる方は情報収集能力の表れですし、美容に熱心な方は知識が豊富ですのよ。」

「私は今まで彼女たち一人一人に興味を持てなかったが、失礼なことをしていたのだな。」

「値踏みばかりしている男性よりは品性のある態度だと思いますわ。」

「やはり君の発想は面白いし私にとって有益だ。」

今度は私が目を丸くするほうだった。

「ラルフ様のような、優秀な方に有益だなんてまさか」

「いや、ありがたいよ。」

この人は冷たいと言われているけど、真っ直ぐな人なんだわ。
そのうち内面も素敵な令嬢と自然に惹かれあって結婚なさるのね

少し胸が痛んだような気がした。
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