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弟子と弟子
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カインは胃の辺りを押さえていた。
「あのヘタレ師匠め……」
今日ギリムが弟子を連れてくることになっている。
一応邸の主として挨拶はすると言っていたのに。
こっちは仮面や衝立てまで用意したというのに。
朝起きたら、師匠は書き置きを残して旅立っていた。
『やっぱり無理だ。カインに任せる。よろしく頼む』
王都の菓子店から女性の好きそうな菓子を頼んだり、殺風景な邸のあちこちに花を生けたり、こっちは気を遣って準備していたというのに。
使用人は女性の客を迎えること自体が初めてなので、張り切っていた。
「ドレスは何着くらい用意しましょう」
「滋養に良いものを食べていただきましょう」
「入浴剤を買ってきました」
「待て。一旦落ち着こう。
あのな、師匠が嫁を迎えるテンションで準備するのは止めよう」
「だって、この邸に女の子が……!」
「もしかしたら女嫌いが治るかもしれないじゃないですか」
会えていれば一億分の一くらいの確率でそうなったかもしれない。
あれだけ皆をなだめて、シンプルな内装にしたのに。初めに提案されたのは大昔に流行ったレースとフリルだらけの部屋だった。この邸にいる女性の使用人は六十歳以上だ。
十五歳の女の子には合わないセンスだろう。
といってもカインも妹など居ないので、好みなどわからない。
知り合いに聞いてみたが、14歳でも婚約者からドレスを贈られて夜会に行く人もいるし
16歳でもぬいぐるみを大切にして絵本を集めているような人もいる。
町では働いている人もいるし、騎士見習いも娼婦もいるだろう。魔術師などは早くに才能を見つけられる事も多いので大人に混じって戦場に出る者もいるだろう。
聞けば聞くほど、15歳の好みなどわからなくなった。
執事が、客の到着を知らせるためのベルを鳴らす。
深呼吸をして玄関ポーチへ向かう。とりあえず賢者ギリム様だけでも迎える客のレベルとしては最上級なのだから失礼のないようにしなければ
「おーい、世話になるぜ。ワイアットの気配はないな。あいつ逃げたか!
」
「お久しぶりです、ギリム様」
「おう!
久しぶりカイリ」
「カインです。そちらが例の方ですね」
ギリムの後ろにいるフードを被った子供……のような背丈の。
ワイアットの書き置きを思い出す。
『清純にして妖艶、カイン、気を付けろ』
……どこがだ。
ギリムの服を掴んで、キョロキョロと邸を見渡している。
「お世話になります、ワイアット様!」
うん、ハキハキとした挨拶ができて偉いな。
小さいのに。
つい微笑ましく思った。
「こいつはワイアットの弟子だ。」
ギリムが言うと、赤くなった。
「すみません!私ったら緊張してなんて失礼を!」
きちんと謝るなんて偉いじゃないか。
「気にしなくていい。
さあお二人とも座ってください。遠方からお疲れさまでした。
お茶を用意させますので」
ソファに座っても落ち着きなくにこにことしている、女の子
……幼すぎないか?
「ギリム様、ちょっと」
手招きして部屋の外に呼び出す
「あの子は栄養が足りていないのですか?小柄すぎませんか」
「まだ成長期だからな。」
「何が好きかわからないので、王都の菓子店から少しずつ取り寄せました。苦手なものはあるでしょうか」
「菓子はなんでも好きだと思うぞ」
再びミラのところに戻ると、お茶が運ばれてきた。
お菓子に目をキラキラさせている。
「こんなにたくさん……!」
「日持ちするものを選んだので慌てなくても良いですよ。気に入ったものはまた買いましょう」
ギリムは甘いものは好まないので茶を飲んでいた。
カインは使用人に合図してサンドイッチとつまめるチーズを持ってこさせた。
「お前気が利くな。ワイアットの弟子だっけ。執事?」
「弟子ですが、気がつけば邸のことを任されていますね」
「ミラ、良かったな。黒髪の兄弟子がいて。
もう惚れたか?」
ニヤニヤしてギリムがミラをつっつく。
「お菓子をくれる兄弟子が実在しているとわかって、私はとても嬉しいです!
