【完結】婚約者候補の落ちこぼれ令嬢は、病弱王子がお気に入り!

白雨 音

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最終章

裁きの刻2 視点なし

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「母上!?母上が何故!?」

縄で拘束された母の姿に、パトリックは驚き取り乱した。
美しく着飾ったいつもの王妃の姿では無く、恐ろしい表情で髪を振り乱す…
その姿は罪人にしか見えない。
王妃カサンドラは憎々しい表情を王に向け、叫んだ。

「王妃に対し、この様な扱いをなさるなど、気がふれたのではありませんか!?」

王はこれを、まるで聞こえていないかの様に無視し、尋ねた。

「王妃に訪ねる、パトリックは誰の子だ?」

「勿論、王様と私の子に間違いございません」

王妃は冷たい声で答えた。
だが、王は動じずに言い返した。

「だが、私は、パトリックが私の子で無いと、最初から知っておったぞ」

「!?」

「皆の前で言えば、王妃の恥になるであろう?」

王は王妃を手招きすると、その耳に囁いた。
王妃は顔を青くし、そして震え出した。
王妃がすごすごと戻ると、王は皆に向けて話した。

「前王妃が亡くなり、私は傷心していた。そんな中、形ばかりの結婚だと
周囲に言い含められ、カサンドラを妃に迎える事にした。
おまえも承知しておったであろう、形ばかりの結婚ではあるが、おまえの実家やその領土は恩恵を受ける事になる、それで十分恩を返したつもりでいた。
おまえが誰と不貞をしようと、私に文句は無かった。おまえへの償いとして
パトリックを実子として育てる事も受け入れた。
だが、ユベールを傷付ける事は別だ!到底許す事は出来ぬ!
ユベールが苦しんだ十六年、バトリスが苦しんだ十六年、
おまえたちは二人の人生を弄び、狂わせたのだ!しかと償って貰うぞ!」

王が声を荒げ、王妃、宰相は顔を青くしたが、何とか言い逃れ様と試みた。

「王妃と不貞を働いておりました事は認めますが…パトリック様を王に就け、
権力を手中に収めようなど!ましてや、ユベール殿下に魔毒を盛るなど、
その様な恐ろしい事は考えた事もございません!」

「ジャン=マルクは、宰相とは縁続きであったな、宰相の姉の子であろう?
バトリスの件があった後、僅か五年で重役の地位に就いたようだな。
誰も早過ぎると反対しなかったのか?」

重役たちは顔色を変え、畏まった。

「いえ、反対はありましたが、ドミニク宰相には誰も逆らえず…」
「王子の危機を知らせた功績は大きいと言われ…」
「そうか、それでは、仕事ぶりはどうだ?」
「ジャン=マルク殿は会議に出るだけで、碌に仕事などはしておりません…」
「それでは、投獄しても不備は無いな、十六年は長いぞ」

王が含みを持たせると、ジャンはその場に崩れ落ちた。

「ジャン=マルク、命乞いをするなら今だぞ、いいのか?」

「わ、私は叔父に頼まれただけです!重役に就けてやると言われ…
叔父の言われ動いただけです!バトリスが何かした処を見た事はございません!どうか、お慈悲を!!」

「よく申したな、おまえの処分はバトリス次第だ、後で重役と協議する。
だが、拷問と斬首だけは許してやろう、連れて行け!」

ジャンは衛兵たちに連れて行かれた。
王は宰相に向き直り、その青い目を光らせた。

「ジャン=マルクが認めたぞ、全てはおまえとカサンドラの謀略だな?」

「私は関係ございませんわ!」

王妃は保身に必死だった。
隣で、愛人である宰相が絶望の表情を浮かべたが、気付いてはいない。

「宰相独りの謀略だと?早々に裏切るとは、愛人が気の毒であろう…
宰相が何処から魔毒を手に入れたと言うのだ?
バトリスの後任の主治医、ピエール=コレーは、確かおまえが推薦し、
呼びよせた者だったな。
既に調べは付いておる、コレーはおまえの故郷の者であろう?」

「そ、それが何だと言うのです!」

「ユベールに使われた魔毒、いや、魔蟲は、嘗ては暗殺に使われていた様だが、現在は絶滅しておる。
だが、おまえの故郷で発見されたらしいな、二十年近く前___
ピエール=コレーを呼べ!」

扉が開き、白衣姿のピエールが衛兵の手で連行されて来た。
顔色は悪く、怯えた表情をしている。

「コレー、証言をして貰おう」

「は、はい…魔蟲は私が発見したもので…それは、偶然、いや、奇跡だ!
これ程、心躍る発見はない!実に素晴らしい!研究者としての血が騒ぎましたよ!
で、ですが、あの町の人たちは実に愚かで、理解しようとしなかった!
私は研究を続けたかったが、町から追い出され…
そんな時、王妃様の父上が救って下さったのです!
父上は私に住居を与えて下さり、研究の援助もして下さった!」

ピエールの目は異様に輝いていた。

「あ、ある日、王妃様が私の元を訪ねられ、
実際に魔蟲を与える実験をしても良いとおっしゃって下さった!
それで、私は王宮の主治医となったのです。
子供に魔蟲を与え、観察出来るとは!ああ、王妃様のお陰です!!」

