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本編
最終話
しおりを挟む「殿下の目を治す為とは…事情も知らず、暗殺目的と決めつけ、
セレスティア妃に手荒な真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」
朝、何処からともなく現れたザックに謝罪をされた。
「いえ、仕方の無い事です、それに、わたしも騙されていた訳ですし…
わたしの事は、気になさらないで下さい…」
「そうだ、おまえは騙され易くて困る。
今回は助かったが、おまえを放って置くと危険だと、身に染みて分かった。
当分、独りにはなれぬから覚悟しろ、セレスティア」
レオが厳しく言う。
だが、そこには甘い空気があり、わたしは気恥ずかしく顔を赤くした。
使い魔に眠らされていたザックは、いつの間にか部屋から忽然と消えていた。
一体、いつ気が付いたのか、情事を見られてしまったのではないかと、
わたしは恥ずかしく、気が気では無かった。
「ザックなら直ぐに部屋を出ただろう、密偵であっても情事を覗く趣味は無い。
忘れてやれ、ザックの方も気まずいだろう」
レオが言ってくれたので、それを全面的に信じる事にした。
レオの目が戻った事を、城の皆は喜んだ。
だが、祝福に浸る間も無く、レオとわたしは翌日には城を立つ事にした。
王都へ戻る為だ___
王太子暗殺計画の陰謀を暴き、王太子を護る為。
騎士団団長への復帰、第二王子としての公務への復帰等、
レオが力を取り戻せば、第三王子フレドリックに対する牽制にもなる。
「セレスティア、馬は乗れるか?」
「はい、十五歳までは父や兄たちに習いましたので、長距離も乗れます」
「おまえには驚かされるな、だが、流石、ザカリーの娘だ!」
わたしたちは必要最小限の荷物を纏め、馬に乗った。
馬車で行くよりも、かなりの時間が短縮出来る。
ザックはわたしたちの受け入れの準備をする為、前日に立っていた。
レオの目が治った事は、王とレオの側近にだけ伝え、暫くは内密にする。
王太子が命を狙われた今、それを知られては、王都に着く前に命を狙われかねないからだ。
◇◇
わたしたちは王都の手前の町で、馬車に乗り換え、王都に入った。
わたしはベールを被り、顔を隠している。
レオも仮面を着け、顔を隠していた。
馬車が王城へ着くと、当然衛兵は怪しんだ。
そこに騎士団員たちが連れ立って現れ、衛兵は何事かと驚いていた。
「第二王子、レオナルド殿下である!直ちにお通ししろ!」
その声の迫力に、衛兵は敬礼をして従い、馬車を通した。
馬車を降りると、レオの側近であるノーマンが迎えてくれた。
「レオナルド殿下、セレスティア妃、ご無事でなによりです」
「ああ、王に会えるか?それから、司教も連れて参れ!」
「はい、殿下と妃殿下は、お着換えになられますか?」
「そうだな、長旅だった、行こう、セレスティア」
「はい、殿下」
普段は「レオ」だが、人前では「殿下」と呼ぶのが相応しい。
最近はずっと「レオ」と呼んでいたので、気を付けなくてはいけない。
わたしたちは部屋に案内された。
レオの部屋は以前使っていた部屋で、わたしの部屋は隣に用意されていた。
身支度をし、相応しいドレスに着替えると、身が引き締まった。
これから表に立つ時には、《妃殿下》を演じなければならない。
オウルベイの城へ居た時の自由さは、もう望めないだろう。
だけど、何を置いても、わたしは愛しい夫の助けとなる道を選ぶ___
わたしはベールを被り、仮面を着けたレオと共に、謁見の間に向かった。
金で飾り立てられた扉が開き、内に入る。
赤い絨毯の敷かれた先には、玉座があり、王の姿があった。
レオとわたしは前に進み、礼をした。
「レオナルドです、只今戻りました」
「目が治ったそうだな、見せてみよ」
レオは仮面に手を伸ばし、それを取った。
王は目を見開き、息を飲んだ。
「真であったか…!だが、一体、どの様にして、奇跡を起こしたのだ?」
「奇跡を起こしたのは、セレスティア妃です。
彼女は聖女の力を用い、私の目を奪っていた闇を浄化したのです」
「なんと!だが、その者は、聖女の力を失ったと聞いておるが…」
王が脇に立つ司教に目を向ける。
司教は愕然とし、顔色を悪くしていた。
「はい、確かに…力は消えておりました」
「今一度、鑑定をお願い致します」
レオが進言し、王も「許す」と司教を促した。
わたしはベールを取り、司教に向かう。
司教は恭しく水晶玉を覗いた。
「これは!た、確かに、聖女の光!聖女の力が戻っております!
