2 / 40
2.気になる客
しおりを挟む
ランチタイムのあと、アメリアは休憩に入る。
一人暮しのアパートに戻ったり、買い出しを頼まれたりすることもある。
街を散策することもある。
夕飯時にはまた店に出る。
少しメニューも変わり、お酒に合う単品が増えている。
王城で働く人が帰りに軽く飲めるように、グラスワインの種類を増やしたそうだ。
あと、女性用のアルコール度数の低いものも置いている。
男性の横に女性が座って酌をしたり、疑似恋愛めいた会話を楽しむ店は、もっと繁華街にある。
アメリアが昼間と同じようにテキパキと接客をするのが女性客には印象が良いらしい。
そして、普通の女性がいる店ということで男性もそれなりに行儀よく、羽目を外しすぎないので、自然な成り行きで恋が生まれることがあるらしい。
あるらしい、と不確かなのは
「アメリアのおかげて交際して結婚したよ!ありがとう」
と言われることが時々あるからだ。
アメリアとしては普段と同じように接しているつもりなので、不思議だ。
味の好みの似ている常連さん同士に試作品を出してみたら、それがきっかけで二人が大皿をシェアする仲になったり
お酒の好きな女性にお酒の弱い男性が無理して飲もうとしていたデキャンタの残りを
相席にして飲んでもらったり
静かに本を読んでる方がちらほら居たので、一画にソファと本棚を置いてみたり
(ここには、誰でも本を寄贈できるようにしたら、お忍びで来ていた劇作家と司書が仲良くなったり)
アメリアからしたら
「自然と惹かれ合う二人なら、うちじゃなくてもそのうちどこかで会って進展してたんじゃないですか」
って平然と言っているけれど。職場以外で偶然の出会いを望む男女にとっては得難い場となっていた。
まあ、王城で働く人が多いのでもともと顔見知りという場合もあるし、ちょっと探れば人となりを知ることもできる。
アメリアは人の恋が始まるのをみるのが好きだった。
デンバ―さんとカレンさん(王城のメイドさん)は、ランチの次の次の週には夕食を食べに来てくれた。
そのあと、カレンさんが同僚の方たちと夜に来てくれた。
お食事は他で済ましたので、デザートだけでも良いですか?と。
もちろんです!とご案内しました。
夜に女性が入りやすい店って思ってもらえたなら嬉しいです。
ただ、王城の寮に戻るという二人を騎士団の方が送りますって言ってカレンさんの同僚の方たちがうっとりしていたのは……。
もしかしたらデンバーさんには申し訳ないことになっているかもしれない。
カレンさんは黒髪をひとつにまとめた清楚系の方の美人さんだけど、笑顔がフワッと幼くなるのだ。あれはヤバい。
デンバーさんは押しが強い感じでもなさそうだし
と、思っていたら彼がやってきた。
「粥」
この時間にお食事ですか、それもお粥ですか、もしかして今日これが一回目のお食事じゃあないでしょうねアナタ
「かしこまりました」
にこり、と笑顔でもろもろの質問を押さえ込んで厨房に伝えに行く。
最近ふらっとやってくる彼は、黒いローブのフードを被っている。前髪が長い。頼むのはスープ、野菜ジュース。一度、アメリアがリゾットと庶民の作るシンプルな玉子粥をすすめたら、時々頼むようになった。
それをゆっくり匙で口に運びながら、じいっと周囲を窺っている。
怪しさしかない。
でも、彼は有名すぎた。
「あ、塔の魔術師」
「え、実在したのか変人フレディ」
「もっとヨボヨボだと思ってた」
「不老不死なんじゃない?」
アメリアとしては、不老不死の前にそんな食生活だと病気になりますよって言ってあげたい。
というか初日に言ったわ。
言ってやったわ。
「ごはん食べに来たんじゃないんですか?」
「違う」
「はあ?」
「ここで男女の出会いがあると聞いたので」
アメリアはイラッとした。
恋の前に健康な体!恋愛のドキドキに耐えられる血管を、まずは野菜、肉、それから……
珍しく激しい口調で詰め寄った。
「アナタねえ、まともな恋がしたかったらまずは……」
「違う。僕は恋愛を求めているんじゃない。研究、違うな、社会勉強のつもりで見に来たんだ」
こ の ひ と、変 わ っ た 人 だ
アメリアは、それ以来彼を見守っている。
だって、悪い人に騙されそうだから。
周囲に身バレしているのにフードを被っているのも、過去につらい思いをしたのかもしれない。とさえ思った。
実は本人はただのクセで無意識なのだったが。
一人暮しのアパートに戻ったり、買い出しを頼まれたりすることもある。
街を散策することもある。
夕飯時にはまた店に出る。
少しメニューも変わり、お酒に合う単品が増えている。
王城で働く人が帰りに軽く飲めるように、グラスワインの種類を増やしたそうだ。
あと、女性用のアルコール度数の低いものも置いている。
