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38. 魔術師は塔から出る

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エデンのなかで、大将と女将、アガットの三人は酒を持っていた。

黙祷をする。

「ベックの望んだことは叶えられたのか?俺たち」

自嘲気味に言う大将に、二人とも言葉を探す。

ヨーク領へむけて何台も馬車を出した。

住民の被害は今のところなさそうだ。
「王政を倒すというのがベックの目的だったわけではない」

エデンでそういう者たちが会合をしているのを黙認していた。
そのメンバーのうちの一人は煽るのが上手い。劇団に所属していると聞いて、成る程と思った。
王政に反対する奴らに、王政批判の脚本を渡しているのが王族のアーノルドだった。

彼もまた、エデンの客だった。
デンバーを捕えるように命じたのはサティ。
現王を倒すクーデターの外側で、もう一つのクーデターが育てられていた。

三人は乾杯した。

「少なくともアメリアは無事だ。」
「ベックは、美味しいものを貴族も平民も皆が喜んで食べる世の中になってほしいとしか思ってないんじゃないか」

夜明けの青い光と共に街の状態が見えてくる。

明けの明星が、半壊した塔の上に輝いていた。



王の前で、フレディはマントをはたいた。砂埃が舞う。

「ねえ、もう僕は塔には居られない。魔術師やめていい?」

「それは困る!」

サティが叫んだ

「反乱なんて起こさない。他国にも行かない。制約を交わしてもいい」

「必要なんだ、国防でお前の力が」

「僕一人に頼るなんて無理があるんだよ。いつ魔力が失くなるかなんてわからない。
大切な人ができたから前線にもあまり行きたくない」

「ぜ、善処する」

「軟禁してる人を解放していいか、それから今の結界はいつ解いたらいい?」

「それは、まだ」

「とりあえず皆、兵士も眠るといい。」

「そんなわけにはいかない、議会の準備を進めなければ」

「めんどくさいなあ、」

ヨーク領から物資が届いている。
とりあえず皆眠って食べて。
頭を使うのはそれからでいい。

「僕も魔力ギリギリなんだけど、このままアメリアのところに行けないし」


睡眠の魔術を城全体にふんわりとかけて、

エデンにアーノルドを連れて降りた。

「大将、酒をくれ」

アーノルドが言うと、大将が笑った。
「親子喧嘩?兄弟喧嘩か?終わったんだな」


「お陰さまで?」


「僕も何かください」

フレディが酒を頼むのは珍しいので、大将がジョッキを持ってくる。
「いや、そんな量は飲めない。グラスでいい」

「ヨーク領のチーズとベーコンは絶品なんだが、どうだ」

アガット様がウインクする。

「貴方は本当にそういう嫌みな貴族ったらしい気障な仕草が似合いますね。中年のくせに」

「酔うと口が悪いな」

「一滴も飲んでないわね」

「早く眠って回復して、アメリアのとこに行かないと」

「あ、俺もシアと結婚しなきゃ」

「おお!めでたいな!」

大将がベーコンを炙りだした。

「アメリアが、ベーコンを炙った油でまかないのパスタを作ってくれた」

この店のあちこちにアメリアの痕跡がある。


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