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卒業
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卒業式を迎えた。
アイリスは誰よりも早く登校した。
校舎をゆっくりと見て回る。
学園に住み込みの管理人に頼んでいたのだ。それまでにも早朝に登校して花壇や換気を手伝っていたので職員も他の関係者もアイリスをよく知っている。
この学園に入学できたのはアイリスにとって幸運だった。
だから誰よりも勉強した。
(卒業したら学園でのように対等に会話をすることも許されないのね)
数人の親しい顔が浮かんだけれど、心から追い出した。
貴族の皆さんは私が珍しいから買い被っているのだわ。
社交界で生き抜くのは努力だけでどうにかなるものではない。
卒業したら平民の暮らしに戻っても構わないと考えていた。
シーカー邸の使用人はもし勤め先が見つからないならそのまま残って働いて欲しいと言ってくれた。
学園も教師の助手や事務の係をして欲しいと。
良かったら、いつでも、短期間でも構わないという、アイリスに選択を委ねてくれた。
そんな風に手を差しのべてくれることをありがたいと思っていた。
だんだんと登校してくる生徒が増えて学園に活気が満ちてくる。
卒業式の飾り付けも終わっている。
父兄席は後方にある。
はじめからハンカチを握りしめて目を潤ませているシーカー子爵。
こらえていたが成績優秀者でアイリスの名が呼ばれた時にとうとう感涙した。
もう一人、ボルクも隣に立つ。二人はコサージュとブローチを贈られた。卒業パーティーでもそれをつける。
ボルクはこの特権だけは誰にも譲りたくなかった。
「本当はお互いの色を身につけてこのコサージュを着けたら完璧だったのに……」
「そこまでの関係に持っていけなかったのはご自分のせいでしょう」
エレノアもコレットも苦笑いした。
「ドレスを結局贈ることも」
「まあ、シーカー卿も嬉しいだろうからねえ。」
夕方からのパーティーに向けてそれぞれ自宅へ戻る。
アイリスはシーカー邸へ戻る。
ーーーーーー
卒業パーティーにて。
「なんかめっちゃ睨まれてるんだけど!?
最近の子ってこうなの?
あ、宰相のお子さんか。アイリスのこと好きなの?」
「そんなわけないでしょう」
シーカー子爵とアイリスが会場に入ってからボルクは離れたところからずっと見ていた。アイリスは深い緑のドレスに茶色のリボンが襟や裾に飾ってあるシンプルなドレス。髪飾りはパールだった。
シーカー子爵はチャコールグレーのスーツに茶色のタイ。メガネが鼈甲の丸い形で、癖のある毛を後ろに流している。
いつもは放ったらかしのくるくる猫っ毛が整えられている。
「あら、意外とお似合いじゃないてすか。」コレットがボルクに、聞こえるように言う。
シーカー卿の童顔をメガネがいい感じに調和している。大人の軽さを加えたような。
ボルクはグラスを握りしめて歯軋りをしそうなくらい、睨んでいる。
「ねえ、やっぱりあの子アイリスばかり見てるよ。アイリス話してきたら」
「そうですね、卒業したらもう皆さんと気軽にお話できないでしょうし」
アイリスはボルク達のところへ行った。
「あら、アイリス様がこちらへいらっしゃるわ。ボルク様、飲み物を持ってテラスか庭園へ」
「いきなりそんな、無理だ」
「今無理なら一生無理ですわ」
ーーーーーーー
ボルクはなんとかアイリスを誘い出した。
庭園のベンチに並んで座る。
沈黙。
「学生生活も終わりだな」
「そう、ですね」
「君と会えて本当に有意義な学生生活だった」
「私こそ、ボルク様が勉強を教えて下さったりマナーを見てくださって感謝しています。」
「アイリスがもともと優秀、違うな。努力していたからだ」
音楽がホールから流れてくる
「ダンスをお願いしてもいいだろうか」
「下手なので皆さんのところでは恥ずかしいです」
「じゃあここで。」
月光にボルクの髪が光って綺麗だと思った。ゆっくりと踊って、少しだけ笑う。他の人が気づかないような笑み。
「一生の思い出になりそうです」
最後の礼をして、アイリスは皆のところへ戻ろうとした。
手を掴もうとして、出来なかった。
アイリスの後を追ってホールに戻る。
ーーーーー
「告白してない、だと?」
コレットから虫をみるような目で見られたボルク。
「次の王宮での夜会にアイリス様を招待します。優秀な人材ですので、私の友人として参加していただきます。アイリス様のパートナーは殿下の側近や近衛から私が紹介しても良いんですのよ?」
笑っているけれど、エレノアから圧をかけられていた。
「アイリスに、一生の思い出になりそうだと言われた。悲しかったんだ。僕は、これからもアイリスとこれまでのように会いたいのに。彼女にとっては学園のことはもう思い出なのかと思うと、ショックで言えなかった」
