【R18】鈴蘭の令嬢が羞恥に耐える話【本編完結】

仙桜可律

文字の大きさ
上 下
15 / 21

番外編①学園では騎士クラスと文官クラスは仲が悪かったよね

しおりを挟む
十代男子のプライドなんて、たかが知れている。
大人になってみればなぜあんなに固執していたのだろう、と思う。

アルフレッドは血気盛んな奴が多い騎士クラスにおいて、珍しく無気力な人間だった。

体を動かすのは好きだから騎士になりたいけれど、争いは避けたいしゆるーく適当に生きていたいと思っていた。
あと、モテたい。
ガツガツしないほうがモテると思っていたし、実際モテた。


文官クラスの奴は頭の良さがヒエラルキーに直結する。

トップは神童と呼ばれるエドガーだ。常に冷静沈着、同い年とは思えない。教師も敬語になるほどの頭脳と、知識を既に完成させていた。

アルフレッドは特に勉強しなくてもある程度出来てしまうという要領のいいタイプだった。
騎士クラスと文官クラスの揉め事が起こるとアルフレッドが仲裁に呼ばれることが多い。

それが面倒で、行事の時は目立たないように隠れるようになった。


アルフレッドが16歳の学園祭で、エリーゼと運命の出会いをした。

「エドガーの妹、手がかりはそれだけか」

友人たちに聞いてみると、エドガーという名前の学生は数人いた。
学年が違うかもしれない。

「アルフレッド、来てくれ。またトラブルだ。よりによって向こうは天才をつれてきた」
天才と呼ばれる奴は一人しかいない。
彼も、つまらない仲裁役を喜んでいるようには見えなかったが。

上の空でエリーゼのことを考えていたアルフレッドは、なんとなくエドガーの顔をじっと見つめた。髪の色やどことなく顔が似ている気がする。

「なんだ?」

「いや、これまでじっくり顔を見たりする機会が無かったなと思って」

クラスの連中に囲まれたのでそれきりエドガーとは話せなくなった。
「アルフレッド、文官クラスの奴がまた俺らのことを脳なし筋肉ダルマって馬鹿にするんだ」

暑苦しい。
熱い友情なんてものは苦手だ。

「くだらない争いはやめよう。騎士も文官も王の手足となって国を守るんじゃないか。役割が違うだけだ。
それぞれプライドを持って精進すればいい。お互いを刺激せず、消耗せず向上心を持ち続けよう」

アルフレッドがそう言うと、友人たちがポカンと口を開けた。
「アルフレッド?何か悪いものを食べたのか?」

「いや。でもお前たち、考えてみろよ。こんなところでいがみ合って遺恨が残るとする。

数年後。
いいなと思った女の子や縁談の相手が、そいつらの身内にいるかもしれないじゃないか。


は?何いってんのコイツ

という点で、どちらのクラスの人間も心が一つになった瞬間だった。

「想像してみろよ。可愛い妹がいるかもしれない可能性を。仲良くできる気がしないか?」

雷に打たれたようにそれぞれが脳内で再生した。

「そういえば、お兄様みたいな筋肉男より、知的な文官に憧れます!ってうちの妹が」

「うちの姉は、ひ弱な文官の家系より筋肉を眺めるのが趣味で」

見えた、俺たちにも見えたぜアルフレッド。
可能性ってやつが……!

モテに繋がる可能性があるなら歩み寄ろう。

友好的になろうとそれぞれが態度を改めた。

プライドなんて捨てたらいいじゃないか。
モテたいんだもの。

今までにもモテているアルフレッドが清々しいくらい、実利を選ぶことを示したのだ。

「アルフレッド、今まで君のことを誤解していたかもしれない。軽薄でチャラチャラしていると思っていたが皆の心をつかむために良い策略をもっていたとは。こんな方法は僕も思い付かなかった。
今までの非礼を許してほしい。」

エドガーが珍しく表情を崩してアルフレッドに、握手を求めた。

「いや、策略なんて。俺は本心を言っただけで。誰とでも縁続きになる可能性はあるだろ」

「そうだな」

「ところで、今日来ていた家族の中でエトガーという兄を持つ女の子を探しているんだけど、もしかしてエドガーに妹いたりする?」

「妹はいるが、まだ子供だ」

「そうそう、これくらいの背の。髪は黒髪で瞳はエメラルドみたいな。妹いるんだ?こんど家に遊びに行っても」

「断る!!この変態野郎」

エドガーは握手未遂の手をはたき落とし、表情は氷のようだった。

……そこから数年邪魔され続けて、やっと、結婚にこぎつけた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。 「陛下は、同性しか愛せないのでは?」 そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。 ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...