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革命前夜
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そんなに欲しいなら、欲しいと言えばいいのに。
策略を巡らす弟をみて、何度も思った。
献上された職人の作ったおもちゃ、外国の使節のくれた絵本、お気に入りの侍女、家庭教師、用意された学友。
自分の周りにも一流のそれらが揃えられたから不満を持つこと自体が父への反抗だと思ったのか。
弟は頭がよく、大人の顔色を瞬時に察知する子供だった。
少し前の自分を見ているようだった。
自分も何も選べずに受け入れていくのだと思った。
ところが弟が生まれて、急に選択肢が増えるということを知った。
自分じゃなくても良いのではないか。
同時に、自分を無条件に欲してくれる相手を探し続けるような子供時代だった。
弟は、どうしても欲しい相手を見つけたようだった。
俺の婚約者の令嬢だ。
礼儀に反しない距離で、ずっと気にかけている。
それに気づかないふりをする。
本当に理解できなかった。
彼女を疎ましいと思ったことはなかった。婚約者として尊重してきたつもりだ。
それでも、彼女を手に入れる将来があるということで弟から嫉妬される。その事が疎ましかった。
すべてを、捨てたいほどに。
「アートさん、アートさん!」
うっすらと目を開けると、シアが心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫ですか?うなされてましたよ」
「うん、あー、ちょっとね。大丈夫。」
君の声が救ってくれた。
「やっぱり、検閲が厳しいのですか?最近は演目によって不敬罪に問われるかもしれないと聞きました」
「それは、どこで聞いた?」
「噂です。図書館で本の整理をしていました。娯楽小説でも検閲されたものしか新しく購入できません。恋愛や、平民が主人公のものは厳しくなっているようです」
「なるほどね。」
依頼が、昔の王侯貴族のものに偏るわけだ。
平民と貴族の恋は、不都合らしい。
しかし。
廃されるべきはどちらなのか。
「ねえ、もし一緒に逃げてって、言ったらどうする?」
シアの目が揺らいだ。
彼女は聡明だから。
気づいているのかもしれない。
「考えておきます。」
「すぐ断られると思った」
「私、冒険小説も案外好きなんですよ」
笑って立ち上がった。
通りすぎるときに、シアの握りこぶしが震えているのを見た。
弟のことを笑えない。
自分だって、欲しいと言えずにいるんだから。
策略を巡らす弟をみて、何度も思った。
献上された職人の作ったおもちゃ、外国の使節のくれた絵本、お気に入りの侍女、家庭教師、用意された学友。
自分の周りにも一流のそれらが揃えられたから不満を持つこと自体が父への反抗だと思ったのか。
弟は頭がよく、大人の顔色を瞬時に察知する子供だった。
少し前の自分を見ているようだった。
自分も何も選べずに受け入れていくのだと思った。
ところが弟が生まれて、急に選択肢が増えるということを知った。
自分じゃなくても良いのではないか。
同時に、自分を無条件に欲してくれる相手を探し続けるような子供時代だった。
弟は、どうしても欲しい相手を見つけたようだった。
俺の婚約者の令嬢だ。
礼儀に反しない距離で、ずっと気にかけている。
それに気づかないふりをする。
本当に理解できなかった。
彼女を疎ましいと思ったことはなかった。婚約者として尊重してきたつもりだ。
それでも、彼女を手に入れる将来があるということで弟から嫉妬される。その事が疎ましかった。
すべてを、捨てたいほどに。
「アートさん、アートさん!」
うっすらと目を開けると、シアが心配そうに覗き込んでいる。
「大丈夫ですか?うなされてましたよ」
「うん、あー、ちょっとね。大丈夫。」
君の声が救ってくれた。
「やっぱり、検閲が厳しいのですか?最近は演目によって不敬罪に問われるかもしれないと聞きました」
「それは、どこで聞いた?」
「噂です。図書館で本の整理をしていました。娯楽小説でも検閲されたものしか新しく購入できません。恋愛や、平民が主人公のものは厳しくなっているようです」
「なるほどね。」
依頼が、昔の王侯貴族のものに偏るわけだ。
平民と貴族の恋は、不都合らしい。
しかし。
廃されるべきはどちらなのか。
「ねえ、もし一緒に逃げてって、言ったらどうする?」
シアの目が揺らいだ。
彼女は聡明だから。
気づいているのかもしれない。
「考えておきます。」
「すぐ断られると思った」
「私、冒険小説も案外好きなんですよ」
笑って立ち上がった。
通りすぎるときに、シアの握りこぶしが震えているのを見た。
弟のことを笑えない。
自分だって、欲しいと言えずにいるんだから。
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