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32. 変わりゆく
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「いらっしゃいま、フレディ!」
アメリアの声が変わったので注目を集めた。
フレディが片手を軽くあげる。
そのままアメリアの方に来ようとする。
甘い笑みを浮かべて。
見た人が驚いている。
「『塔のブレディ』?あれが?」
「働いてるところがみたくて、来てしまった」
「もう、終わったら会いに行くのに」
二人のやり取りが聞こえた客も、聞こえなかった客も、察した。
激辛料理とビールの注文が続いた。
「大将、甘くてやってられねえよ……!」
「仕事の後にこの甘さはささくれた心に沁みます」
「残業お疲れ様です」
女将が女性文官に一口のレモンゼリーをサービスした。
「そういえば、最近はデンバーさん達みませんね。」
アメリアが女将さんに言った時に、一瞬フレディと女将さんは目を合わせた。
その場にいた文官も。
「最近は忙しそうだから、あの部署」
「もしかして結婚準備のほうが忙しいのかもね」
フレディは卵とトマトのリゾット。
ランチを人並みに食べられるようになったけれど、夕食は軽めにとる。
アメリアの薦めてくれたメニューがお気に入りだ。
「本当に、変わったわね」
「そうだね。僕が食べられるようになったのはアメリアのお陰だし、変わろうと思ったのは出会ったからだし。
ユージンに言われなければ、エデンに来なかった」
「私も変わったわ」
アメリアの仕事が終わってから家まで送る。
「おやすみ、また明日」
「おやすみ」
フレディは王宮に向かって歩く。
エデンの前を通りすぎようとして、足を止めた。
大将がドアにもたれて待っていた。
「たまには俺にも付き合ってくれねえか」
「少しだけなら」
「お前さん、ほんっとに表情作らねえな!アメリアの前とは別人だな」
あからさまに嫌そうなフレディの背中を叩いた。
「酒は飲むのか?」
「あまり飲んだことはない。酔わないので、飲む必要がない。」
「じゃあ茶でいいか」
「構わない」
「アメリアにプロポーズしてないらしいな」
フレディの前にジョッキがドンと置かれた。
お茶をジョッキで出されるとは。説教が長くなりそうだ。
「指輪は贈ったのに?プロポーズはないのか」
「あれはアメリアの母がアメリアに譲ったもので、加護をつけやすかった。」
「それでも、お前と揃いでしてれば周囲はそういう関係だと思う」
「……終わってから。もし、僕に何かあればアメリアを一人にしてしまう。」
「あの子を一人になんかさせるもんか。
俺らがいる。エレンもいる。アガット様も。
だけど、そういうことじゃないってこともわかってる。
お前さんがアメリアの唯一なら、俺らも」
大将はビールを煽った。
「俺達も、お前さんを守る」
「ありがたいけど、僕は一人が良いんだ。
孤高の、塔のフレディだからね」
「俺だけでいいから、って。やってもないことを疑われたときに捕まった奴がいた。
話せばわかってくれるだろうからって。
それでも、そいつは多くのものを失った。
わかるか?アメリアの父親だ。この店を、俺を、守ってくれた。
だから、俺は恩を返さないといけない。ベックにはもう返せない。
だから、アメリアとお前を助ける。」
「そういうの、苦手なんですよ僕は」
「お前なあ、人の真剣な話を」
「だから、好きにしてください」
「なんでアメリアはこんな可愛げのない奴が良いんだ。でも仕方ない。
なあ、アメリアを一人にしないでくれよ」
「アガット様にも同じことを言われた。」
エデンを出て、王城に戻る。
どこからでも塔が見える。
中にずっといたので、外から見上げることも少なかった。
最近になってからだ。
灯りのついていない塔が人からどのように見えているのか考えた。寂しくて遠くて、それを好むような人間だと思われていたのだろう。
僕は本当に多くのものを知らずに大人になった。
童話なら、塔から助け出されるのはお姫様だ。