しかし、この様な事例は初めてで…」
「初めてだから何だと言うのだ、聖女の力が戻ったのであれば、《聖女》であろう!」
王はキッパリと言い放った。
そして、わたしに向かい、言った。
「セレスティア妃よ、レオナルドの目を治してくれた礼を言うぞ。
そなたは誰にも出来ぬ事を成し遂げた、これは、称えるべき事だ。
他に何か望みがあれば、申すが良い」
「恐れながら、わたしの悪評を祓う機会を頂きたいと思います」
「王都で流れている悪評か、だが、この事を知れば、それも覆るでろう」
「わたしはレオナルド殿下を裏切った事はございません、それを証明したいのです。
わたしの殿下への忠誠を、皆に示したいのです、どうか、機会をお与え下さい」
「そこまで言うのであれば、やってみよ。
だが、疑いの芽は一度芽吹くと摘み取る事は難しいものぞ」
「はい、恐れながら、もう一つ、お願いがございます」
「申してみよ」
「わたしは今後、レオナルド殿下に付き、聖女の役目を果たす事を望みます」
「レオナルドには騎士団長として復帰して貰う、大戦が終わった今、
おまえを専任の聖女に就ける事に異論はない、望む様にするが良い」
王と約束を取り付け、わたしは安堵した。
わたしの悪評を祓う事、そして、レオと共に働く事は、わたしの、そしてレオの望みだった。
謁見の間を出たわたしたちは目配せをし、微笑み合った。
「これで、殿下と共に居る事が出来るのですね!」
「ああ、だが、その前に、アレを片付けねばならんな」
レオはずっと、わたしの悪評を祓う算段を練っていた。
それを実行に移す時が来たのだ___
◇◇
わたしに聖女の力が戻り、それによりレオの目を治す事が出来た。
レオは王都に戻り、騎士団長に復帰する…
この話は、瞬く間に王都中に広められた。
「レオナルド殿下がお戻りになられた!」
「元大聖女様が、レオナルド殿下の怪我を治されたそうだ!」
「流石、元大聖女様だ!」
「けど、力も無いのに、どうやって治したんだい?」
「それが、不思議な事に、無くなった筈の聖女の力が戻ったというのさ!」
「奇跡じゃないか!」
「妃殿下の殿下への愛が、力を戻したらしい!」
「そうじゃなきゃ、こんな奇跡は起こらないよ!」
「妃殿下は、僻地まで殿下に付いて行き、献身的にお世話をされたそうだよ」
「流石、大聖女様だ…」
好意的に受け入れられたが、一部、やはり悪評は蔓延っていた。
「だけど、妃殿下には愛人がいるんだろう?」
「殿下を愛しているなんて、上辺だけさ!」
「妃殿下と寝た奴は、何人もいるって噂だ」
「殿下がお可哀想だわ!」
「離縁なさるべきよ!」
揶揄するようなビラが撒かれ、多くの者たちが噂をし、笑っていた。
城からの兵がビラの回収に当たっていたが、そんな仕事をさせられるのだから、
兵たちにも不満が募った。
「妃殿下のお陰で迷惑しているよ」
「迷惑料に、妃殿下を抱かせて貰いたいもんだな」
「妃殿下は、どんないい女なんだ?」
「絶世の美女か?魔性の女か?」
「さーな、見た事があるって奴はほとんどいないらしい」
◇◇
レオとわたしは帰還と回復を知らせる為、馬車に乗り、王都を周る事になった。
レオは仮面を着けておらず、王子服を着ていた。
わたしはドレス姿だが、やはりベールを被っている。
「レオナルド殿下!お帰りなさい!」
「レオナルド殿下!英雄が帰って来たぞ!」
「レオナルド殿下!ご回復おめでとうございます!」
「レオナルド殿下!万歳!」
多くの者たちが通りに出て、熱狂していた。
わたしたちは窓から手を振り、声援に応えた。
馬車は大きな広場へと向かい、そこで停まった。
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レオは馬車から降りると壇上に立った。
