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一族集結

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「アラン様に最近避けられている気がします」

ミランダが茶会でそう言ったので、リッキー家の女性たちの眼が光った。

「おば様、これは」
「ええ、召集よ!」

武門のリッキー家。有事の際には女性も後方支援をするように叩きこまれている。

ミランダはアランの母にも従姉たちにも気に入られている。
縁談が持ち上がった頃は多少身構えていた。
きっとお互いに。

縁談が持ち上がったときにも親族の女性が召集された。
「頭の良い一族で、将来の王妃の姉君ですって?
うちなんて勉強嫌いで学園でもやっと卒業したような息子たちなのに!がさつな我が家に呆れられて逃げられるくらいなら初めからお断りを……!」
アランの母と叔母たちが青い顔で落ち込んでいた。
「私も息子に絵本を読んであげたり、素敵な貴公子に育てたいなって思ってたわ。旦那が剣しか取り柄がないあんな人だから、せめて息子はって」
わああ、と一人の叔母は顔を覆った。ちなみに旦那は剣聖と呼ばれています。
「わかる!私だってベビー服に刺繍をしたり、優雅に過ごしたかった。女の子だからドレスを買ってあげたりしたかったのに。この間なんて送ったイヤリングを重くて邪魔だからって引きちぎったのよ……!せっかく女の子なのに!」
その娘さんは初の女性騎士として凛々しくて大人気。令嬢たちにファンクラブがある程だ。
「うちなんて、犬か牛を飼ってるみたいなものよ……。小さいうちは怪我ばかりだし、もう慣れちゃったわ。生きてたらいいか、って。」

「ああ、末の子の出産祝いを何がいいか聞いたら、放牧とかの呼び寄せる笛が欲しいって言ってたわね。あのときはかなり疲れてるのねって思ったわ」

「男ばっかり7人なんて、ほぼ馬の世話じゃない」

さすがにそれは失礼じゃ、と若いお嫁さんたちは恐る恐る言われた夫人の顔をみた。

「失礼ね」

ほら!

「馬に失礼よ!馬は、手綱を付けられるのよ……!」

七人のうち、一人は冒険者、一人は剣豪、一人は違う大陸で道場破り、一人は農家に勝手に婿入り、一人は海賊の討伐、一人は肉体美を誇るモデル、一人は
学生の間に恋人を妊娠させて絶縁している。
それ以降、一族の間では勉学は苦手でも問題さえ起こさなければいいじゃないかという風潮になった。
諦めたのだ。

「その点、アランなら大丈夫じゃないかしら。女性問題はなかったし、うちの一族では比較的荒々しくないし、落ち着いているでしょう」

「あれは、落ち着いてるというより口下手なのよ。
学園でも騎士団でも女性と縁がなさすぎてトラブルにならなかっただけ。気の利いたことなんて言えるわけないわ」

と思っていたのだが。
顔合わせの席でミランダを見て
「なんて小さいのかしら可愛いわ!」
「落ち着いてるお嬢さんね」
「うちのがさつな家風に怯えないかしら」

ミランダも緊張していたが、リッキー家の家紋について執事に質問していた。

「家紋を写しても良いでしょうか。」

「家紋を?」

「はい、私は下手なのですが刺繍をしようかと」
アランは異次元の生き物を見るような心地だった。

使用人が破った服を繕ってくれたり、包帯が弛まないように縫い付けたり武具の補修をする女性を見たことはある。

家に帰ったら妻が刺繍をしている……そんな光景が見られるかもしれないだなんて、

「刺繍……、いい」

女性たちもうっとりしていた。
可愛いお嫁さんを見つめるアランが微笑ましくて、一族のなかでは奥手で良かったと二人のことを守ろうと心に決めた。

それなのに。
以後、何度か行き来してお茶をしたりしていた。やっと緊張しなくなってきたミランダの口からそんなことを聞くとは。

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