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終わり
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戦争が終わったらしい。
一切の音が止んだその朝は光が眩しくて、太陽の下に久しぶりに出た。
青空には作り物みたいな白い雲。
光を遮ろうとかざした自分の手が骨みたいだった。
瓦礫の陰から、ひとつ、ふたつと幽霊のようなものが出てくる。
街の広場だったところに向かっている。
自分の他にも生き残った人がいるんだと、ぼんやりとした頭で思った。
街のあちこちに煙が上がり、生き物の気配はない。
安全な水と食料が届けられたのは何日たってからだろう。
荷馬車がやって来て、寝転んでる子供を裏返して調べていった。
毛布にくるまれる子、荷馬車に横になる子、テントに運ばれる子、自分で歩いてテントに、向かう子。
みんな、灰色の顔をして心を失っていた。
女の子も男の子も。
赤ちゃんの声が聞こえた。
医療テントの横のテントには妊婦さんが集められていた。
戦火の中を耐え抜いた母親は泣いていた。
周りの大人も泣いていた。
「強い赤ちゃんだよ」
医療スタッフはそう言って渡した。
終わったんだ、本当に。
私は赤ちゃんのように声を上げて泣くことはできなかったけど、はらはらと流れる涙をぬぐっていた。
「立てるか?」
頭上から声がかかった。
とても大きなその人は、燃えるような赤い髪をしていた。
手を伸ばして起こしてくれた。
「あっちでスープを配っている。まずは食べろ。それからだ」
大きな手は温かかった。
翌日も、彼を探した。ナッシュという名前だった。
赤い髪は彼しかいなかったので、すぐに見つかった。
数日たてば、彼は常に子供たちに囲まれていた。
大人のいないこの街で、お父さんのような背中だったから。みんな、ナッシュのことが大好きで追いかけていた。
私にとっては、ナッシュは強くて太陽みたいに遠くて眩しい人だった。
一年後、少し髪の伸びたナッシュが数人と再び訪れてくれた。
街はまだ壊れたままのところもあるけれど、簡単な小屋が出来て雨風はしのげるようになっていた。
みんなで畑を作って、少しずつ食べるものを分けていた。
人買いがくるので、小さな子を守ったりしているうちに、皆が家族のようになっていた。
次の年、ナッシュはまた違う人たちと来た。
仕事で派遣されているのではなく、休暇に来てくれているらしい。食べ物や苗をくれた。
私はいつの頃からかナッシュが大好きで、ここから連れ出してくれる夢をみていた。
でも、ナッシュは一人を連れ出すようなことはしないとわかっていた。全員を救うか、誰も連れ出さないか。
いのちを繋いだので、大人になったら次は私が誰かに手を差しのべられるようになりたい。
そう言うと、ナッシュは頭を撫でてくれた。
手首を確かめるように掴まれる。
「まだ細いな」
私の顔が赤いことは気づかれていないはずだ。
少しずつ食べるものが増えてきて、移り住んでくる人が増えた。ナッシュが3ヶ月に、一度くらい来てくれるようになった。
傷がふえている。
どこかの戦地にいっていたのだろう。
そこにも困っている子供たちがいて、ナッシュは慕われているんだと思う。
「ナッシュ、また来てくれる?」
そう聞いたら
「オレたちが来なくなるほうが良いんだよ、街が機能するようになればお前たちも大丈夫だ。」
救助する人たちだから。
みんなが明るいことばかりを考えられる時代になって、悲しいことは忘れてほしいと言った。
助けてくれたナッシュを忘れることなんてないのに。
一切の音が止んだその朝は光が眩しくて、太陽の下に久しぶりに出た。
青空には作り物みたいな白い雲。
光を遮ろうとかざした自分の手が骨みたいだった。
瓦礫の陰から、ひとつ、ふたつと幽霊のようなものが出てくる。
街の広場だったところに向かっている。
自分の他にも生き残った人がいるんだと、ぼんやりとした頭で思った。
街のあちこちに煙が上がり、生き物の気配はない。
安全な水と食料が届けられたのは何日たってからだろう。
荷馬車がやって来て、寝転んでる子供を裏返して調べていった。
毛布にくるまれる子、荷馬車に横になる子、テントに運ばれる子、自分で歩いてテントに、向かう子。
みんな、灰色の顔をして心を失っていた。
女の子も男の子も。
赤ちゃんの声が聞こえた。
医療テントの横のテントには妊婦さんが集められていた。
戦火の中を耐え抜いた母親は泣いていた。
周りの大人も泣いていた。
「強い赤ちゃんだよ」
医療スタッフはそう言って渡した。
終わったんだ、本当に。
私は赤ちゃんのように声を上げて泣くことはできなかったけど、はらはらと流れる涙をぬぐっていた。
「立てるか?」
頭上から声がかかった。
とても大きなその人は、燃えるような赤い髪をしていた。
手を伸ばして起こしてくれた。
「あっちでスープを配っている。まずは食べろ。それからだ」
大きな手は温かかった。
翌日も、彼を探した。ナッシュという名前だった。
赤い髪は彼しかいなかったので、すぐに見つかった。
数日たてば、彼は常に子供たちに囲まれていた。
大人のいないこの街で、お父さんのような背中だったから。みんな、ナッシュのことが大好きで追いかけていた。
私にとっては、ナッシュは強くて太陽みたいに遠くて眩しい人だった。
一年後、少し髪の伸びたナッシュが数人と再び訪れてくれた。
街はまだ壊れたままのところもあるけれど、簡単な小屋が出来て雨風はしのげるようになっていた。
みんなで畑を作って、少しずつ食べるものを分けていた。
人買いがくるので、小さな子を守ったりしているうちに、皆が家族のようになっていた。
次の年、ナッシュはまた違う人たちと来た。
仕事で派遣されているのではなく、休暇に来てくれているらしい。食べ物や苗をくれた。
私はいつの頃からかナッシュが大好きで、ここから連れ出してくれる夢をみていた。
でも、ナッシュは一人を連れ出すようなことはしないとわかっていた。全員を救うか、誰も連れ出さないか。
いのちを繋いだので、大人になったら次は私が誰かに手を差しのべられるようになりたい。
そう言うと、ナッシュは頭を撫でてくれた。
手首を確かめるように掴まれる。
「まだ細いな」
私の顔が赤いことは気づかれていないはずだ。
少しずつ食べるものが増えてきて、移り住んでくる人が増えた。ナッシュが3ヶ月に、一度くらい来てくれるようになった。
傷がふえている。
どこかの戦地にいっていたのだろう。
そこにも困っている子供たちがいて、ナッシュは慕われているんだと思う。
「ナッシュ、また来てくれる?」
そう聞いたら
「オレたちが来なくなるほうが良いんだよ、街が機能するようになればお前たちも大丈夫だ。」
救助する人たちだから。
みんなが明るいことばかりを考えられる時代になって、悲しいことは忘れてほしいと言った。
助けてくれたナッシュを忘れることなんてないのに。
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