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アランは闘っている
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アランは目線が落ち着かないまま、下を向いた。馬車の狭い空間では、少し下を向いても彼女のドレスが視界に入る。
ミランダ嬢は基本的に落ちついた服装を好む。以前、紺色に白のラインの入ったワンピースを見たときには清楚で似合っていてクラクラした。
今日はワインレッドのドレスで、なんというか少し胸元が開いている。四角く開いているし同色のレースがあるので、露出度が高すぎることもなく上品なのだが。
いつもの彼女にしては、首筋と鎖骨が見えているので
(ど、どうしよう)
見てしまう。
ただでさえ、最近は彼女に触れたくて仕方がないのに。
政略結婚の相手が急に体を求めてくるなんて思わないだろう。
ずるい考えかもしれないが、結婚すれば自然と覚悟もしているだろうから徐々に……。
「アラン様」
名を呼ばれて顔を上げると、ミランダが唇を噛んでいた。
怒っている?
「アラン様は、さっきからため息をつかれていますが、私のことが」
「すまない。ミランダ嬢のせいではない」
睨んでいるのに涙が滲んでいるので即座に言った。
「今日の装いは、似合ってないですか……?」
いつもの冷静なミランダではなく、心細い声で言われて、グラリと理性が揺れた。
「……似合っています。ただ、恥ずかしいことに、本当に失望されるかもしれませんが、綺麗なので目のやり場に困ります、し」
アランはまたため息をついた。
「ああ、すみません。またため息を。
これは、あなたに嫌われないかと」
「嫌いになんてなりません」
「いえ。俺の考えていることを知ったら軽蔑します。それでため息をついてしまいました」
「そんなことはありません」
「本当に?」
「はい。なにか隠されているようで、心配してしまいます。そんな詮索したり束縛しては……その、良い……良い妻にはなれないかもしれませんが」
「……可愛すぎるだろう……」
口を押さえて呻いた。
「ミランダ嬢が私の妻になることを考えてくれているなんて、幸せすぎて目眩がしました」
「だって、……妻でしょう。結婚するのですから」
「それはそうなんですが、あまり考えないようにしていたので」
それを聞いた瞬間、ミランダの目から涙が一筋溢れた
「アラン様は考えないのですね」
「ミランダ嬢、どうしたのですか」
「アラン様は、私に誠実に接してくださっています。だから不満を持つ私の方がおかしいのですが……親切にされると辛くて」
「不満……、ミランダ嬢は我慢してるんですね。
わかっています、俺があなたの好みではないとしても……」
ミランダが否定しようと口を開いたときに、馬車が止まった。
今日は、ある伯爵婦人が主催するバザーに誘われていた。孤児院を支援するためだ。
若い世代の貴族に協力を求めたので、華やかだ。楽器の得意な数人は演奏する。ミランダは子供たちにインクと字のお手本を贈った。
詩の一節を書いて栞にして売るそうだ。
子供たちにも会うのに涙のあとはいけない。アランはそっとミランダの目元を拭った。
そのとき、ミランダが体を震わせたので、
(しまった、顔に触れてしまった)
と手を引っ込めた。
ミランダの頬が紅くなっているのを見て、
(嫌がる、というよりは恥ずかしいだけのように見える)
つられてアランも紅くなった。
ミランダ嬢は基本的に落ちついた服装を好む。以前、紺色に白のラインの入ったワンピースを見たときには清楚で似合っていてクラクラした。
今日はワインレッドのドレスで、なんというか少し胸元が開いている。四角く開いているし同色のレースがあるので、露出度が高すぎることもなく上品なのだが。
いつもの彼女にしては、首筋と鎖骨が見えているので
(ど、どうしよう)
見てしまう。
ただでさえ、最近は彼女に触れたくて仕方がないのに。
政略結婚の相手が急に体を求めてくるなんて思わないだろう。
ずるい考えかもしれないが、結婚すれば自然と覚悟もしているだろうから徐々に……。
「アラン様」
名を呼ばれて顔を上げると、ミランダが唇を噛んでいた。
怒っている?
「アラン様は、さっきからため息をつかれていますが、私のことが」
「すまない。ミランダ嬢のせいではない」
睨んでいるのに涙が滲んでいるので即座に言った。
「今日の装いは、似合ってないですか……?」
いつもの冷静なミランダではなく、心細い声で言われて、グラリと理性が揺れた。
「……似合っています。ただ、恥ずかしいことに、本当に失望されるかもしれませんが、綺麗なので目のやり場に困ります、し」
アランはまたため息をついた。
「ああ、すみません。またため息を。
これは、あなたに嫌われないかと」
「嫌いになんてなりません」
「いえ。俺の考えていることを知ったら軽蔑します。それでため息をついてしまいました」
「そんなことはありません」
「本当に?」
「はい。なにか隠されているようで、心配してしまいます。そんな詮索したり束縛しては……その、良い……良い妻にはなれないかもしれませんが」
「……可愛すぎるだろう……」
口を押さえて呻いた。
「ミランダ嬢が私の妻になることを考えてくれているなんて、幸せすぎて目眩がしました」
「だって、……妻でしょう。結婚するのですから」
「それはそうなんですが、あまり考えないようにしていたので」
それを聞いた瞬間、ミランダの目から涙が一筋溢れた
「アラン様は考えないのですね」
「ミランダ嬢、どうしたのですか」
「アラン様は、私に誠実に接してくださっています。だから不満を持つ私の方がおかしいのですが……親切にされると辛くて」
「不満……、ミランダ嬢は我慢してるんですね。
わかっています、俺があなたの好みではないとしても……」
ミランダが否定しようと口を開いたときに、馬車が止まった。
今日は、ある伯爵婦人が主催するバザーに誘われていた。孤児院を支援するためだ。
若い世代の貴族に協力を求めたので、華やかだ。楽器の得意な数人は演奏する。ミランダは子供たちにインクと字のお手本を贈った。
詩の一節を書いて栞にして売るそうだ。
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そのとき、ミランダが体を震わせたので、
(しまった、顔に触れてしまった)
と手を引っ込めた。
ミランダの頬が紅くなっているのを見て、
(嫌がる、というよりは恥ずかしいだけのように見える)
つられてアランも紅くなった。
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