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29.  墓参り

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フレディはすぐに帰るつもりだった。

エレンが墓参りに誘った。
ベックの出身の村も領内にあった。

墓地の奥に一本の樹木が木陰を作っていた。芝生が植えられていてレンガで囲ってある。
「このレンガ見覚えがあるような気がするわ」

「エデンと同じレンガよ」

他のお墓は石が並んでいて、遠くからどれも同じに見えた。
「私が、明るいお墓にしたいって我儘を言ったのよ。ベックはお日さまの光を浴びた緑色の目と、夕焼けみたいな髪をしていたから。ほら、そろそろ」

夕暮が近づいていた。
山を染める朱色が、皆の頬を染める。

手を合わせてフレディはしゃがんで俯いていた。

「死者と話す魔術はないが、アメリアを見ていたら父上がどんな人柄だったのかわかる気がする」

「明るくて、優しくて、食べ物が大好きで
お腹をすかせた人を放っておけなくて、あと、多分自分のことを後回しにしそうな」

エレンが微笑みながら、後ろを向いた。アガットがハンカチを渡したら、鼻をかんだ。

アメリアはフレディの手を握って笑う。

「アメリアをよろしくね」

エレンは別れの時にフレディの手を両手で握って泣いていた。

フレディも、ペコペコと頭を下げていた。
「そうだ、花嫁の支度の中にいいものがあったわ」

エレンがアメリアを連れていく。

「エレンが騒がしくてすまないな。
アメリアが大人びてしまったのは私のせいだ。」

「今のアメリアをつくったものなら全て僕にとってはありがたいです」

「君、変わったな。前はもっと」

アガットは、空をみた。

「ちょっとベックに似ている」

「アガット卿、もしもの時はアメリアをお願いします。」

「頼まれずとも全力で守る、と言いたいところだが。
預かるのはいいが、
好きな男を待つ女を二人も慰めるのは荷が重い。
エレンのお守りだけで忙しいから、アメリアは君がちゃんと面倒見ろ」

フレディは、力強く頷いた。


不穏な王都に戻るのは気が進まないが、居ないうちに物事を進められるのも困るのだ。

アメリアが小さな小箱を持って戻ってきた

銀の結婚指輪。

「これ、使ってくれない?」

「エレン、これには紋章が入っている。それに若い者は嫌がるだろう」

「用意したのは両親で、私もアガットもはめてないわ。アメリアはどう?あとで加工すればいいのよ」

「私はいいけど、フレディはどう?」

「あ、ぜひ。」

「いいのか?」

アガットが聞く。
「君、そういうの嫌がりそうなのに」

「先祖に縁のあるものは守護の付与を付けやすいですし、この土地の代々の領主ならこの地の力も借りられます。
アメリア、今はめてくれたら付与をつけてあげる」

なるほど、そういう魔術的で合理的な、一見相反するような理由があるのかと感心した。

「じゃあ、お互いに嵌めるといいわ!」
エレンが拍手をして、
二人は照れながらお互いに指輪を嵌めた。

魔法陣が光る。

フレディとアメリアは戻った。



「なーんか、大人になっちゃったのねえ」

ふふ、と笑いながらエレンが少し寂しそうなので。

「飲むか」

アガットは、秘蔵のワインと、チーズを開けることにした。
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