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エピローグ

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この六年余の間、色々な事があった。

オースティンの妹リリアンは、病を克服した翌年、フレデリク先生の助手のカーターと結婚し、
今では二人の子の母親だ。
カーライル伯爵家は元の館を買い戻し、爵位はリリアンの子供に譲ると決めている様だ。

カーライル伯爵家の財産を持ち逃げした叔父パトリックは、僕が密偵を雇い、捕まえた。
強制的にステインヘイグの建築現場で働かせ、給金のほとんどを返済に回すようにしている。

オースティンは建築技術を身に付け、今では人気の建築家となっている。
最初は、オースティンの描いた建築デザインを、貴族たちに見せて周り、注文を受けていたが、
今は宣伝せずとも、予約はいっぱいだ。
オースティンは主に設計、デザインをしていて、施工の方は信頼出来る大工に任せている。
あの後も、僕たちは年に一度は長旅に出て、各地の視察をしたり、山登りをしている。
オースティンもすっかり山登りが好きになっていた。

そして、僕とオースティンの仲はというと…

友達以上、恋人未満。

触れ合ったり、キスはするけど、一線は超えていない。
オースティンは何でもすると言ってくれたけど、結局、僕は、それを命じる事が出来なかった。
勿論、僕には欲望があるし、そう出来たらと切望している。
だけど、オースティンが望まないなら、それは出来ない。

僕はオースティンを愛しているから…

僕が一番欲しいのは、オースティンの心だ___


それが正しかったのか、間違っていたのか、分かるのは、きっと、遠くはない未来。

今日、オースティンは、三十歳の誕生日を迎えた。

今日からオースティンは、僕のものではない。
本当の自由を手に入れる。

彼を愛する僕は、祝福し、送り出さなくてはいけない。

「絶対に、泣かない___」

オースティンは約束を守ってくれた。
僕の為に生き、僕を支えてくれ、僕を幸せにしてくれた。
それに、価値なんて付けられない。


「オースティン、三十歳おめでとう!」

僕は朝食の席で、オースティンに言った。
勿論、笑顔だ。

「約束を守ってくれて、ありがとう」

君といられて、僕は幸せだったよ。

「僕が援助した以上に働いてくれたから、その分は返すね」

僕が呼ぶと、執事が袋を持ち入って来た。
そして、オースティンの前に置くと、執事は礼をして部屋を出て行った。

勿論、綿密に計算した訳ではない。ただ、手ぶらで出て行かせたくなかった。
暫く暮らしていけるだけは包んである。
これだけあれば、オースティンの選択肢も広がる筈だ。

オースティンは袋の中身を見て、「それじゃ、有難く頂くよ」と言った。

「君の前途を祈っているよ、君なら大丈夫、何処へ行っても上手くやっていけるよ」

「ああ、俺もそう思う」

駄目なのは、僕だ。
君が居なくなったら、きっと、僕は抜け殻になるだろう…

これから、どうするの?

聞きたいのに、怖くて聞けない。

「馬で行くなら、好きな馬を持って行っていいよ」

「ありがとう、たまには馬にするか」

「もし、君が良ければだけど、これからも、友達でいて欲しい…」

主従関係では「友達だった」とは言えないだろうか?

僕は恐々と返事を待った。
オースティンの顔はとても見られなかった。

「それが、おまえの望みなのか?」

僕は小さく頷いた。
オースティンが「はぁ」と息を吐き、僕はビクリとした。

「二十代はおまえの為に生きた。これからは、自分の為に生きるよ」

「うん…」

突然、ぐっと、手を掴まれ、驚いて顔をあげると、キスをされた___

「お、オースティン?」

「前に、余計なものを全部取り払えば、おまえの事、好きだって言っただろう?
今は、余計なもの全部込々で、おまえが好きだ」

え?
好きって、言った?

僕は目を見開き、オースティンを凝視していた。
オースティンは視線を反らし、頬を掻く。
それは、照れている時の仕草…

「実の処、いつからか、おまえが俺を求めてくるのを待ってたんだ。
色々調べたし、準備もしてたんだけど、おまえはキスすら碌に強請ってこないだろ?
いい加減、俺の事飽きたのかと疑ったぞ」

「飽きてなんかないよ!
僕は、ずっと、ずっと、君が好きで…
愛していたから…命令するのは嫌で…」

だけど、時々欲に負けて、キスを強請り、抱擁をして貰った…

「まぁ、そんな所かな、とも思ってたけど。
それで俺は、自分がおまえを好きな事に気付いたんだ。
三十歳からは、自分の為に、おまえの傍にいるって決めていた。
おまえが嫌がっても、逃がさない、
それに、俺はおまえと違って、奥手じゃないからな、これからは覚悟しろよ!」

オースティンがニヤリと笑う。
僕はその強さが眩し過ぎて、泣いていた。

「良く泣くヤツだなぁ」

「君が、泣かせるからぁ…」

オースティンが僕を抱き締める。
その温かさに、僕は縋って泣いていた。


僕を好きになってくれて、ありがとう。

僕を求めてくれて、ありがとう。



「それじゃ、この金で、部屋のリフォームでもするか!」

「部屋のリフォーム?」

「これからは、一緒に住むだろう?」

「う、うん!住む!!」

「そこの壁、ぶち抜くか?」

「隠し部屋にするのはどう?」

「ふぅん、隠し部屋でナニすんの?」

「そ、それは、オースティン次第だよ…!」


甘いキスを受けながら、
僕はオースティンとの幸せな未来を予感していた


《完》
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