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完全栄養食はみんなだいすき

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最初にメイドから噂が広まった。
「しっとりしていて、チーズケーキのような味で食べやすいんです。お客様の前でお腹が鳴るとか避けたいので、ちょっとつまんでおくと安心なんです」

そのつぎは騎士団。

「こんな小さいもので腹の足しになるかよ、って思ったんですが固くて噛みごたえがあってナッツもぎっしりで。馬の上でも片手で食べられるのが良い」

そして文官も

「食事を取る暇がなくて、手を汚したくない。とりあえず糖分を補給したいという時に手にとります。」

偏屈な魔術師団も。

「分析したんだけど、ほんと良いバランスなんだよね。俺はほろ苦いチョコレートとスパイスの入ったやつが好き。ワインにも合う」


皆が口をそろえて誉めるのは、スティック状のクッキーだ。
いろいろなバージョンがある。

アイリスのクッキーだ。

アイリスの育った修道院のクッキーは型抜きされたものや、素朴な大きなサイズのものだった。
それは相変わらず人気である。
それとは別にスティック状のクッキーをアイリスが作って、王宮の他部署に差し入れをしている。

宰相の執務室でも。

「うん、これは甘いだけのクッキーではないな。腹持ちもいいし滋養もある。」

「そうですね。あと持ちやすい。日持ちするように改良すれば、被災時の備蓄や救援物資にもいいかもしれません。」

宰相と長男が話していると、
ボルクが突っ伏して机を叩いている。

「なんで、みんなして誰も彼もアイリスのクッキーを食べてるんですか……!」

「人気だからだろ。ほら
お前も食え」

口に突っ込まれている

「どうだー?上手いか、好きな子の手作りクッキーは」

「父上、性格が悪いです」

「ふごっ、こっ、」

「しかも騎士団向けの、ナッツの多い口の中の水分持っていかれる系のを選びましたね」

長男の差し出した紅茶を飲んで、ボルクは一息つく。

「これは、もう手作りの枠を越えています。業者並みです。質も量も!だから感動なんかしません。」

「学園時代に女生徒がクッキー作りあったりくれたりしなかったの?」

「兄上の時代はそうなんですね。私たちの時はそんなのありませんでしたよ」

「そういえば、シーカー先生はよくクッキーもらっていたよ」

「シーカー、アイリスの?」

シーカー子爵は植物学の臨時講師として、学園に勤めていたこともあった。

「年上なのに、なぜかほっとけない感じだそうで女生徒に人気だったよ。
今ならアイリス嬢にクッキーもらってるのかな。あの人もすぐ食事忘れるっぽいよね」

「お前の方が性格悪いと思うぞ……」

父親は二人の息子を眺めて満足げに紅茶を飲んだ。

「このクッキーも修道院に依頼するなりして、国で管理して流通させたいな。
アイリス嬢は雇用問題にも関心があると言っていたので、そこにも絡められるかもしれない。一度、審議にかけるべきかもしれんな」

「アイリスは働きすぎです。」

ボルクは私情丸出しだ。

「誘っても断られるんだね。それ忙しさが理由じゃないかもしれないよ?先週、僕と一緒に昼食をとったけど」

「兄上、な、なんて?さそったんですか?ランチを?」

「食堂で偶然会って相席になったんだけどね。」

「兄上ずるい!」

宰相は思った。
美しい妻に似て二人とも美形で、自分に似て優秀な頭脳なのに
片想いを拗らせているとは。

若いっていいよなあ、と。






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