【完結】転生伯爵令嬢☆呪われた王子を男よけにしていたら、お仕置きされました!

白雨 音

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あの一件から、わたしはセオドラを避けていた。

だが、あれ以降、どの様な噂が回ったのか知らないが、
男子たちから声を掛けられる事が無くなった。
変に嘘を吐かなくても良かったので、わたしはこの状況に甘んじる事にした。
だが、どういう訳か、今度はセオドラから声を掛けられる様になった。

「アンジェリーナ・ロバーツ、こっちだ」

いつもの様に、ポーラと連れ立って食堂に入り、料理をトレイに盛り、
空いている席を探していると、テーブルから声を掛けられた。
瞬間、わたしの口元は引き攣ったが、相手が《第三王子》では、断る事も出来ない。
仕方ないと嘆息した所、隣にいたポーラは、「あたしは向こうで~」とさっさと逃げて行った。

「セオドラ様、お呼びでしょうか?」

「一緒に食事をしてやるから座れ」

誰も頼んでないわよ!
内心でツッコミをし、表面上は微笑んで見せた。

「まぁ!それはうれしいですわ!では、失礼します」

わたしは笑みを引っ込め、セオドラの隣の席に、どすんと座った。

「わたしなどと一緒に食事をして下さるなんて、セオドラ様はお優しいのですね」

勿論、皮肉だ。

「ああ、自分でもそう思う」

彼に付ける薬は無いらしい。
わたしは頭を振り、サンドイッチに齧りついた。

「週末だが、決めたか?」

学生たちが集まる食堂で、サンドイッチを手にこんな事を聞いて来るのだから、
正気を疑いたくなる。
《王子》だもの、きっと、独自の常識を持っているんだわ。
尤も、わたしにとって喜ばしい事ではない。

「お断りした筈です」

「意外と身持ちが固いんだな」

「『意外と』は余計です!わたしはこれでも、伯爵令嬢よ!淑女なの!」

「淑女の割に、男を追い回していたそうじゃないか?」

「どうして知ってるの!?」

「怪しい女が自分を好きだと吹聴していれば、少し位は調べる」

怪しい女…
まぁ、確かに、不審に思えば調べるわよね…

「男と体の関係を持ち、結婚を迫るらしいな?」

ぶっ!!!

「そんな事、誰が言ったのよ!誰が相手でも、体で迫った事は無いわよ!」

断固、抗議してやるわ!!

「だが、あの時も抵抗しなかっただろう?」

「抵抗したでしょう!あなたが頑丈過ぎるのよ!」

「だが、本気を出せば、魔法でどうにか出来た筈だ」

魔法…

「ああ!そうだったわ!魔法を使えば良かったのよね!
ありがとう、今度からは吹き飛ばしてやるから、楽しみにしていて!」

「誘っているのか?」

「違う!間違えた!わたしに手を出そうとしたら、ただでは済まないから、
覚悟しておきなさい!」

「好きな男に言う事か?」

まぁ、好きでもないし。
だけど、好きだと思わせておいた方が良いわよね?
今更、「嘘でしたー」とは言えないわ…

「例え、好きな相手でも、手順を踏まなきゃ。
自分を好きになって貰う事が先でしょう?
心の結びつきがあって、それから、初めてのキスを交わすの…」

「初めてのキスは終わった。次に進むべきだろう___」

セオドラは真顔で言う。
わたしこそ、真顔で見返したくなったわ。

「ちっちっち!あのキスは無かった事にしましょう。
最初に戻って、まずは、お互いを知り合うの、楽しくお喋りをして、
共通の趣味なんか持つといいわよね?
そして、お互いが『この人しかいない』と思った時に、キスをしましょう」

わたしが微笑むと、セオドラは「面倒だが、分かった」と頷いた。

「楽しい話をしろ」

「駄目よ、男性からリードして!それとも、わたしに主導権を握らせたい?」

これまで無表情だったセオドラの顔が、「ムッ」とした。
だが、思い直したのか、また無表情に戻った。

「…おまえが追い回していた男とは、どんな話をしたんだ?」

「別に、話してないわ」

「それなら、話は必要ではないという事だろう?」

「違うわよ、何も話さなかったから、気持ちが冷めてしまったの」

高槻先輩とも、あまり話した事は無かったが…想いは続いていた。
いい加減な事を言ったかしら?
別に、恋愛のスペシャリストという訳ではない。
どちらかと言えば、片想いのスペシャリストだ。

「話は苦手だ」

セオドラが零す。
いつも以上に、暗い面持ちに見えた。

友達、いないんだっけ?
皆から一目置かれているし、避けられているものね…

わたしの胸に同情心が芽吹いてしまった。

「それなら、わたしが主導権を握るわ!」

「それも嫌だ」

「我儘ね!」

「王子は我儘なものだ」

「へー、そうなの、知らなかったわ!
それじゃ、あなたが最近言った、一番の我儘はなに?」

セオドラはふと、空を見る。

「おまえに言った事位だ、だが、おまえは何も叶えてくれない」

叶えられる事を言わないからだけど、
おかしいわね、胸が痛むわ…

「もっと、簡単な事なら、叶えられるかもよ?」

「放課後、勉強をみてやる」

「え?いいの?ありがとう!」

突然言われて驚いたが、勉強は苦手なので、わたしは笑顔を向けた。
だが、素早く、盗むようなキスをされた。

「!?」

「約束だ___」

セオドラは何事も無かったかの様に、「遅いから先に戻る」と席を立ち、行ってしまった。

ま、ま、また勝手にキスして!!
キス魔なのかしら?
まぁ、挨拶程度のキスだから、いいわよね?

「放課後に二人きりになるのは、危険かしら??」

わたしは赤い顔で唸りつつ、昼食を平らげたのだった。


◇◇


それから毎日、放課後にはセオドラが勉強を見てくれる様になった。
最初はどうなるかと冷や冷やしていたが、彼は意外にも真剣に教えてくれ、
心配した様な事も無く、安堵した。

だが、遡って、一年生の授業から…というのは、真面目過ぎる。
流石、首席様は違うわ…

「あなたの勉強の邪魔にならない?わたし、飲み込み悪いし、面倒でしょう?」

一応、気を遣ったのだが、セオドラは全く気にしていない様で、

「邪魔で面倒なら、声は掛けない。
俺が教えてやるんだ、おまえには結果を出して貰うぞ」

変なプレッシャーまで掛けて来た。
気を遣って損したわ。

「結果を出せなかったら?」

「卒業まで勉強を見てやる」

うう…うれしいような、怖いような…

「が、頑張るわ」

わたしは引き攣りつつ、作り笑いで返した。


◇◇


昼食も、セオドラと一緒に食べる様になった。
毎日の様に、「アンジェリーナ・ロバーツ、こっちだ」と呼ばれるので、
面倒を省く為、自分から行く様になったのだ。

「お待たせしました、セオドラ様」
「おまえはいつも遅いな」
「あなたが早いのよ、ちゃんと、授業が終わるまで教室にいる?」
「いる」
「それじゃ、『早く終われ』って念を送っているんでしょう?」
「そんな事はしない、逆におまえは何故いつも遅いんだ?」
「それはね、令嬢だからよ、色々と準備があるの」
「俺の為に髪でも梳かしているのか?」

別に、あなたの為じゃないわよ!というツッコミは飲み込み、
「まぁ、そんな所よ」と答えると、セオドラは「あまり効果はないな」と言った。

「失礼ね!見なさいよ、この艶のある赤毛を!」
「いいから、食べろ、時間がなくなる」

セオドラはわたしの方を見ず、スープを飲み始めた。

「もう!いいわよ!いただきまーす!」

わたしはサンドイッチを頬張った。

でも、なんだかんだ、わたしが席に着くまで、食べずに待っていてくれるのよね…

毎日顔を合わせていると、大なり小なり分かるもので、
わたしはセオドラ・オースワイバーンが、ただの強姦魔ではない、
傲慢なだけの王子ではない事に気付いた。

意外と真面目だし、素っ気ないけど、親切だし、優しい。
はっきり物を言うけど、悪意はないのよね…
少し、素直じゃない気もするけど。

「ああ、そうだわ、セオドラ様、これをお渡ししようと思っていたんです」

わたしは紙袋をセオドラに向けた。
セオドラは手を止め、伺う様にわたしを見た。

「何だ?」

「中身はパンよ、わたしが焼いたの。
いつも勉強を見て貰っているでしょう?そのお礼です」

「ありがとう」

セオドラは紙袋を開くと、一つを取り出した。
胡桃とレーズン入りの丸パンだ。

「これを、おまえが焼いたのか?」

「そうよ、パンを焼くのは得意なの。
授業の合間とか、お腹が空いた時に食べてね…」

わたしが言い終わらない内に、セオドラは丸パンを千切り、口に入れた。

「ちょっと!昼食が食べられなくなっちゃうわよ!」

わたしの抗議は聞こえていないのか、彼はそれをゆっくりと咀嚼していた。

「美味い…」

思わず零した言葉に、わたしは口元が緩んだ。

「そうでしょう!胡桃とレーズンは最強タッグよね!」

「おまえにこんな特技があったとは知らなかった…」

「能ある鷹は爪を隠すってね!ふ、ふ~ん♪」

つい得意気に言ってしまった。
セオドラが紙袋からもう一つ取り出すのを見て、わたしは慌てて取り上げた。

「駄目よ!残りは放課後にして、ちゃんと昼食を食べなさい!
残したら、食材と料理してくれた人に悪いでしょう!」

「そういうものか、初めて言われた」

流石、王子様…
きっと、気に入らないものは口にも入れないのね?
わたしはやれやれと肩を竦めたが、セオドラはパンを袋に戻すと、静かに言った。

「俺はここに来るまで、王宮の離れで暮らしていた。
食事は一日一回、僅かなもので、気まぐれに忘れられる事もあったから、
食べられる時に詰め込んでおくようにしていた。
月の晩餐会でもそうしたが、料理を全て食べる事は浅ましいと言われた」

「酷い!そんなんじゃ、成長不良になっちゃうわよ!
王家ってお金がないの?貧乏なの?」

「いや、俺だけだ、王は俺を王子と認めてくれたが、他の王族は誰も認めていない。
使用人たちもそうだ、誰も俺の面倒など見たくなかった」

「お母様は?」

わたしが聞くと、セオドラは体を固くした。
そして、一言、呟いた。

「…俺を産んだ時に亡くなった」

「訊いてしまって、ごめんなさい…」

「いや…」

その後、セオドラは黙々と食事をし、紙袋を手に食堂を出て行った。

失敗だった…

余計な事を聞いてしまった。
誰にでも触れられたくない事はあるものだ。

それにしても、そんな酷い扱いをされていたなんて、思いもしなかった。
だから、無表情で、無口なのだろうか?
きっと、これまで碌に話し相手もいなかったのだろう。
想像すると、胸が締め付けられた。

「同情なんてされたくないわよね…」

でも、幸せになって貰いたいわ…

辛い目に遭ってばかりでは、可哀想過ぎる。


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