【R18】鈴蘭の令嬢が羞恥に耐える話【本編完結】

こんなに甘い人だとは聞いてません

「エリーゼ、目を開けて」

少し掠れた声で、耳に直接流し込むように言われたから。

ぞわぞわして、身体がビクリと強ばった。馬車の中で彼の膝に座らされて後ろから抱き締められている。

髪に何度もキスをされて、結った髪を解すように撫でられている。最初は表面だけを優しく撫でていたのに、指を差し込んで頭皮やおでこ、顎、耳を少しずつ揉まれている。

さわさわと動く指が別の生き物のようで、意識が乱れる。

「や、なんだか、」

「どうしたの。いつも髪を撫でたりしているのに今日は」

「いつもと、違います……アルフレッドさ、ま」

腰に回した腕をぎゅっと絞められる。

「アルと呼んでと言ったのに忘れたの？」

「だって」

そんな風に呼んだら、戻れなくなる。
本当に好きになってしまったら、辛いだけなのに

髪をかきわけて、うなじにキスをされる

「ここに印をつけようかな。エリーゼが誰に愛されてるのか。ここと、ここと、」
指を首から座骨、胸元へ滑らせる。

「きっと噂の的だね。すごくいやらしいって思われちゃうよ。」

意地悪な言い方と、ねっとりと往復する指先。

「や、やめてください」

「エリーゼが困るだろうから、我慢してあげてるのに。今日のアレは何なの」

二人は恋人なので一緒に夜会に出席した。若者の多い、家格にうるさくない夜会だ。

アルフレッドが友人と話しているときに数人の令嬢がエリーゼのことを聞こえよがしに噂していた。

「もっと、俺に愛されてるって堂々としてよ。」

「ごめんなさい」

「違うよエリーゼ」

唇に優しいキス。

「信頼されていない俺のせいだ」

舌がツンツンとノックする。

臆病なエリーゼを宥めるように。

緊張がとけたエリーゼの唇を割って舌が入り込む。

行き場を失くして縮こまる舌を捕まえて、
みつけた、というように喜んでいるのがわかる。掬い上げるように彼が同時に指で顎をつかみ固定する。

舌を吸い上げて表面のざらざらを擦り合わせる。一つになれと言うように。

んっ、

と声が喉元で潰れて、顔に血が集まったようにくらくらする。

こうなると、彼は満足してくれる。

「エリーゼ、また目を瞑っているよ」

慌てて開く。

「そう、俺を見て」

にっこりと笑う彼は息一つ上がってなくて、水色の綺麗な目を細めて機嫌が良いのがわかる。

「誰が君をこんなにしたのかちゃんと覚えて」

頷くと、目のはしから涙がこぼれた。

それをチュッと音がするように吸っている。

初めての時に恥ずかしがったから、それからわざと音をたてて吸われる。

「可愛い。君をこんなふうにするのは俺だけだよ」

目蓋に、頬に、口に軽いキスを落とされる。

「俺をこんな風にするのもね」

それは嘘。

だってあなたは


馬車が屋敷に着いた。

彼は髪の毛の乱れを直してくれた。

門から玄関まで手を添え、別れの挨拶まで優等生のような態度。馬車の中の人とは別人みたい。

噂の彼とも、学園の時の彼とも。

どれが本当のアルフレッド様なのか、今でも私は迷っている。