「お、お黙りなさい!!」

王妃は青くなり叫んだが、ピエールは全く意に介さず、喋り続けた。

「い、いいですか、私の身立てでは、
子供は二十歳には完全に寝たきりになる筈だったのですよ、
最初は足、それから手、口も満足に動かなくなるでしょう…
ああ、それなのに、私の可愛い蟲を排除するなど…何と愚かな!!
私の長年の研究を台無しにしおって!!」

ピエールは突如怒り出し、暴れたが、衛兵に抑えつけられた。

「聞いたであろう?おまえの父親も今頃は拘束しておる、罪を認めるな?」
「あの男は狂っていますわ!」
「それには同意する。全く罪悪感を持っておらぬ、子の命を何とも思っておらぬのだな。人の命と研究と、どちらが大事なのか…」
「研究に犠牲はつきものでしょう?王様、あなただって、犠牲の上に立っているじゃありませんか」
「ならば、おまえの処分は決まりだ。
おまえ自身が魔蟲を飲み、好きなだけ、その体を観察するが良い。
幸い、おまえの部屋から大量の魔蟲を確保しておるからな」
「ああ!それは言い考えだ!流石王様ですな!はははは!」

周囲が驚愕し鎮まり返る中、ピエールは高笑いをしながら、衛兵たちに連れ出されて行った。

「ドミニク=デュトワは、宰相を排斥し、斬首に処す!
カサンドラは王妃剥奪、離縁の上、幽閉___」

王が処分を言い渡すと、王妃は暴れて抵抗を見せたが、衛兵たち相手に敵う筈も無く、即刻連れ出されて行った。

「ピエール=コレーは主治医を解任、先に申した通り、地下牢にて魔蟲を飲ませよ!
新しい主治医には、バトリス=モランを再任させたいが、
バトリス、受けてくれるか?」

「しかし、私は、王妃様と宰相の陰謀を知りながら、保身に走った者にございます…相応しくはございません」

「十六年、十分に罰を受けたであろう、自分を許してやれ、そして、再び王家の為に尽力して欲しい。
私もおまえを信じ、助けられなかった事を悔いておる、私にも挽回の機会を与えて欲しいのだ」

「有難く、お受け致します___」

バトリスは王の想いに胸を熱くし、体を震わせていた。

「カサンドラの実家、カントルーブ公爵の事は、後に協議する事にしよう…」

王は側近に幾つか指示を出し、それから再び向き直った。
その顔は幾分疲れている様に見える。

「第二王子パトリックだが、実子では無いが、今まで実子として育てて来た。
王子に相応しく成長するなら、一生口を噤むつもりでいたが…
おまえの素行は、王子に相応しくない、このままでは王家の名を穢すであろう…」

「はっ!俺は用済みって事か!自分の妻を幽閉に追い遣る位だもんな!
息子を見捨てる位、平気でやるだろうさ!!」

パトリックは自棄になっているのか、悪口を重ねた。
王は一通り、パトリックに喚かせてから、それを告げた。

「今の様な態度では、とても王宮に置く事は出来ぬ、王族としてもだ。
よって、身分は平民に落とし、おまえには監視を付ける。
隣国の魔法学園に通い、三年掛かって良い、卒業する事を命じる。
それまで、王都に立ち入る事は許さん。
更生が見込まれるなら、その時また考える事にしよう。
だが、このまま悪行を重ねるのであれば、然るべき処置をとる___」

「くそ!!おまえの所為だ!
おまえが、大人しく蟲に食われて死んでいれば___!!」

パトリックは突如、ユベールに牙を剥いた。
襲いかかろうとしたパトリックだったが、それはユベールには届かなかった。

「なっ!??」

ユベールの傍にいたリゼットが、盾の魔法を編んでいた。
リゼットは余裕の笑みを見せている。それは、パトリックを嘲っている様にも
見え、パトリックは怒りと悔しさで、力づくでそれを破ろうとした。

「ぐ…く!!!」

だが、リゼットが空いている右手を振ると、パトリックはあっさりと後方に吹き飛んだのだった。

「ぐはああ!!」

リゼットは何事も無かったかの様に王に向き直ると、頭を下げた。

「パトリックを連れて行け!暫く牢に入れておけば、頭も冷めるであろう」

王が苦々しく言うと、衛兵たちは、床の上で大袈裟に痛がり喚いているパトリックを、無理矢理引き起こした。
「くそ!離せ!俺は王子だぞ!!」パトリックは何とか逃げ出そうとしていたが、
相手は屈強な衛兵で、全く相手にならず、連れ出されて行った。

「こういう事情であるから、パトリックとヴィオレーヌ公爵令嬢との婚約は無効とする。ドュ・ラ・ファージュ公爵、よろしいかな?」

「は…はい…」

ドュ・ラ・ファージュ公爵は、パトリック王太子と結婚する事で、王家と懇意になれると考えていた。その為に、王妃とパトリックにかなりの出資をして来たのだが、全てが無駄になり、ガクリと肩を落とした。

「さて、全てが片付いた所で、皆に一つ良い知らせがある」

王は漸く柔和な表情を見せた。
そして、厳粛にそれを告げたのだった。

「第一王子ユベールを、王太子に命じる___」



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