僕は違うから、自分から出ないといけない。
アメリアの声が変わったので注目を集めた。
フレディが片手を軽くあげる。
そのままアメリアの方に来ようとする。
甘い笑みを浮かべて。
見た人が驚いている。
「『塔のブレディ』?あれが?」
「働いてるところがみたくて、来てしまった」
「もう、終わったら会いに行くのに」
二人のやり取りが聞こえた客も、聞こえなかった客も、察した。
激辛料理とビールの注文が続いた。
「大将、甘くてやってられねえよ……!」
「仕事の後にこの甘さはささくれた心に沁みます」
「残業お疲れ様です」
女将が女性文官に一口のレモンゼリーをサービスした。
「そういえば、最近はデンバーさん達みませんね。」
アメリアが女将さんに言った時に、一瞬フレディと女将さんは目を合わせた。
その場にいた文官も。
「最近は忙しそうだから、あの部署」
「もしかして結婚準備のほうが忙しいのかもね」
フレディは卵とトマトのリゾット。
ランチを人並みに食べられるようになったけれど、夕食は軽めにとる。
アメリアの薦めてくれたメニューがお気に入りだ。
「本当に、変わったわね」
「そうだね。僕が食べられるようになったのはアメリアのお陰だし、変わろうと思ったのは出会ったからだし。
ユージンに言われなければ、エデンに来なかった」
「私も変わったわ」
アメリアの仕事が終わってから家まで送る。
「おやすみ、また明日」
「おやすみ」
フレディは王宮に向かって歩く。
エデンの前を通りすぎようとして、足を止めた。
大将がドアにもたれて待っていた。
「たまには俺にも付き合ってくれねえか」
「少しだけなら」
「お前さん、ほんっとに表情作らねえな!アメリアの前とは別人だな」
あからさまに嫌そうなフレディの背中を叩いた。
「酒は飲むのか?」
「あまり飲んだことはない。酔わないので、飲む必要がない。」
「じゃあ茶でいいか」
「構わない」
「アメリアにプロポーズしてないらしいな」
フレディの前にジョッキがドンと置かれた。
お茶をジョッキで出されるとは。説教が長くなりそうだ。
「指輪は贈ったのに?プロポーズはないのか」
「あれはアメリアの母がアメリアに譲ったもので、加護をつけやすかった。」
「それでも、お前と揃いでしてれば周囲はそういう関係だと思う」
「……終わってから。もし、僕に何かあればアメリアを一人にしてしまう。」
「あの子を一人になんかさせるもんか。
俺らがいる。エレンもいる。アガット様も。
だけど、そういうことじゃないってこともわかってる。
お前さんがアメリアの唯一なら、俺らも」
大将はビールを煽った。
「俺達も、お前さんを守る」
「ありがたいけど、僕は一人が良いんだ。
孤高の、塔のフレディだからね」
「俺だけでいいから、って。やってもないことを疑われたときに捕まった奴がいた。
話せばわかってくれるだろうからって。
それでも、そいつは多くのものを失った。
わかるか?アメリアの父親だ。この店を、俺を、守ってくれた。
だから、俺は恩を返さないといけない。ベックにはもう返せない。
だから、アメリアとお前を助ける。」
「そういうの、苦手なんですよ僕は」
「お前なあ、人の真剣な話を」
「だから、好きにしてください」
「なんでアメリアはこんな可愛げのない奴が良いんだ。でも仕方ない。
なあ、アメリアを一人にしないでくれよ」
「アガット様にも同じことを言われた。」
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どこからでも塔が見える。
中にずっといたので、外から見上げることも少なかった。
最近になってからだ。
灯りのついていない塔が人からどのように見えているのか考えた。寂しくて遠くて、それを好むような人間だと思われていたのだろう。
僕は本当に多くのものを知らずに大人になった。
童話なら、塔から助け出されるのはお姫様だ。
僕は違うから、自分から出ないといけない。
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