男性の横に女性が座って酌をしたり、疑似恋愛めいた会話を楽しむ店は、もっと繁華街にある。
アメリアが昼間と同じようにテキパキと接客をするのが女性客には印象が良いらしい。
そして、普通の女性がいる店ということで男性もそれなりに行儀よく、羽目を外しすぎないので、自然な成り行きで恋が生まれることがあるらしい。
あるらしい、と不確かなのは
「アメリアのおかげて交際して結婚したよ!ありがとう」
と言われることが時々あるからだ。
アメリアとしては普段と同じように接しているつもりなので、不思議だ。
味の好みの似ている常連さん同士に試作品を出してみたら、それがきっかけで二人が大皿をシェアする仲になったり
お酒の好きな女性にお酒の弱い男性が無理して飲もうとしていたデキャンタの残りを
相席にして飲んでもらったり
静かに本を読んでる方がちらほら居たので、一画にソファと本棚を置いてみたり
(ここには、誰でも本を寄贈できるようにしたら、お忍びで来ていた劇作家と司書が仲良くなったり)
アメリアからしたら
「自然と惹かれ合う二人なら、うちじゃなくてもそのうちどこかで会って進展してたんじゃないですか」
って平然と言っているけれど。職場以外で偶然の出会いを望む男女にとっては得難い場となっていた。
まあ、王城で働く人が多いのでもともと顔見知りという場合もあるし、ちょっと探れば人となりを知ることもできる。
アメリアは人の恋が始まるのをみるのが好きだった。
デンバ―さんとカレンさん(王城のメイドさん)は、ランチの次の次の週には夕食を食べに来てくれた。
そのあと、カレンさんが同僚の方たちと夜に来てくれた。
お食事は他で済ましたので、デザートだけでも良いですか?と。
もちろんです!とご案内しました。
夜に女性が入りやすい店って思ってもらえたなら嬉しいです。
ただ、王城の寮に戻るという二人を騎士団の方が送りますって言ってカレンさんの同僚の方たちがうっとりしていたのは……。
もしかしたらデンバーさんには申し訳ないことになっているかもしれない。
カレンさんは黒髪をひとつにまとめた清楚系の方の美人さんだけど、笑顔がフワッと幼くなるのだ。あれはヤバい。
デンバーさんは押しが強い感じでもなさそうだし
と、思っていたら彼がやってきた。
「粥」
この時間にお食事ですか、それもお粥ですか、もしかして今日これが一回目のお食事じゃあないでしょうねアナタ
「かしこまりました」
にこり、と笑顔でもろもろの質問を押さえ込んで厨房に伝えに行く。
最近ふらっとやってくる彼は、黒いローブのフードを被っている。前髪が長い。頼むのはスープ、野菜ジュース。一度、アメリアがリゾットと庶民の作るシンプルな玉子粥をすすめたら、時々頼むようになった。
それをゆっくり匙で口に運びながら、じいっと周囲を窺っている。
怪しさしかない。
でも、彼は有名すぎた。
「あ、塔の魔術師」
「え、実在したのか変人フレディ」
「もっとヨボヨボだと思ってた」
「不老不死なんじゃない?」
アメリアとしては、不老不死の前にそんな食生活だと病気になりますよって言ってあげたい。
というか初日に言ったわ。
言ってやったわ。
「ごはん食べに来たんじゃないんですか?」
「違う」
「はあ?」
「ここで男女の出会いがあると聞いたので」
アメリアはイラッとした。
恋の前に健康な体!恋愛のドキドキに耐えられる血管を、まずは野菜、肉、それから……
珍しく激しい口調で詰め寄った。
「アナタねえ、まともな恋がしたかったらまずは……」
「違う。僕は恋愛を求めているんじゃない。研究、違うな、社会勉強のつもりで見に来たんだ」
こ の ひ と、変 わ っ た 人 だ
アメリアは、それ以来彼を見守っている。
だって、悪い人に騙されそうだから。
周囲に身バレしているのにフードを被っているのも、過去につらい思いをしたのかもしれない。とさえ思った。
実は本人はただのクセで無意識なのだったが。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】王城司書がチャラい作家と出会った話
仙桜可律
恋愛
王城図書館司書のシアは誰からも真面目な女性だと思われていた。自身でもそう思っていた。きっちりとした纏め髪、紺色に白いカフスのワンピース。グレーのスカーフを巻いている。
そんな彼女が見るからに軽い男性に口説かれて髪をほどかれている。
なんでこんなことに……?
シアが意識するよりずっと前から狙われていたなんて。彼は流行りの劇作家だという。嘘を本当にしてしまいそうな口振りにシアは翻弄される。
一見チャラい彼は実は策士でした。
劇作家×真面目司書
酔菜亭『エデン』シリーズ
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる