【完結】義弟に逆襲されています!

白雨 音

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本編

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わたしたちが館に帰った時には、ミゲルの姿は無かった。

「ミゲル様は馬を借りると…」

ミゲルは乗馬で出掛けた様だ。
ミゲルが一人で出掛けるのは、別に変な事では無い。
それなのに、何か嫌な予感がして、落ち着かない。

「私たちが出掛けたので、他にやりたい事があったのでしょう。
さぁ、疲れたでしょう、お茶にしませんか?」

ローレンスはわたしをテラスに促した。
わたしはソワソワとしつつ、平然を装い、ローレンスとお茶をした。
そうしながらも、頭は考えを止めない。

ミゲルは何処に行ったのだろう?
もしかして、伝言を聞いて、わたしたちを追って来たのでは無いか?
だけど、ミゲルは現れなかった…
迷子になったのでは?それとも、事故に?

不安になっていた所、当のミゲルが部屋に入って来た。
わたしは反射的に席を立ち、ミゲルの所へ駆けつけていた。

「ミゲル!何処に行ってたの!?」

ミゲルは険しい表情をしていたが、わたしを見て、それを緩めた。

「うん、伝言を聞いて、追い駆けたんだけど、擦れ違ったみたいだね」

やっぱり!!

「義姉さん、美術館には行かなかったの?」

わたしはキョトンとした。

「美術館?行く訳ないわ、わたしたちはピクニックに行ったのよ?」

わたしはローレンスを振り返った。
ローレンスは席を立ち、微笑みを浮かべ、優雅に歩いて来た。

「ええ、私たちはピクニックに行っていました。
伝言を頼んだメイドが聞き間違えたのでしょう、探したのでしたら、申し訳ありません。
メイドを責めないであげて下さい、それでは、私は仕事がありますので___」

ローレンスは部屋を出て行った。
ミゲルは胡乱な目でそれを見ていたが、わたしを振り返った時には、いつものミゲルだった。

「ピクニックは楽しかったの?」

「ええ、郊外の小高い丘で、見晴らしも良くて素敵だったわ!
それに、ならず者たちから絡まれそうになったんだけど、ローレンス様が追い払ったのよ!
驚いたわ!」

「へー、凄いね、意外だな…」

「ミゲル、探させてごめんなさい、お茶にする?」

「それじゃ、伯爵の代わりに、義姉さんの相手をしようかな」

ミゲルが笑みを見せたので、わたしは安堵し、メイドにお茶を頼むと、
ミゲルの腕を取りテラスに連れて行った。





その夜、晩餐を終えて部屋に帰った所、耳飾りを落とした事に気付き、探しに戻った。
食堂に落ちていた様で、幸い、メイドが保管してくれていた。
耳飾りを受け取り、部屋に戻ろうとしていた所、会話が耳に入り、足を止めた。

「義姉さんを選んだ理由を教えて頂けますか?」

ミゲルの声にドキリとする。
壁に隠れ、そちらを覗くと、薄暗い廊下の突き当りで、ミゲルとローレンスが向かい合っていた。

「ヴァイオレットは、若く美しい、とても魅力のある女性です。
私は彼女に惹かれ、愛してしまいました」

ローレンスの言葉に、顔が熱くなる。
だが、ミゲルは淡々と言った。

「それだけではありません、義姉はとても賢く、才があります。
貴族女子学校を卒業してからは、父の仕事の手伝いをしています。
義姉が男子だったならば、伯爵を継いでいたでしょう。
結婚した後、あなたは義姉にどういった事を望みますか?」

「ヴァイオレットが望んだ事は、全て叶えるとお約束しましょう。
その代わりに、私の願いも叶えて貰うつもりです」

「伯爵の願いというのは?」

「私の子を出来るだけ沢山産んで頂く事です。
私は長年、子供を望んできました。
ヴァイオレットも子供が好きだと言っていたので、それは十分に、叶えられるでしょう___」

わたしは唖然とした。
確かに、子供は嫌いではないが、『出来るだけ沢山』と言われると困惑する。
大切に育てたいし、一人、二人で良いのではないか?
そもそも、わたしは一人娘だし、そう何人も産めるのだろうか?

「そうなると、子育てが大変ですね」

「子育ては乳母を雇えば済む事です、私にはその財力は十分にあります」

「もし、子が出来なかった場合は、どうなさるのですか?」

「ヴァイオレットは若いので、子が出来ない事はないでしょう、無用の心配ですよ」

ローレンスは笑う。
だが、若くても、子が出来ない場合もある。
その場合は、離縁される事もあるそうだ…
わたしは不安になり、腕を擦った。

だが、ミゲルが代弁するかの様に、キッパリと言った。

「オークス伯爵家では、『子が出来ない』という理由での離縁は認めません」

「心に留め置きましょう、これでいいですか?
オークス伯爵、伯爵夫人は君を随分買っている様ですね、
養子に自分の代理を任せるのですから。さぞ、優秀なのでしょう?」

「僕よりも義姉の方が優秀です」

王立貴族学院を卒業している癖に、わたしの方が優秀なんて…
持ち上げるにも程がある。
一体、誰が、そんな事を信じるというのか?
全く、ミゲルはどうかしているわ!