周囲から歓声が上がる。
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大変な侮辱だ!この事に、セレスティア妃は心を痛めている。
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ここに集まった者たちは、その証人である!その目で真実を見極めるのだ!」
レオが凛とした声で宣言すると、周囲は騒然となった。
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「レオナルド殿下はセレスティア妃を信じているのね…」
「逆に傷つかなきゃいいけどね…」
周囲が落ち着くのを待ち、レオは続けた。
「ここに、セレスティア妃と関係を持ったと主張している者たちを集めた。
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ジェイソン・ドネリーを始め、見た事も無い男たちが二十名程、前に一列に並んだ。
他に出て来る者はおらず、レオはその者たちに向かい、言った。
「おまえたちが、セレスティア妃と関係を持ったと吹聴している者たちだな?
それでは、これから、一人ずつ、セレスティア妃とどの様に出会い、何をしたか、
存分に話すが良い。何を話しても良い、だが、嘘偽りは許さない、
その責任は負って貰うぞ!それでは、始めよ!」
ジェイソンが一歩前に出て、集まっている人たちに向かい、饒舌に話し始めた。
「ジェイソン・ドネリーです、騎士団員です。
セレスティア妃の兄ロバートの昔馴染みで、彼女の事は幼い頃から知っています。
彼女が聖女として神殿に上がってからも、慕ってくれ、文のやり取りをしていました。
私にとっては妹の様な存在でしたが、町で会った時に彼女から迫られ、関係を持ちました。
その時、彼女は既に経験がありましたので、誰にでも同じなのだろうと解釈していました。
それから、何度か町で会い、同じ様な事になりましたが、私に特別な感情はありませんでした。
殿下と結婚したと聞き、殿下の城に向かう際に、私は関係を断ち切るべきだ、
これからは殿下だけとするべきだと話したのですが、彼女に泣いて縋られ、
気の毒になり断れませんでした。殿下には本当に申し訳無く思っています…」
レオに取り入るかの様に言ったが、レオはすげなく「次の者!」と促した。
「会ったのは一度だけだ、自分でセレスティアって言ってたよ、酒場で誘われたんだ」
「警備に就いていた時、しつこく誘われました、断ったのですが、どうしてもと言われ…」
「好き者の聖女様って有名でさ、宿屋に連れ込んでやらせてくれるんだよ」
それぞれが悪質でわたしを貶める話をした。
嘘の話は聞くに堪えなかったが、わたしはじっと、その時を待った。
「どうなるんだ、これ?」
「本当の話かな?」
「だけど、こんな公の場で話すんだ、嘘じゃないだろう?」
「だけど、信じられないよ…」
「レオナルド殿下はどうやって潔白を証明するつもりなのかな?」
聞いている者たちにも、その真意は推し量れなかった。
全ての者たちが話終えると、周囲は一旦鎮まり返った。
レオが口を開く___
「話は全て聞いた、私から言える事は、今の話は全て嘘だという事だ」
周囲がざわめいた。
「一つずつ論破していってもいいが、面倒だ、それに馬鹿馬鹿しい。
なので、この場ではっきりさせる___」
レオがパンパンと手を叩くと、十名の女性たちが壇上に現れた。
皆、同じドレスを纏い、同じ白いベールを被っている。
「セレスティア妃と関係を持った、深い仲だと言うのであれば、簡単に分かるであろう?
この中からセレスティア妃を選ぶが良い!
