【完結】《BL》拗らせ貴公子はついに愛を買いました!

白雨 音

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13 オースティン

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◇◇ オースティン ◇◇

視察の旅に出る事になり、ウイルが「最初に行きたい」と言った場所は、山だった。

「変なヤツだな」

ウイルと一緒にいると、度々そんな感想が浮かぶ。

歩くのにも苦労しているのに、何故、わざわざ山を登るのか?
そこしか道が無いのなら分かるが、ただ、単に、「上りたい」という。
全く理解に苦しむ。

だが、汗を滲ませ、荒い息を吐きながら、懸命に進むウイルを見ていると、そんな事は言えなかった。
並々ならぬ真剣さを感じる。
いや、だからこそ、理解に苦しむのだが…

ウイルは足を引き摺りながらも歩き続ける。
俺はウイルの後ろを歩きながら、『倒れたら背負って帰ればいいか』と傍観していた。
だが、ウイルは弱音一つ吐かなかった。

そして、漸く終わりが見えて来た。

山の頂上だ___


頂上まで来て、俺たちは足を止めた。

全身に風を感じる。
まるで、空の中にいるみたいだ___

「凄いな…」

無意識に声が漏れていた。

「うん、凄いね」

返ってきた声には明るさがあった。

「一番最初に山登りをした時ね、
それ程高くはない、初心者向けの山だったけど、そこから見る景色に感動したんだ。
自分がちっぽけな存在だと思い知らされて、余計な柵なんて全部消えて、《自分》になれた」

「分かる気するよ…」

同じ様に感じているかどうかは分からないが、言わんとする事は分かる気がした。
現実から切り離され過ぎて、『現実に抱えている事は、ここでは何の意味も持たない』と言われている気がしてくる。

「君に見せたかったんだ、連れて来てくれてありがとう!」

ウイルが清々しく言い、笑った。

「いや、俺を連れて来たのはおまえだろ」

思わず返すと、ウイルはまた楽しそうに笑った。


枷か…

俺はこれまで、ウイルが何かを背負っている等、思ってもみなかった。
ウイルは恵まれているし、才能もある。

こいつもこいつなりに、悩みとかあるんだな…

当然か。
世の中、悩みのない者などいないんだろう。

だけど、何故か、その悩みを知りたいと思ったんだ…


◇◇


俺たちが次に向かったのは、俺の家族が住む田舎町だ。
「月に一度、見舞いに行く」という、妹との約束を、ウイルは覚えていて、守ってくれたのだ。

町に入り、ウイルは花束を二つと、ピンク色のリボンを買った。

「それは?」
「リリアンへのお見舞いだよ、もう一つはオースティンのお母さんに」

妹は分かるが、何故、母にも?
まさか、中年女性も好きなのか?
まぁ、こいつなら、どの年齢の女性も落ちるだろうが…

「あんまり、気を持たせるなよ」

ぼそっと零すと、聞こえたのだろう、ウイルが振り返った。
珍しく、その目には強い光があった。

「そんなんじゃないよ!大事な息子さんをお借りしているから、その感謝とお礼だよ」

その剣幕に、俺はなんだか自分が悪い事を言った気になった。
そうだよな、ウイルは真面目だし、女を弄ぶ様なヤツじゃない…
ただ、気が利いていて、優しいだけだ。
それなのに、変な勘ぐりをすれば、怒って当然だろう。

「ああ、悪い…」

謝ったのだが、急にウイルは勢いを失くし、項垂れた。

「こういうの、しない方がいいかな?
オースティンが嫌だったら、しないよ…」

「いや、今のは俺が悪かった!
こういう事されたら、おまえはそんな気なくても、相手は好意を持つんじゃないかって、俺が勝手に心配になったんだよ」

「…下心は、少しあるよ」

ウイルが零し、俺は思わず、「は!??」と声を上げていた。
ウイルは視線を反らし、唇を尖らせて小さく言った。

「オースティンの家族だから、嫌われたくないんだ…」

ああ、そういう事か!
心底安心した!!

「おまえを嫌うヤツなんかいないだろう、俺の家族なんて尚更だ、
感謝こそすれ、嫌いになんてならないよ」

ウイルは自信がないのか、「そうだといいけど」と呟いた。
ウイル程の男であれば、自信家になっても不思議ではないのに、ウイル自身は真逆に見える。
この、自信の無さは何なのだろうか?
だが、だからこそ、一緒に居ても、俺は劣等感に苛まれなくて済むのかもしれない。

なんか、助けてやりたくなるんだよなー…

最初に会った時から…


「ウイル様、ようこそお越し下さいました」
「オースティンもお帰りなさい、まぁ、立派になって…!」

両親は笑顔でウイルと俺を迎えた。
両親は俺の変化に驚いていたが、両親の方も最後に見た時より、顔色も艶も良くなり、元気そうで驚いた。
一月近くしか経っていないのに…