「そのまま言えばよろしかったのに」
アイリスは誰よりも早く登校した。
校舎をゆっくりと見て回る。
学園に住み込みの管理人に頼んでいたのだ。それまでにも早朝に登校して花壇や換気を手伝っていたので職員も他の関係者もアイリスをよく知っている。
この学園に入学できたのはアイリスにとって幸運だった。
だから誰よりも勉強した。
(卒業したら学園でのように対等に会話をすることも許されないのね)
数人の親しい顔が浮かんだけれど、心から追い出した。
貴族の皆さんは私が珍しいから買い被っているのだわ。
社交界で生き抜くのは努力だけでどうにかなるものではない。
卒業したら平民の暮らしに戻っても構わないと考えていた。
シーカー邸の使用人はもし勤め先が見つからないならそのまま残って働いて欲しいと言ってくれた。
学園も教師の助手や事務の係をして欲しいと。
良かったら、いつでも、短期間でも構わないという、アイリスに選択を委ねてくれた。
そんな風に手を差しのべてくれることをありがたいと思っていた。
だんだんと登校してくる生徒が増えて学園に活気が満ちてくる。
卒業式の飾り付けも終わっている。
父兄席は後方にある。
はじめからハンカチを握りしめて目を潤ませているシーカー子爵。
こらえていたが成績優秀者でアイリスの名が呼ばれた時にとうとう感涙した。
もう一人、ボルクも隣に立つ。二人はコサージュとブローチを贈られた。卒業パーティーでもそれをつける。
ボルクはこの特権だけは誰にも譲りたくなかった。
「本当はお互いの色を身につけてこのコサージュを着けたら完璧だったのに……」
「そこまでの関係に持っていけなかったのはご自分のせいでしょう」
エレノアもコレットも苦笑いした。
「ドレスを結局贈ることも」
「まあ、シーカー卿も嬉しいだろうからねえ。」
夕方からのパーティーに向けてそれぞれ自宅へ戻る。
アイリスはシーカー邸へ戻る。
ーーーーーー
卒業パーティーにて。
「なんかめっちゃ睨まれてるんだけど!?
最近の子ってこうなの?
あ、宰相のお子さんか。アイリスのこと好きなの?」
「そんなわけないでしょう」
シーカー子爵とアイリスが会場に入ってからボルクは離れたところからずっと見ていた。アイリスは深い緑のドレスに茶色のリボンが襟や裾に飾ってあるシンプルなドレス。髪飾りはパールだった。
シーカー子爵はチャコールグレーのスーツに茶色のタイ。メガネが鼈甲の丸い形で、癖のある毛を後ろに流している。
いつもは放ったらかしのくるくる猫っ毛が整えられている。
「あら、意外とお似合いじゃないてすか。」コレットがボルクに、聞こえるように言う。
シーカー卿の童顔をメガネがいい感じに調和している。大人の軽さを加えたような。
ボルクはグラスを握りしめて歯軋りをしそうなくらい、睨んでいる。
「ねえ、やっぱりあの子アイリスばかり見てるよ。アイリス話してきたら」
「そうですね、卒業したらもう皆さんと気軽にお話できないでしょうし」
アイリスはボルク達のところへ行った。
「あら、アイリス様がこちらへいらっしゃるわ。ボルク様、飲み物を持ってテラスか庭園へ」
「いきなりそんな、無理だ」
「今無理なら一生無理ですわ」
ーーーーーーー
ボルクはなんとかアイリスを誘い出した。
庭園のベンチに並んで座る。
沈黙。
「学生生活も終わりだな」
「そう、ですね」
「君と会えて本当に有意義な学生生活だった」
「私こそ、ボルク様が勉強を教えて下さったりマナーを見てくださって感謝しています。」
「アイリスがもともと優秀、違うな。努力していたからだ」
音楽がホールから流れてくる
「ダンスをお願いしてもいいだろうか」
「下手なので皆さんのところでは恥ずかしいです」
「じゃあここで。」
月光にボルクの髪が光って綺麗だと思った。ゆっくりと踊って、少しだけ笑う。他の人が気づかないような笑み。
「一生の思い出になりそうです」
最後の礼をして、アイリスは皆のところへ戻ろうとした。
手を掴もうとして、出来なかった。
アイリスの後を追ってホールに戻る。
ーーーーー
「告白してない、だと?」
コレットから虫をみるような目で見られたボルク。
「次の王宮での夜会にアイリス様を招待します。優秀な人材ですので、私の友人として参加していただきます。アイリス様のパートナーは殿下の側近や近衛から私が紹介しても良いんですのよ?」
笑っているけれど、エレノアから圧をかけられていた。
「アイリスに、一生の思い出になりそうだと言われた。悲しかったんだ。僕は、これからもアイリスとこれまでのように会いたいのに。彼女にとっては学園のことはもう思い出なのかと思うと、ショックで言えなかった」
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