32 / 32
エピローグ
しおりを挟む窓の外では、黄金色の葉が、ひらひらと降っている。
一面が秋色に染まる頃、それは届いた。
「奥様、お手紙が届いています」
「ありがとう、リリー」
受け取ったのは、何の変哲も無い白い封筒だった。
だが、そこに記された差出人の名は、待ち望んだ人の名で、
わたしは目を見張り、息を飲んでいた。
「まぁ!アンリエット!?」
妹、アンリエットからの手紙___
これまでずっと、アンリエットと連絡を取りたいと願ってきたが、
行方を掴む事が出来なかった。
アンリエットからの手紙は、トラバース卿宛になっていて、
トラバース卿より転送されてきていた。
「アンリエットは、わたしがトラバース卿の館を出た事を知らないのね…」
一体、妹は今までどうしていたのか…
わたしは急ぎ、その封筒を開けた。
【お姉様へ】
【お姉様、あたしが今何処に居るか分かって?】
【あのカントルーブ公爵領の都よ!】
【ロベール卿に見初められたの!凄いでしょう!】
それでは、一緒に逃げた男とは別れたという事だ。
わたしは、アグレッシブなアンリエットに驚いていた。
【ロベール卿は凄くお金持ちなのよ!あたしの為なら、湯水の様にお金を使ってくれるの!】
【それに、こっちの都は凄いのよ!】
【ガエルモンド公爵領なんて、田舎も田舎よ!】
【ああ、お姉様にも一度見せてあげたいわ!】
【お姉様はまだ下女をしているの?】
【負債を払ってあげたいけど、遠い地では無理なの、ごめんなさいね】
アンリエットは、レオナールに負債を完済して貰った事を知らないのだ。
ガエルモンド公爵領にいれば、噂で聞いたかもしれないが、
カントルーブ公爵領にいては、話に聞く事も無いだろう。
「伝える術が無かったから、仕方ないわね…
わたしの事、気にしてくれていたのね…」
助けてくれる気は無さそうだが、例え手を差し伸べられても、わたしは断っただろう。
あのままトラバース卿の館に居たとしても、妹に犠牲を払わせてまで助かりたいとは思わない。
【こっちに来る事があったら、あたしを訪ねて来てね】
【ロベール卿の名を出せば直ぐに分かるから!】
結婚したとは書いていないので、恐らく妾なのだろう。
だが、文面から感じるアンリエットは幸せそうで安心した。
「きっと、ロベール卿は良い方なのね」
わたしはペンを取り、便箋に向かった。
負債は完済されている事、両親の死は事故だった事。
叔父が謀った事であり、その叔父が捕まった事も知らせなければいけない。
【アンリエット、あなたが幸せそうなので、安心しました】
【わたしはトラバース卿の館を出て、ラックローレン伯爵に嫁ぎました】
【夫は優しく、とても良い方です】
【わたしも幸せにやっていますので、安心して下さい】
【もし、近くに来られた時には、是非寄って下さい___】
「その頃には、良い知らせが出来るかも」
わたしはそっと、下腹を撫でた。
《完》
1
お気に入りに追加
304
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
意地悪で不愛想で気まぐれだけど大好きなあなたに、おとぎ話が終わっても解けない魔法を
柳葉うら
恋愛
魔法が失われて王政が崩壊した国、ストレーシス国。
その国の労働階級家庭で育ったリーゼは、年上の幼馴染であるノクターンに片想いしている。
しかし<冷血のスタイナー大佐>こと国軍の大佐であるノクターンは美貌と優秀な経歴を併せ持つ人気者で、彼とはつり合わないと悩む。
おまけにノクターンはリーゼを子ども扱いするし意地悪な事ばかり言ってくるから、やきもきする毎日。
(これ以上ノクターンが遠い存在になる前に告白しよう……!)
しかし決心して告白すると、ノクターンに避けられるようになってしまった。そして追い打ちをかけるように、彼の見合い話を聞いてしまう。
絶体絶命のリーゼは、街で知り合った実業家の青年エディに恋愛相談をした。
すると今度はエディとの待ち合わせ場所に必ずノクターンが現れ、恋愛相談の邪魔をされてしまう。
そんなすれ違いが起こる中、リーゼはとある事件に巻き込まれ、自身とノクターンの隠された過去を知ることに――。
これは、王政から民政に変わりゆく国で繰り広げられる恋物語です。
※小説家になろう様にも掲載しております
※本話に一部残酷表現があるため、R15のレーティングをつけました。
該当部分はごく一部なので、苦手な方はギュンとスクロールして飛ばしてください。
※タイトルを戻しました
旧題『初恋の冷血大佐様に、おとぎ話が終わっても解けない魔法を』
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です
朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。
ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。
「私がお助けしましょう!」
レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
死ぬほど愛しているけれど、妻/夫に悟られるわけにはいかないんです
杏 みん
恋愛
飛鳥唯子(あすか ゆいこ)は人妻。
夫は、大企業の御曹司である飛鳥仁成(あすか ひとなり)。
唯子は仁成を、仁成は唯子を、死ぬほど愛している。
が、愛ゆえに結ばれた夫婦ではない。二人の結婚には明確な目的があった。
唯子は、華麗なる飛鳥一族最大の汚点である『亜種』。
その唯子を引き受け、監視するという名目での結婚。
仁成は、一族にその自己犠牲的献身を認めさせれば、出世の後押しになるから。と、唯子にプロポーズをしたのだ。
そして唯子は、恩人である仁成の願いを叶える為に、その申し入れを受け入れた。
『仁ちゃんは社長になる為に、私と結婚した』
『唯は恩返しの為に、俺と結婚した』
互いの本心を知る由も無い二人は、今日も偽りの夫婦として、穏やかでちょっと変てこな暮らしを紡いでいく。
婚約破棄されたと思ったら次の結婚相手が王国一恐ろしい男だった件
卯月 三日
恋愛
カトリーナは、婚約者であるサーフェに婚約破棄を言い渡される。
前世の記憶が戻って変な行動をしていたせいだと思っていたが、真相は別にあったのだ!
最悪の気分で過ごしていると不思議なもの。
さらなる不幸がカトリーナに襲い掛かってくる。
「嘘ですよね? お父様。まさか、あの暗黒の騎士、ですか?」
次なる婚約者に選ばれたのは王国一恐ろしい男だった!?
転落からの成り上がり+ほのぼのじれじれ恋愛劇+ほんのりざまぁ風味の読み物となっております。
よろしければ、さわりだけでも読んでくださいませ!
序盤は、じっくり展開ですが、少しずつ軽く物語を動かしていく予定です。
1/30 現在、書籍化検討中につき第一章を引き下げ中でございます。
ご迷惑をおかけしています。何卒よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる