上 下
5 / 6

革命前夜

しおりを挟む
そんなに欲しいなら、欲しいと言えばいいのに。

策略を巡らす弟をみて、何度も思った。

献上された職人の作ったおもちゃ、外国の使節のくれた絵本、お気に入りの侍女、家庭教師、用意された学友。

自分の周りにも一流のそれらが揃えられたから不満を持つこと自体が父への反抗だと思ったのか。

弟は頭がよく、大人の顔色を瞬時に察知する子供だった。

少し前の自分を見ているようだった。

自分も何も選べずに受け入れていくのだと思った。
ところが弟が生まれて、急に選択肢が増えるということを知った。

自分じゃなくても良いのではないか。

同時に、自分を無条件に欲してくれる相手を探し続けるような子供時代だった。

弟は、どうしても欲しい相手を見つけたようだった。
俺の婚約者の令嬢だ。

礼儀に反しない距離で、ずっと気にかけている。
それに気づかないふりをする。

本当に理解できなかった。
彼女を疎ましいと思ったことはなかった。婚約者として尊重してきたつもりだ。

それでも、彼女を手に入れる将来があるということで弟から嫉妬される。その事が疎ましかった。
すべてを、捨てたいほどに。


「アートさん、アートさん!」

うっすらと目を開けると、シアが心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫ですか?うなされてましたよ」

「うん、あー、ちょっとね。大丈夫。」

君の声が救ってくれた。

「やっぱり、検閲が厳しいのですか?最近は演目によって不敬罪に問われるかもしれないと聞きました」

「それは、どこで聞いた?」

「噂です。図書館で本の整理をしていました。娯楽小説でも検閲されたものしか新しく購入できません。恋愛や、平民が主人公のものは厳しくなっているようです」

「なるほどね。」

依頼が、昔の王侯貴族のものに偏るわけだ。
平民と貴族の恋は、不都合らしい。

しかし。

廃されるべきはどちらなのか。

「ねえ、もし一緒に逃げてって、言ったらどうする?」

シアの目が揺らいだ。
彼女は聡明だから。
気づいているのかもしれない。

「考えておきます。」

「すぐ断られると思った」

「私、冒険小説も案外好きなんですよ」

笑って立ち上がった。

通りすぎるときに、シアの握りこぶしが震えているのを見た。

弟のことを笑えない。

自分だって、欲しいと言えずにいるんだから。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】私のいとしい騎士さま(注:付き合ってません)

仙桜可律
恋愛
ふわふわにこにこした令嬢が黒の騎士と呼ばれる乱暴な男を好きになる話 11/1 タイトル変更しました。 ヒロイン視点の姉妹作 「俺のゆるせないお嬢様(注:付き合ってません)」

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

王女の影武者として隣国に嫁いだ私は、何故か王子に溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
王女アルネシアの影武者である私は、隣国の王子ドルクス様の元に嫁ぐことになった。 私の正体は、すぐにばれることになった。ドルクス様は、人の心を読む力を持っていたからである。 しかし、両国の間で争いが起きるのを危惧した彼は、私の正体を父親である国王に言わなかった。それどころか、私と夫婦として過ごし始めたのである。 しかも、彼は何故か私のことをひどく気遣ってくれた。どうして彼がそこまでしてくれるのかまったくわからない私は、ただ困惑しながら彼との生活を送るのだった。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...