師匠はそんな奴は居ないって言ってましたけど。
これなら王都で良い男性と出会いがあるかもしれません」
サーッとカインの顔色が変わった
「そういう目的で君は来たのですか?」
「違う違う!単に好奇心みたいなもんだ。僻地には人間の若者すら居なかったから、恋愛小説でみた知識が全部なんだよ。こいつ」
「あとは師匠の元カノから聞いた色々が……」
ギリムが口をふさいだ。
「まあ子守りだと思ってよろしく頼む」
ギリムが頭を下げた。
ミラもドライフルーツを食べながら頭を下げた。
「はあ。まあ期待に添えるかわかりませんが、なるべく邸に慣れてもらえるように努力します」
眉間に皺を寄せながらカインが言った。
なんとなく初対面は悪くない感じで終わったものの、ギリムが帰ると聞いてカインは慌てた。
「ミラさんは一人で大丈夫ですか?ギリム様が一日くらい泊まって行かれた方が心細くないのでは」
「すまないが ちょっと先約があって」
ギリムはさっさと帰っていった。
「……ミラさんのお部屋に案内しましょうか」
ミラは、ハッとして眉を下げた
「……お菓子はお部屋に運びますよ。」
「ありがとうございます!」
「お茶もお代わりを頼みます。でも夕飯が食べられなくなると困るので、お菓子は一種類ずつにします。良いですね?」
「はい」
カインは、背を向けて歩きだした。
「あのヘタレ師匠め……」
今日ギリムが弟子を連れてくることになっている。
一応邸の主として挨拶はすると言っていたのに。
こっちは仮面や衝立てまで用意したというのに。
朝起きたら、師匠は書き置きを残して旅立っていた。
『やっぱり無理だ。カインに任せる。よろしく頼む』
王都の菓子店から女性の好きそうな菓子を頼んだり、殺風景な邸のあちこちに花を生けたり、こっちは気を遣って準備していたというのに。
使用人は女性の客を迎えること自体が初めてなので、張り切っていた。
「ドレスは何着くらい用意しましょう」
「滋養に良いものを食べていただきましょう」
「入浴剤を買ってきました」
「待て。一旦落ち着こう。
あのな、師匠が嫁を迎えるテンションで準備するのは止めよう」
「だって、この邸に女の子が……!」
「もしかしたら女嫌いが治るかもしれないじゃないですか」
会えていれば一億分の一くらいの確率でそうなったかもしれない。
あれだけ皆をなだめて、シンプルな内装にしたのに。初めに提案されたのは大昔に流行ったレースとフリルだらけの部屋だった。この邸にいる女性の使用人は六十歳以上だ。
十五歳の女の子には合わないセンスだろう。
といってもカインも妹など居ないので、好みなどわからない。
知り合いに聞いてみたが、14歳でも婚約者からドレスを贈られて夜会に行く人もいるし
16歳でもぬいぐるみを大切にして絵本を集めているような人もいる。
町では働いている人もいるし、騎士見習いも娼婦もいるだろう。魔術師などは早くに才能を見つけられる事も多いので大人に混じって戦場に出る者もいるだろう。
聞けば聞くほど、15歳の好みなどわからなくなった。
執事が、客の到着を知らせるためのベルを鳴らす。
深呼吸をして玄関ポーチへ向かう。とりあえず賢者ギリム様だけでも迎える客のレベルとしては最上級なのだから失礼のないようにしなければ
「おーい、世話になるぜ。ワイアットの気配はないな。あいつ逃げたか!
」
「お久しぶりです、ギリム様」
「おう!
久しぶりカイリ」
「カインです。そちらが例の方ですね」
ギリムの後ろにいるフードを被った子供……のような背丈の。
ワイアットの書き置きを思い出す。
『清純にして妖艶、カイン、気を付けろ』
……どこがだ。
ギリムの服を掴んで、キョロキョロと邸を見渡している。
「お世話になります、ワイアット様!」
うん、ハキハキとした挨拶ができて偉いな。
小さいのに。
つい微笑ましく思った。
「こいつはワイアットの弟子だ。」
ギリムが言うと、赤くなった。
「すみません!私ったら緊張してなんて失礼を!」
きちんと謝るなんて偉いじゃないか。
「気にしなくていい。
さあお二人とも座ってください。遠方からお疲れさまでした。
お茶を用意させますので」
ソファに座っても落ち着きなくにこにことしている、女の子
……幼すぎないか?
「ギリム様、ちょっと」
手招きして部屋の外に呼び出す
「あの子は栄養が足りていないのですか?小柄すぎませんか」
「まだ成長期だからな。」
「何が好きかわからないので、王都の菓子店から少しずつ取り寄せました。苦手なものはあるでしょうか」
「菓子はなんでも好きだと思うぞ」
再びミラのところに戻ると、お茶が運ばれてきた。
お菓子に目をキラキラさせている。
「こんなにたくさん……!」
「日持ちするものを選んだので慌てなくても良いですよ。気に入ったものはまた買いましょう」
ギリムは甘いものは好まないので茶を飲んでいた。
カインは使用人に合図してサンドイッチとつまめるチーズを持ってこさせた。
「お前気が利くな。ワイアットの弟子だっけ。執事?」
「弟子ですが、気がつけば邸のことを任されていますね」
「ミラ、良かったな。黒髪の兄弟子がいて。
もう惚れたか?」
ニヤニヤしてギリムがミラをつっつく。
「お菓子をくれる兄弟子が実在しているとわかって、私はとても嬉しいです!
師匠はそんな奴は居ないって言ってましたけど。
これなら王都で良い男性と出会いがあるかもしれません」
サーッとカインの顔色が変わった
「そういう目的で君は来たのですか?」
「違う違う!単に好奇心みたいなもんだ。僻地には人間の若者すら居なかったから、恋愛小説でみた知識が全部なんだよ。こいつ」
「あとは師匠の元カノから聞いた色々が……」
ギリムが口をふさいだ。
「まあ子守りだと思ってよろしく頼む」
ギリムが頭を下げた。
ミラもドライフルーツを食べながら頭を下げた。
「はあ。まあ期待に添えるかわかりませんが、なるべく邸に慣れてもらえるように努力します」
眉間に皺を寄せながらカインが言った。
なんとなく初対面は悪くない感じで終わったものの、ギリムが帰ると聞いてカインは慌てた。
「ミラさんは一人で大丈夫ですか?ギリム様が一日くらい泊まって行かれた方が心細くないのでは」
「すまないが ちょっと先約があって」
ギリムはさっさと帰っていった。
「……ミラさんのお部屋に案内しましょうか」
ミラは、ハッとして眉を下げた
「……お菓子はお部屋に運びますよ。」
「ありがとうございます!」
「お茶もお代わりを頼みます。でも夕飯が食べられなくなると困るので、お菓子は一種類ずつにします。良いですね?」
「はい」
カインは、背を向けて歩きだした。
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