だが、もし、間違えたならば、妃殿下を陥れた罪で、その首を刎ねる!覚悟しろ!」
レオの声が轟くと、男たちの顔色は悪くなった。
「お、おい!俺は顔なんて知らねーよ!」
「妃殿下の顔なんか、教えて貰ってねーし…」
動揺し口走った者たちは、騎士団員に取り押さえられた。
「誰に頼まれたか詳しく話せ、真実を話すなら、命までは取らん。
だが、この機を逃した者に情けは掛けぬ!」
レオが最後通告をすると、皆顔色を変え、捲し立てた。
「は、話す!話すから助けて下さい!」
「俺もだ!金を貰って頼まれたんだよ!」
「誰かは知らねーが、衛兵みたいな奴でさ、金貰ったんだよ…」
「全部、嘘だよ!妃殿下なんか、見た事もないんだ!」
男たちは白状し、騎士団員たちに拘束された。
周囲の者たちは彼らを口汚く罵った。
「何て卑劣な奴等だ!」
「金の為に、妃殿下を陥れるとは!」
「酷いわ!あんまりよ!」
「妃殿下が可哀想だわ!」
ほとんどの男たちが連れて行かれ、三人の男が残った。
一人はジェイソン・ドネリー、そして、騎士団員らしい男が二人。
ジェイソンは勿論だが、他の二人も、何処かでわたしを見た事があるのだろう。
「ほう、まだ嘘を吐き通すか?
だが、言った筈だ、間違えたら容赦はしない、首を刎ねるのは流石に無理だが、
このまま王都に居られるとは思うなよ?」
男たちはレオの脅しにも、動じていない。
「それでは、ベールを取るが良い___」
レオの合図で、女性たちはベールを取った。
わたしもベールを取る。
似た様な顔立ちの者たちが集められているが、良く見ると違う。
髪の色、目の色、肌の色…体型も違う。
白金色の髪に緑色の瞳の女性は、その内三人だ。
「まず、そこの男が選べ」
レオに言われ、騎士団員らしい男が、女性の側に行き、眺めて歩く。
やはり、白金色の髪に緑色の瞳の女性三人を見比べていた。
そして一人を選んだ。
三人の内、一番化粧の薄い、ほっそりとした女性だ。
「彼女です!」
「ほう、おまえと関係を持った者は、その女性なのだな?
次は、おまえだ、選べ!」
二人目の男も、同じ女性を選んだ。
残るは、ジェイソンだ。
ジェイソンは注意深く見ていたが、顔を顰め、焦り始めた。
三人の《白金髪、緑色の瞳の女性》の前を、行ったり来たり、何周かした後、
ジェイソンは堂々と宣言した。
「この中に、セレスティア妃はおりません!」
先に選んでいた男たちは顔色を失くし、周囲はどよめいた。
「それは真か、ジェイソン・ドネリー」
「はい、確かです!」
「皆の者!今の言葉を聞いたな!
この者は、妃殿下の兄の昔馴染みで、妃殿下を幼い頃から知っている。
神殿に入ってからも町で会い、関係を持ち、オウルベイへ来る途中でも
関係を持ったと言い張った、当然、顔が分からぬ訳はないな?」
「はい、左様でございます!」
「良いか、おまえたちに教えておいてやる、
女性というのは、いつも同じ髪型をしてはおらんとな」
レオの言葉に、ジェイソンの顔色が無くなった。
「お、お待ち下さい!レオナルド殿下!今、一度、チャンスを…」
「面白い事を言う、おまえはあれだけじっくり見ていたではないか、
私はそれ程に暇では無い!それに、私ならば、一瞬で分かる___」
レオはさっとマントを翻すと、堂々とした歩みでわたしの前に立ち、手を取った。
手の甲に口付けをする。
わたしはレオに向かい、笑みを零した。
わたしは今日、髪の色を薄い茶色に染め、妃殿下に相応しい化粧をして貰っていた。
それだけだが、そもそも、ジェイソンとまともに顔を合わせた事は無い。
オウルベイへ向かう道中でも、ベールを取ったのは、
バディを助けようとした時だけだった。
彼が、然程印象強くもないわたしの顔を、まともに覚えているとは思えなかった。
面影があるかないかが決め手だろう。
周囲から「わー!」と歓声と拍手が上がり、ジェイソンたちには野次が飛んだ。
ジェイソンたちは騎士団員たちに囲まれ、拘束された。
レオは厳とし、告げた。
「この件に関わった者たち全て、生涯、妃殿下とその家族に近付く事は許さない!
