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ヒューゴ渋々

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「マリア、ちょっと待ってそれは」

「お願いします。じゃあ私が一人で行ってもいいの?」

「ダメだ」

「じゃあカイさんを助けてあげてもいい?私と一緒ならリナちゃん会ってくれるかもって
もしもの時はお願いしますって言われてるの」

「それでも、カイでもダメだ」

仕事モードの時は厳しい態度もとれるが、恋人の時はマリアに甘い。
そんなヒューゴが反対しているのは、マリアが夜に娼館に行きたいと言っているからだ。
親友のリナが旦那と喧嘩をして家出。
娼館に居る。カイは毎日通っているが会わせてもらえないらしい。
それは気の毒だが、マリアが夜にあの街に会いに行くのは危険すぎる。

「やっぱりダメだ。あの辺りは酒場も近いし、連れ込み宿もあるし、宴会のあとに団体で行く奴もいるし、男が酔っぱらったら何をするかわからない。娼婦に間違われても困るし、行かない方がいい、危ない」

スッ、とマリアが姿勢を正した。
あ、怒ってる。
「へえ、ヒューゴさん」

少し顎を上げて、にっこり口角を上げながら。
以前のように貴族令嬢だったら扇を広げて口元を隠しているんだろうな。

体から冷ややかな空気を出しながら。

強い騎士と相対したときと同じような感覚。

「随分と、あの街にお詳しいんですね。」

だらだらだらだら。
背中を汗が伝う。

「娼館にもお世話になってらしたそうですわね」

口調も戻っている

「あ、その、以前は。」

「では、危なくないように治安を維持するのが騎士の務めではありませんの?」

「ハイ」

「あら、嫌ですわ、わたしったら。お仕事ではなく、プライベートで一緒に遊びに行ってくださいというお願いでしたのよ?それなのにヒューゴさんが反対ばかりするから、つい、」

「スミマセン」

「一緒に行ってくれますね?」

「う」

「ね?」

今度は普通に恋人の距離に戻って。

「わかった。
俺も、リナさんにカイからの手紙をいつか見せたいと思っていた。でもマリアに黙って娼館に行くのも嫌だし、そうだな、ちょうどいいかもしれない。ただ、女連れで訪問というのは異例なので、女将に許可をもらう。もしなんなら姉貴が商品を卸しているから、商会の人間として訪問することも出来るかもしれない。」

ヒューゴはマリアの手を握った。マリアが握り返してくれる。
よかった。許してくれたようだ。俺の愛しい彼女は実は少し怖い一面もある。

その度に惚れ直す。

姉経由で女将に確認したところ、マリアと一緒に部屋を予約することができた。
面白がった姉もついてきた。

彼女と姉と娼館に来る男なんて前代未聞だろうな。
なんの拷問だ

とヒューゴは半分白目になりそうな気持ちだった。


こちらも前代未聞であろう、

嫁に会うために娼館に通っているが会わせてもらえず、指名料と部屋料金はきっちり取られて、指名予約もしていく
旦那、カイ。

その二人が出会わないように采配してくれたのが、女将のせめてもの優しさだった。

(でもお代はきっちり取る)
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