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従兄弟

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「アメリーおばさま、私の友達で文官を目指そうかと言っている子がいるのだけれど、ご両親に反対されているの。何か説得する良い方法はないかしら。おばさまは反対されなかったの?」

「私は一度文官になるのを諦めて結婚したから、次のチャンスは誰に反対されても絶対にモノにする!って準備をしていたの。妊娠中の体調の変化を記録して、妊婦の健康問題を論文にしていたわ。それが目に留まって議会で取り上げられたのよ。税金を集めるには子供を、子供を増やすには妊婦を大切に。安全に出産できるようにするのが国の安定のためなのよ。」

「おばさま、かっこいい!でもそれはアメリーおばさまだからできたことだし、ご両親は結婚したほうが幸せだって思ってるみたいで」

「あら、結婚が幸せの一つの形なのは否定しないわ。ただ、仕事や他のことでも成果をあげていれば本人が幸せで、輝くとするじゃない?輝いている時に出会った人と結婚するのも、とても幸せなことだと思うけど」

ウインクをするアメリーはとてもチャーミングだ。

クララの身近な夫婦はみんな仲が良い。
けれど、両親のエドガーとライラは天才と天然。
すごく愛しあっているけど、タイプが違う。

アルフレッド様とエリーゼおば様も愛し合っている。快活なアルおじさまと物静かなエリーゼおばさまもタイプが違う。
アメリーおばさまとおじさまは、友達のように見える。同級生だったせいかしら。
それも憧れる。
仕事をバリバリしながら、おじさまと助け合っている。

「どうしたの?」

「ううん。私もアメリーおばさまみたいに学生時代に恋がしたかったのだけれど。
今のところ、異性の友人すらいないのよ」

「まあ、周りが過保護だものね。でもね、ライラも全く男性と関わりが無かったのよ。働きだしてからお客さんとは会話して慣れたようだけど。
そんなライラでもエドガー様といきなり結婚したんだから、いつどうなるかわからないわよ。焦ること無いわ」

多分、クララは『いきなり結婚』を大げさに言っていると思っているだろうけれど。

本当に、いきなり結婚していたのだ。

「そうそう、今日はルーベンスも来てるのよ。隅っこのほうにいるはず」

「あら、ルーも?久しぶりに合いたいわ」
ルーベンスは二歳年上の従兄弟だ。

「あ、ほら、あそこにいるわ」

「ルーは、お仕事についてるの?」
「あの子は卒業してから専門院生になったからまだあと二年学生よ。時々先生の助手として地方に行ったり子供相手の講師をしているわ」

「いいなあ。」

「私が好きな仕事をしてきたから、あの子のすることを反対できないのよ。

でもね、クララ覚えておいて。あなたの未来はあなたが切り開くことができるのよ」

「おばさま……?」

「クララ、さっきから私やルーのことをいいなあって言ってくれるけど焦らなくていいのよ。きっとクララだけのやりたいことが見つかるわ」

「おばさま大好き!」

乾杯した。

ルーベンスのところに行った。
久しぶりに出会うので、ちょっと声をかけるのに躊躇った。
少し癖毛の茶色の髪。
猫背は治ってないのね。

「こんばんは」

声をかけると振り返ってポカンとしていた。

間違い……?じゃないわよね

「そんなに驚くことないでしょう」

「っ、ごめん、クララが来ていたのは知っていたんだ。さっき母さんと居るのを見たから。まさかこっちに来ると思ってなくて」

「ルーが来てるって聞いたから。」

そう言うと、また目を見開いて黙ってしまった。
「久しぶりね」

「そうだね。今日は誰と来ているの?よく一人になれたね」

「ふふ、お父様と来たから自由にできないと思っていたんだけど、アメリーおばさまが連れ出してくださったの。」

「ええっ、大丈夫かなあ。母さん相変わらず自由だから。」

「羨ましいわ」

「ライラさんも自由にさせてくれそうだけど。いつもニコニコして、ふわっとしてて優しそうじゃないか。僕こそ羨ましいよ。うちは母さんが強いからさ」

「うーん、母さまも優しいけどね。うちは、父と兄が、ほら。しかも従兄弟もね。過保護すぎると思わない?」

つい、親戚と言う気安さで軽い愚痴を言ってしまう。

「あー、フィル様もカイル様も怖いくらい過保護だもんね。僕も未だに挨拶程度でも緊張するよ。
君、幻の姫って言われてるよ。クララと知り合いだなんてバレたら紹介しろって大変なことになる。僕は平穏な人生を送りたいから助けは期待しないでね」

「ひどいわルー!」

ポカポカと叩かれる。
そこでルーベンスは周りの視線に気付いた。

注目、されている。
ヤバい。
サーッと血の気が引いた。

『妖精姫が、男性とお喋りを……?』
『セグラー家の兄弟以外にも親しい男性がいたのか』

「そろそろお父上の見えるところに居たほうがいいよ。後で叱られるのは嫌だろ?」

さりげなくエドガーの方へいくと、視線でクララを探していたのだろう。
目が合った。

最初、遠目で誰かわからなかったのだろう。

視線で殺されるかと思った。

そっと離れるつもりだったが、挨拶しておくほうがいいと思った。

「ご無沙汰しています、エドガー様」

「なんだ、ルーベンスだったのか」

明らかにホッとした様子だった。
「植物学の研究を続けているんだったな」

「まだ職につく覚悟がなくて学問に逃げているだけです。」

「専門分野があれば即戦力になるから存分に学ぶといい」

「ありがとうございます」

「ルー、また庭や花のことを相談してもいいかしら。お母様と庭を変えたいと話していたの。また来てくれる?」

「いつでも相談に乗るよ。僕もわからないことは詳しい人を紹介するよ。ライラさんから母経由でもいいし」

少し癖のある茶色の髪の毛をくしゃ、とするのが照れたときの癖だ。
そんな風に少しずつ思い出した。
髪も肌も少し色素が薄いので、そばかすがあるのがわかる。よく見ないとわからないけれど。

お日さまの似合う、草や花のことを教えてくれた従兄弟。
変わってないことが嬉しかった。
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