妃殿下を陥れ、侮辱した罪で、三月の労働奉仕を申し付ける!
ジェイソン・ドネリー、他二人は、騎士団を退団の上、王都追放!
労奴とし、北部復興に向かわせる!期間は三年とする___」
これを聞き、ジェイソン、他二人の騎士団員の男たちは顔色を変え、白状した。
「そんな!どうか、お許し下さい!全てはダイアナ様が仕組んだ事です!
妃殿下の名を貶める為に、自分は命令されただけなのです!」
「ダイアナとは、コルボーン公爵令嬢のダイアナか?
確か、フレドリック殿下の婚約者だったな?」
レオがすっ呆けて言う。
コルボーン公爵令嬢のダイアナと言えば、レオが一番良く知っている筈だ。
嘗て、レオの婚約者だったのだから…
「そう不安そうにするな、あの様な性悪女、政略結婚でなければお断りだ」
レオがわたしの耳元で囁く。
わたしは唇を尖らせた。
「政略結婚であれば、良いのですね?」
「妬いているのか?それも悪くは無いな、ふっ」
レオが笑い、わたしは頬を膨らませた。
「コルボーン公爵令嬢ダイアナに話を聞いてやってもいいが、
証拠が無ければ簡単に言い逃れるだろう、おまえたちの命運を祈ろう」
レオは素っ気なく言い、三人を連れて行くよう命じた。
ダイアナが認めるとは思えなかったが、ここに居る者たち皆が聞いていたので、
第三王子フレドリックの婚約者であるダイアナの名は、これにより、地に落ちたのだった。
「妃殿下を陥れようとしたのは、ダイアナ様だって!?」
「あんなお綺麗な方がねー、恐ろしいねぇ」
「ダイアナ様は自分が一番じゃなきゃいけないのさ!」
「とんだ悪女だな!」
「あたしは前々から、あの女が怪しいと睨んでいたよ!」
今度はダイアナの噂で盛り上がっている。
わたしとレオは顔を見合わせ、小さく肩を竦めると、馬車に引き上げた。
「レオナルド殿下!セレスティア妃!万歳!」
「どうか、末永くお幸せに!」
「何てお似合いの二人なのかしら!」
わたしたちの乗った馬車は、祝福の声に包まれ、王城へと向かった。
「騎士団に復帰する前に、一度、おまえの家族を訪ねても良いか?」
不意にレオから言われ、わたしは目を見開いた。
「良いのですか!?」
「ああ、母上や兄たちにも挨拶をしておきたい、これから長く付き合う事になるのだからな」
「うれしいです!皆、喜びますわ!」
わたしはレオの頬に感謝のキスをした。
それはレオにより、直ぐに唇へのキスに変わった…
わたしはレオに寄り添い、馬車に揺られながら、母の言葉を思い出していた。
《愛は後から芽生える事もある、必要なのは、互いに尊敬し、信頼し合う事よ》
《この人と決めて、付いて行くの》
《そうすれば、レオナルド殿下もきっと、あなたの優しさを必要として下さるわ》
同情で結婚するのではと心配した兄たちとは違い、母は最初から賛成してくれていた。
母は、わたしがレオに想いを寄せている事に、気付いていたのではないか?
あの時は、わたし自身、レオへの想いを自覚する前だったが、そんな気がした。
わたしも、母の様な《母》になりたい…
「わたし、あなたの子を産めるかしら?」
レオのごつごつとした手に、自分の手を絡める。
レオはギュっと強く握ると、ニヤリと笑った。
「沢山産める事は、使い魔が保証してくれた、後は、俺が頑張るだけだ」
《完》
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