ウイルは「オースティンには良く働いて貰っています」と、母に花束の一つを渡していた。
母は顔を輝かせ、少女の様に喜んだ。

「まぁ!綺麗!花束を貰うなんて、いつぶりかしら!」

お袋、ウイルに惚れるなよ!
俺は心の中で念じたのだった。

ウイルは両親に質問を始めた。

「何か困っている事はありませんか?」
「いいえ、十分ですよ、相談役のバートが良くしてくれています」
「リリアンの容体はいかがですか?」
「紹介して頂いた医師から、新しい薬を頂いたんですが、それが合った様で、随分良くなりました」
「体を起こす事も出来ますし、ベッドから降りられる様にもなったんですよ!」

両親は妹の回復がうれしい様で、嬉々として話している。
大袈裟に言っているのでは?と疑ったが、実際、妹の部屋に入り、妹を見て驚いた。

妹は膝掛を掛けてソファに座り、本を読んでいた。
これまで、ベッドから体を起こすのでさえ、苦労していたというのに…
ベッド以外の場所で妹を見るのは、何年ぶりだろう?

「ウイル様!それに、お兄様も!」

その顔にも笑顔がある。
まぁ、それはウイルを見たからで、俺はついでだろうけどな。
だが、そんな卑屈な思いも、本を置き、ソファから立ち上がった妹を見て、一気に吹き飛んだ。

妹が立った!!

俺は驚きにポカンと口を開けていたが、ウイルは全く気にしておらず、
「リリアン、お見舞いに来たよ」と花束を渡していた。
妹は花束を受け取り、気恥ずかしそうに笑った。

「ありがとうございます」
「それから、これも、着けてあげようか?」

ウイルがポケットからリボンを取り出すと、妹は顔を真っ赤にし、
「お願いします」と甘えていた。
ウイルは慣れた手つきで、妹の髪を取り、リボンを結ぶ…
おまけに、「似合うよ、可愛い」何て言うものだから、妹の顔は今や真っ赤っ赤だ。

おい、本当に気はないんだろうな???

俺には絶対に出来そうにないし、やろうとも思えないんだが…
むず痒ささえある。

「リリアン、体調はどう?」

「はい、凄く良くなりました!体がとても軽いんです!
今までは動く事も辛かったのに…また、こんな風に動ける様になれるなんて、信じられません!
フレデリク先生からは、もう一月程で病は治るので、これからは体力を付けなさいと言われました」

驚きの回復に、俺は茫然としていた。
今まで、大金を払って医師に診て貰い、どんな薬を飲んでも、良くならなかったというのに…
これまでの事は一体、何だったのか?と虚しくなってきた。

「フレデリク先生というのは、名医なのか?」

「名医だけど、今は引退していて、研究をしている人なんだ。
以前、パーティで会って、温泉が体に良いという話をしたら、興味を持ってくれて、
実際に温泉を調べに二月位、温泉施設に滞在した事があって、親しくなったんだ。
病に詳しい人だから、リリアンの病に合う薬を見つけて貰えるんじゃないかと思ったんだ」

俺は医師を探す時、評判や実績しか考えなかった。
研究者か…
全く、考えもしなかった___

「ウイル、ありがとう、おまえに頼んで良かった」

心からそう思えた。
俺なら、一生掛かっても、妹の病を治す医師を見つける事は出来なかっただろう。
自分が不甲斐なく思う。
だが、ウイルはそんな俺の気持ちを明るくするかの様に、笑顔をくれた。

「僕も、オースティンの大事な家族の力になれて、うれしいよ」


その日は、カーライル伯爵家で一泊する事にして、ウイルを部屋に案内した後、
俺は少し抜けさせて貰い、母親を捕まえた。

「リリアンは、ウイルを好きになってないだろうな?」

妹が心配で、母に聞いてみたのだが、母はあっさりとしていた。

「ウイルを好きにならない人はいないでしょうね~」

「何を呑気な事を…リリアンが泣く事になるぞ!」

「そういう意味での《好き》ではないから、安心して。
あの子、好きな人がいるわよ」

「ええ!?一体、いつの間に?そいつ、見舞いに来てるのか?
病の妹を捨てる様なヤツなら、絶対に許さん!!」

「落ち着きなさい、相手はフレデリク先生の助手のカーターよ。
一目見て、お互い好意を持ったみたい…」

母が説明するのを、俺はぼんやり聞いていた。
医者の助手なら、病の妹を捨てる様な事はしないだろうし、没落貴族を馬鹿にしたりもしないだろう…
安心した所為か、急に興味を失っていた。

「へー、そうなんだ、上手くいくといいな」

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