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しおりを挟む「婚約者候補?婚約はしていないって事か?
フェリクスを振るとは、大したご令嬢だ!気に入った、仲良くしようぜ」
明るく言って、手を差し出して来る。
わたしは礼議上、握手をしたが、直ぐに手を引っ込めた。
レイモンもそれに気付き、ニヤリと笑った。
「いいねー、貞淑な女は攻め甲斐がある、大好物さ」
わたしは顔を顰めそうになったが、フェリクスがわたしの前に割って入った。
「レイモン、悪いけど、彼女は僕のものだから、諦めてくれ」
断固とした口調とその言葉に、わたしの気持ちは一転、幸せの花吹雪が舞った。
急に胸がドキドキとしてくる。
《落ちぶれた王女を助けに現れた黒騎士》の場面を読んだ時でも、こんな風じゃないわ!
ああ、ドキドキし過ぎて、何だか汗が出て来たみたい!!
「けど、婚約してないんだろう?俺、いや、他の男たちにもチャンスはあるって事だ」
「彼女は僕に返事をするまで、僕だけを見てくれると約束してくれている。
つまり、君や他の男たちに、チャンスは無いよ」
「《今の所は》だろ、それで、いつ返事すんの?」
レイモンがフェリクス越しに、ニヤニヤとわたしを見る。
フェリクスの危機だわ!わたしはそれを察し、ツンと顎を上げた。
「あなたには関係無いでしょう、だけど、教えてあげる。
返事をしようと、しまいと、あなたにも他の男たちにも、望みは一欠片も無いから、諦めて」
随分、偉そうに言っている自分に驚いた。
『おまえなんか、こっちから願い下げだ!』『おまえみたいな大女、相手にするヤツはいねーよ!』
そんな暴言が聞こえてきそうだ。
ああ!わたしは、王女様では無かったわ!!
だけど、意外にも、レイモンはあっさりとしていた。
「ヒュー!言うねぇ!けど、あんまり焦らしてやるなよ、男は意外と小心者だぜ」
レイモンがウインクをする。
それは、少しだけ寂しそうに見えた。
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だが、何処か、楽しんでいる様にも見える…
「うるせー、おい、エリザベス!責任取って、俺と踊れ!」
「ええー!?なんで、あたしがぁ??嫌よ!孕まされちゃうじゃない!」
「阿呆!そんなんで孕むか!デビュタント終えたっていうけど、まだまだお子様だなー」
「レイモンだからよ!手を握られただけで、産気づいた令嬢の事、忘れたの?」
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「妊婦に何したの!?酷い男ね!」
「何もしてねーよ、いいから、来い!おまえが孕んだら責任取って、結婚してやる」
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わたしは茫然と見送りながら、ふと、それに気付いた。
「ねぇ、レイモンは、エリザベスの事が好きなの?」
「そう、かもしれないね、僕も知らなかったよ」
もしかして、わたしたちは、ただの当て馬だったのかしら??
流石、王立貴族学院に学んだ人は違うわねー。
「オリーヴ、先の事、うれしかったよ」
フェリクスに言われ、わたしは自分の発言を思い出し、カッと赤くなった。
「あれは、君の本心?」
わたしは緊張が極限となり、息を詰めた。
不意に、『あんまり焦らしてやるなよ、男は意外と小心者だぜ』との、レイモンの言葉が蘇る。
悔しいけど…感謝するわ、レイモン!
「フェリクス、随分、待たせてしまって、ごめんなさい。
明日、お返事をするわ___」
流石のわたしでも、この場ではマズイと判断出来た。
フェリクスは頷き、わたしの指先を握った。
その後、わたしはパーティの間、自分がどう過ごしたか、覚えていない。
ただ、フェリクスの傍にいた事は分かる。
だけど、周囲の声は全く聞こえていなかったし、目に入る事も無かった。
恐らく、フェリクスも同じだった筈だ。
彼はずっと、わたしの傍にいてくれたから。
◇
パーティが終わり、部屋に戻り、着替えをしている時も、夢見心地だったが、
レディースメイドが外してくれた豪華な首飾りを見て、少しばかり現実が戻って来た。
「返しに行かなきゃ、いけないわよね?」
パーティが終わったばかりで、面倒ではあったが、長く借りていて、粗相があってはいけない。
ベアトリスに弱味を掴ませたら最後、どこまでも責め立てて来るだろう。
「何か企んでいるのかと思ったけど…」
結局、ベアトリスは首飾りの事では何も言って来なかった。
パーティの時も、表面上は好意的に見せていた。
勿論、取り巻きの夫人たちにわたしを貶す様仕向けて、笑っていたのは知っているけど。
「何だったのかしら?」
わたしは不審に思いながら、首飾りを布で包み、ベアトリスの部屋を訪ねた。
「ベアトリス様、オリーヴです」
部屋の前で声を掛けると、少しして、扉が開かれた。
だが、わたしを招き入れる事はせずに、ベアトリスの方が廊下に出て来た。
彼女はまだ着替えもしていない様だ。
少し違和感があったが、気に留める事はせず、わたしは布を開き、首飾りを見せた。
「首飾りをお貸し下さり、ありがとうございました」
「まぁ、わざわざ、返しに来て下さったのね、良い心掛けですよ」
ベアトリスは大仰に言い、首飾りを手に取ったが、一瞬後、その顔は歪められた。
「オリーヴ!一体、どういう事なの!」
ベアトリスが突然大声で喚き出したので、
わたしの方こそ、『一体どうしたの?』とポカンとなった。
「オリーヴ!この中央の赤い宝石をご覧なさい!これは、偽物よ!
