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36. アーノルド
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「シア、僕と逃げてくれない?」
恋人になって間もない人からそう言われた。普段はふざけているような口調なのに、こういう時の彼はずるい。
「そうねえ。
私、本がないところでは生きていけないわ。司書だもの。」
「じゃあちょうど良いね。僕は作家だから、たくさん本を書くよ」
笑ってしまった。
だって、貴方
「退屈な田舎で、僕は消費されるためのくだらない劇を書くよ。君と皺だらけになるまで、ペンを持てなくなったら歌にしよう。ずっと物語を作るよ」
笑いすぎて滲んだ涙を見られないように、抱きついた。
だって、貴方、作家の癖に嘘が下手すぎるわ。
一緒に逃げようと言いながら、ヨーク領へ避難する馬車に私だけを乗せて、王城のほうへ行く。
みんなが逃げている方向と逆なのに。
置いてきたものを取りにいくの?
それとも、きちんと渡すために戻るの?
重厚な作りの冷たいお城に貴方は育った。
アーノルド王子
あなた、本当に馬鹿だわ。
次に出会ったら嘘つきって怒らないと。
ポツリ、と雫が頬を打った。
見上げると、次々に雨粒が落ちてくる。
塔はもうない。
王城のどこかから雨を降らせているんだろう。
稀代の天才魔術師は、予言もできるんだろうか。
「プロポーズ成功したのかな、フレディさん。」
火の手がエデンの前で勢いを失くしていく。
エデンを守ってくれたんだ。
あそこは私とアートさんの出会った場所だし、フレディさんとアメリアさんにも思い出があるはず。
司書なんて、役に立てないなあ。
この夜のことは本にどう書かれるんだろう。
歴史に本は永遠に追い付かない。
残った者だけが、歴史を語ることを許される。
アートが戻ってきたら、聞かせてもらおう。
ヨーク領に向けて、一台目の馬車が出発する。
少しずつ遠ざかる。
肩を両腕で抱いてやり過ごした。
街道で王都へ向かう馬車とすれ違う。食料や毛布を積んでいる。ヨーク領からだろう。
膨大な量の物資が流れている。
ヨーク領ではアメリアさんが迎えてくれた。温かいスープをみんなに渡している。
マグカップやティーカップ、いろんな器に入れられた黄金色のスープは優しい味がした。
お腹が満たされると涙が止まらなくなった。
恋人になって間もない人からそう言われた。普段はふざけているような口調なのに、こういう時の彼はずるい。
「そうねえ。
私、本がないところでは生きていけないわ。司書だもの。」
「じゃあちょうど良いね。僕は作家だから、たくさん本を書くよ」
笑ってしまった。
だって、貴方
「退屈な田舎で、僕は消費されるためのくだらない劇を書くよ。君と皺だらけになるまで、ペンを持てなくなったら歌にしよう。ずっと物語を作るよ」
笑いすぎて滲んだ涙を見られないように、抱きついた。
だって、貴方、作家の癖に嘘が下手すぎるわ。
一緒に逃げようと言いながら、ヨーク領へ避難する馬車に私だけを乗せて、王城のほうへ行く。
みんなが逃げている方向と逆なのに。
置いてきたものを取りにいくの?
それとも、きちんと渡すために戻るの?
重厚な作りの冷たいお城に貴方は育った。
アーノルド王子
あなた、本当に馬鹿だわ。
次に出会ったら嘘つきって怒らないと。
ポツリ、と雫が頬を打った。
見上げると、次々に雨粒が落ちてくる。
塔はもうない。
王城のどこかから雨を降らせているんだろう。
稀代の天才魔術師は、予言もできるんだろうか。
「プロポーズ成功したのかな、フレディさん。」
火の手がエデンの前で勢いを失くしていく。
エデンを守ってくれたんだ。
あそこは私とアートさんの出会った場所だし、フレディさんとアメリアさんにも思い出があるはず。
司書なんて、役に立てないなあ。
この夜のことは本にどう書かれるんだろう。
歴史に本は永遠に追い付かない。
残った者だけが、歴史を語ることを許される。
アートが戻ってきたら、聞かせてもらおう。
ヨーク領に向けて、一台目の馬車が出発する。
少しずつ遠ざかる。
肩を両腕で抱いてやり過ごした。
街道で王都へ向かう馬車とすれ違う。食料や毛布を積んでいる。ヨーク領からだろう。
膨大な量の物資が流れている。
ヨーク領ではアメリアさんが迎えてくれた。温かいスープをみんなに渡している。
マグカップやティーカップ、いろんな器に入れられた黄金色のスープは優しい味がした。
お腹が満たされると涙が止まらなくなった。
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