上 下
3 / 13

弟子と弟子

しおりを挟む
カインは胃の辺りを押さえていた。

「あのヘタレ師匠め……」

今日ギリムが弟子を連れてくることになっている。
一応邸の主として挨拶はすると言っていたのに。
こっちは仮面や衝立てまで用意したというのに。

朝起きたら、師匠は書き置きを残して旅立っていた。
『やっぱり無理だ。カインに任せる。よろしく頼む』

王都の菓子店から女性の好きそうな菓子を頼んだり、殺風景な邸のあちこちに花を生けたり、こっちは気を遣って準備していたというのに。
使用人は女性の客を迎えること自体が初めてなので、張り切っていた。

「ドレスは何着くらい用意しましょう」
「滋養に良いものを食べていただきましょう」
「入浴剤を買ってきました」

「待て。一旦落ち着こう。
あのな、師匠が嫁を迎えるテンションで準備するのは止めよう」

「だって、この邸に女の子が……!」

「もしかしたら女嫌いが治るかもしれないじゃないですか」

会えていれば一億分の一くらいの確率でそうなったかもしれない。

あれだけ皆をなだめて、シンプルな内装にしたのに。初めに提案されたのは大昔に流行ったレースとフリルだらけの部屋だった。この邸にいる女性の使用人は六十歳以上だ。

十五歳の女の子には合わないセンスだろう。

といってもカインも妹など居ないので、好みなどわからない。
知り合いに聞いてみたが、14歳でも婚約者からドレスを贈られて夜会に行く人もいるし
16歳でもぬいぐるみを大切にして絵本を集めているような人もいる。
町では働いている人もいるし、騎士見習いも娼婦もいるだろう。魔術師などは早くに才能を見つけられる事も多いので大人に混じって戦場に出る者もいるだろう。

聞けば聞くほど、15歳の好みなどわからなくなった。

執事が、客の到着を知らせるためのベルを鳴らす。
深呼吸をして玄関ポーチへ向かう。とりあえず賢者ギリム様だけでも迎える客のレベルとしては最上級なのだから失礼のないようにしなければ

「おーい、世話になるぜ。ワイアットの気配はないな。あいつ逃げたか!


「お久しぶりです、ギリム様」

「おう!
久しぶりカイリ」

「カインです。そちらが例の方ですね」

ギリムの後ろにいるフードを被った子供……のような背丈の。

ワイアットの書き置きを思い出す。
『清純にして妖艶、カイン、気を付けろ』

……どこがだ。

ギリムの服を掴んで、キョロキョロと邸を見渡している。
「お世話になります、ワイアット様!」

うん、ハキハキとした挨拶ができて偉いな。
小さいのに。

つい微笑ましく思った。

「こいつはワイアットの弟子だ。」

ギリムが言うと、赤くなった。
「すみません!私ったら緊張してなんて失礼を!」

きちんと謝るなんて偉いじゃないか。

「気にしなくていい。
さあお二人とも座ってください。遠方からお疲れさまでした。
お茶を用意させますので」

ソファに座っても落ち着きなくにこにことしている、女の子

……幼すぎないか?

「ギリム様、ちょっと」

手招きして部屋の外に呼び出す

「あの子は栄養が足りていないのですか?小柄すぎませんか」

「まだ成長期だからな。」

「何が好きかわからないので、王都の菓子店から少しずつ取り寄せました。苦手なものはあるでしょうか」

「菓子はなんでも好きだと思うぞ」

再びミラのところに戻ると、お茶が運ばれてきた。
お菓子に目をキラキラさせている。
「こんなにたくさん……!」

「日持ちするものを選んだので慌てなくても良いですよ。気に入ったものはまた買いましょう」

ギリムは甘いものは好まないので茶を飲んでいた。
カインは使用人に合図してサンドイッチとつまめるチーズを持ってこさせた。

「お前気が利くな。ワイアットの弟子だっけ。執事?」

「弟子ですが、気がつけば邸のことを任されていますね」

「ミラ、良かったな。黒髪の兄弟子がいて。
もう惚れたか?」

ニヤニヤしてギリムがミラをつっつく。

「お菓子をくれる兄弟子が実在しているとわかって、私はとても嬉しいです!
師匠はそんな奴は居ないって言ってましたけど。
これなら王都で良い男性と出会いがあるかもしれません」

サーッとカインの顔色が変わった
「そういう目的で君は来たのですか?」

「違う違う!単に好奇心みたいなもんだ。僻地には人間の若者すら居なかったから、恋愛小説でみた知識が全部なんだよ。こいつ」

「あとは師匠の元カノから聞いた色々が……」

ギリムが口をふさいだ。

「まあ子守りだと思ってよろしく頼む」

ギリムが頭を下げた。

ミラもドライフルーツを食べながら頭を下げた。

「はあ。まあ期待に添えるかわかりませんが、なるべく邸に慣れてもらえるように努力します」

眉間に皺を寄せながらカインが言った。

なんとなく初対面は悪くない感じで終わったものの、ギリムが帰ると聞いてカインは慌てた。

「ミラさんは一人で大丈夫ですか?ギリム様が一日くらい泊まって行かれた方が心細くないのでは」

「すまないが ちょっと先約があって」

ギリムはさっさと帰っていった。

「……ミラさんのお部屋に案内しましょうか」

ミラは、ハッとして眉を下げた

「……お菓子はお部屋に運びますよ。」

「ありがとうございます!」

「お茶もお代わりを頼みます。でも夕飯が食べられなくなると困るので、お菓子は一種類ずつにします。良いですね?」

「はい」

カインは、背を向けて歩きだした。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...