私を騙そうとするなんて、何て根性の悪い娘なの!」
ベアトリスの声は大きく、殺気に満ちていた為、「何事か!」と使用人だけでなく、
宿泊予定の招待客たちまで集まって来た。
「オリーヴ!早く、私から盗んだ宝石をお返しなさい!
こんな欲深い盗人を結婚相手に選ぶなんて、フェリクスはどうかしているわ!
いいえ、あなたに騙されていたのよ!何て、恐ろしい娘なの!」
ベアトリスは声高にわたしを罵り、悦に入っていた。
あの宝石は、最初から偽物だったわ!
もしかして、わたしを盗人にする為に、首飾りを貸したというの?
そんな事とは知らず、受け取ってしまった自分を呪った。
だが、後悔していても仕方が無い。
このままにしておけば、わたしは不名誉を着せられてしまう!
でも、どうやって、冤罪を晴らせば良いの!?
わたしは焦っていた。
焦りの為、上手く頭が回ってくれない___
「わたしは、盗んでなんていません!
宝石は最初から偽物だったんです!」
それ位しか、言い返せない自分に苛立った。
もっと、考えるのよ!
これは、ベアトリスの謀略なんだから!
わたしは盗んでいないんだから、絶対に、何処か綻びがある筈…!
「フン!盗人猛々しい!素直に罪を認めれば良いものを、嘘を重ねるなんてね!
もう、容赦はしませんよ!
誰か!この汚らしい盗人を、直ぐにこの館から追い出しなさい!!」
使用人たちも困惑していたが、主人の命令では聞かない訳にもいかない。
そろそろとわたしの方に近付いて来た。
だが、そこに、フェリクスが駆け付けてくれた。
「オリーヴ!」
招待客や使用人たちを掻き分け、わたしの前に立った彼は、
着替えの途中だったのか、白いシャツとズボンだけの姿だった。
だが、これ程、心強い存在は無かった。
「母上、これは一体、何の騒ぎですか?」
「フェリクス、いいわ、最初から話しましょう。
オリーヴの持っている宝飾品は、地味な物ばかりでしょう?
パーティで恥を掻かない様、私が首飾りを貸してあげたのよ、見なさい、この豪華な首飾りを!」
ベアトリスは首飾りを、高らかに掲げた。
これでは、フェリクスに見せているのか、周囲に見せているのか分からない。
「私は愛息の婚約者候補だからこそ、信じて貸したと言うのに…
見なさい!この真ん中の宝石を!これは偽物よ!
彼女が本物の宝石を取り、偽物とすり替えて返して来たのよ!
豪華な宝飾品を見て、欲しくなったのでしょうけど、こんな卑怯な真似をするなんて!
貴族令嬢の風上にも置けないわ!!」
招待客たちがざわざわとする。
「宝石を盗んだんだって?」
「偽物とすり替えるだなんて、酷いわ!」
「あれで貴族令嬢というのだから、世も末だ…」
「さっさと追い出すべきよ!」
わたしは奥歯を噛みしめた。
「それでは、本物の宝石は、オリーヴが持っていると言うのですか?」
フェリクスの口調は冷静だった。
まさか、信じてはいないでしょう?
わたしは不安にその横顔を見つめた。
「ええ、そうよ、オリーヴは愚鈍ですからね、部屋に隠しているに決まっているわ!
さぁ、皆でオリーヴの部屋に参りましょう!」
ベアトリスは自信満々だ。
もしかしたら、パーティの間に、誰かがわたしの部屋に入り、宝石を置いたのかもしれない。
わたしの部屋から宝石が見つかれば、増々状況は悪くなるだろう___
わたしは焦ったが、フェリクスの凛とした声がそれを破った。
「待って下さい!
この赤い宝石は、確かに偽物ですが、最初から偽物だったとは考えられませんか?」
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