「ふふふ」

思わず笑いが零れ、わたしは慌てて、手で口を覆いその場を後にした。


◇◇


「ヴァイオレット、君がいなくなるのは寂しいです。
また、直ぐに会える事を願っています___」

ローレンスは別れを惜しみ、わたしを熱く見つめ、手の甲にキスをした。
これ程、求められた事は初めてで、気恥ずかしくなる。

「ローレンス様、ごきげんよう」

わたしが馬車に乗り込むと、すかさずミゲルも乗って来た。
馬車が門を抜け、街を抜ける事、漸くミゲルは口を開いた。

「彼と結婚するの?」

「ローレンス様は、王子様になってくれようとするの」

「義姉さんの理想だよね」

「彼となら、結婚してもいいかもしれないわね…」

「ふぅん…」

ミゲルはお喋りを止め、本を開いた。
わたしは窓の外に視線を向け、ぼんやりと流れる景色を眺めた。


◇◇


オークス伯爵家に戻り、二週間が過ぎた頃、キャロラインが訪ねて来た。
用件はミゲルの事だろうか?
わたしは嫌な予感がし、パーラーへ向かう足取りも重くなった。

「キャロライン、お久しぶり、元気にしていたかしら?」

わたしは作った笑みを張り付け、挨拶をした。
キャロラインは挨拶もそこそこに、話しを切り出してきた。

「ヴァイオレット様ぁ、あたしぃ、スチュアート様との婚約は破棄したんですぅ。
あたしぃ、ミゲル様の事が本当に好きなんですぅ!
ヴァイオレット様、お願いですからぁ、ミゲル様と二人でお話させて下さい」

わたしは唖然とした。
ある程度の事は予測していたのだが、キャロラインはいつもそれを飛び越えて来る。

「婚約破棄だなんて!なんて馬鹿な事をしたの!」

「だってぇ、真実の愛に出会ってしまったんですものぉ、仕方ないじゃないですかぁ、
ミゲル様にはぁ、責任を取って頂きたいんですぅ」

わたしはカッとなっていた。
思わず拳でテーブルを叩き、大きな声を出していた。

「ふざけないで!ミゲルにどんな責任があるって言うの!
あなたが勝手に好きになって、勝手に婚約破棄しただけでしょう!
そんな、いい加減で浮気性の馬鹿女に、ミゲルは渡せないわ!」

「ヴァイオレット様、怖い~~~。
それにぃ、いい加減で浮気性の馬鹿女なんてぇ、酷いですぅ!!
ヴァイオレット様は、たかが《義姉》じゃないですかぁ、
義弟の結婚に口出すなんて権利ありますかぁ?自分の立場を弁えて下さいよぉ」

確かに、義姉の立場を超えているかもしれない。
だが、頭に血が上っている今のわたしには、何の歯止めにもならなかった。

「あるわよ!!ミゲルはわたしがずっと護ってきたんだもの!
ミゲルはわたしの大事な義弟なの!見す見す不幸になんてさせないわ!
分かったら、スチュアートに謝って、婚約破棄を撤回してきなさい!
婚約破棄なんかしたら、もう、良縁なんて望めないわよ!」

キャロラインは、「え~~」と不満げに唇を尖らせた。
わたしはキャロラインが何と言おうと、ミゲルの事は断るつもりで、腕を組み、
睨み付けたが、そこに思わぬ来訪者があった。

「ヴァイオレット、僕は婚約破棄を撤回する気は無いよ」

入って来たのは、スチュアートとミゲルだった。

「ミゲル!スチュアートも…どうして?」

「今日、スチュアートは仕事で来ていたんだよ、僕も話を聞いたけど…」と、
ミゲルがスチュアートを見た。
スチュアートは頷いた。

「キャロラインとの婚約を破棄したのは、モットレイ男爵家の方なんだ。
パーティでキャロラインがミゲルを追い回していると噂が流れて来てね、
随分、虚仮にしてくれた様で、父が酷く怒って、婚約破棄を言い渡したんだ。
僕としては、噂だけで判断した事に罪悪感があってね、
今日ミゲルに実際の話を聞いてみたんだけど…」

「ミゲル様に話すなんて、酷いわぁ!!」

キャロラインが的外れな事を叫んだ。
スチュアートは、眼鏡の奥の目を細くした。

「ミゲルは、キャロラインに興味はない、特別扱いした事は無いとはっきりと言ったよ。
それに、婚約者がありながら、他の男に色目を使う女は軽蔑するとも」

スチュアートは仕事熱心で、真面目なのだが、人付き合い…
特に、女性との付き合いは少ない様で、女性の心の機微など知らない。
その為、普通であれば躊躇する事も、はっきりと口にしたのだった。
流石のキャロラインも、「そんな~違うわぁ~誤解よ~」と泣きそうになっていた。
だが、気真面目なスチュアートは尚も続けた。

「今の二人の話を聞かせて貰ったけど、父の判断は正しかったみたいだ。
これで、僕もスッキリしたよ。キャロライン、もう二度と会う事はないだろう。
ミゲル、ヴァイオレット、迷惑を掛けて申し訳なかったね___」

スチュアートは晴れ晴れとした顔で帰って行った。
一方、キャロラインはと言えば、顔色を失くし、茫然としていた。

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