32 / 34
最終章
裁きの刻2 視点なし
しおりを挟む「母上!?母上が何故!?」
縄で拘束された母の姿に、パトリックは驚き取り乱した。
美しく着飾ったいつもの王妃の姿では無く、恐ろしい表情で髪を振り乱す…
その姿は罪人にしか見えない。
王妃カサンドラは憎々しい表情を王に向け、叫んだ。
「王妃に対し、この様な扱いをなさるなど、気がふれたのではありませんか!?」
王はこれを、まるで聞こえていないかの様に無視し、尋ねた。
「王妃に訪ねる、パトリックは誰の子だ?」
「勿論、王様と私の子に間違いございません」
王妃は冷たい声で答えた。
だが、王は動じずに言い返した。
「だが、私は、パトリックが私の子で無いと、最初から知っておったぞ」
「!?」
「皆の前で言えば、王妃の恥になるであろう?」
王は王妃を手招きすると、その耳に囁いた。
王妃は顔を青くし、そして震え出した。
王妃がすごすごと戻ると、王は皆に向けて話した。
「前王妃が亡くなり、私は傷心していた。そんな中、形ばかりの結婚だと
周囲に言い含められ、カサンドラを妃に迎える事にした。
おまえも承知しておったであろう、形ばかりの結婚ではあるが、おまえの実家やその領土は恩恵を受ける事になる、それで十分恩を返したつもりでいた。
おまえが誰と不貞をしようと、私に文句は無かった。おまえへの償いとして
パトリックを実子として育てる事も受け入れた。
だが、ユベールを傷付ける事は別だ!到底許す事は出来ぬ!
ユベールが苦しんだ十六年、バトリスが苦しんだ十六年、
おまえたちは二人の人生を弄び、狂わせたのだ!しかと償って貰うぞ!」
王が声を荒げ、王妃、宰相は顔を青くしたが、何とか言い逃れ様と試みた。
「王妃と不貞を働いておりました事は認めますが…パトリック様を王に就け、
権力を手中に収めようなど!ましてや、ユベール殿下に魔毒を盛るなど、
その様な恐ろしい事は考えた事もございません!」
「ジャン=マルクは、宰相とは縁続きであったな、宰相の姉の子であろう?
バトリスの件があった後、僅か五年で重役の地位に就いたようだな。
誰も早過ぎると反対しなかったのか?」
重役たちは顔色を変え、畏まった。
「いえ、反対はありましたが、ドミニク宰相には誰も逆らえず…」
「王子の危機を知らせた功績は大きいと言われ…」
「そうか、それでは、仕事ぶりはどうだ?」
「ジャン=マルク殿は会議に出るだけで、碌に仕事などはしておりません…」
「それでは、投獄しても不備は無いな、十六年は長いぞ」
王が含みを持たせると、ジャンはその場に崩れ落ちた。
「ジャン=マルク、命乞いをするなら今だぞ、いいのか?」
「わ、私は叔父に頼まれただけです!重役に就けてやると言われ…
叔父の言われ動いただけです!バトリスが何かした処を見た事はございません!どうか、お慈悲を!!」
「よく申したな、おまえの処分はバトリス次第だ、後で重役と協議する。
だが、拷問と斬首だけは許してやろう、連れて行け!」
ジャンは衛兵たちに連れて行かれた。
王は宰相に向き直り、その青い目を光らせた。
「ジャン=マルクが認めたぞ、全てはおまえとカサンドラの謀略だな?」
「私は関係ございませんわ!」
王妃は保身に必死だった。
隣で、愛人である宰相が絶望の表情を浮かべたが、気付いてはいない。
「宰相独りの謀略だと?早々に裏切るとは、愛人が気の毒であろう…
宰相が何処から魔毒を手に入れたと言うのだ?
バトリスの後任の主治医、ピエール=コレーは、確かおまえが推薦し、
呼びよせた者だったな。
既に調べは付いておる、コレーはおまえの故郷の者であろう?」
「そ、それが何だと言うのです!」
「ユベールに使われた魔毒、いや、魔蟲は、嘗ては暗殺に使われていた様だが、現在は絶滅しておる。
だが、おまえの故郷で発見されたらしいな、二十年近く前___
ピエール=コレーを呼べ!」
扉が開き、白衣姿のピエールが衛兵の手で連行されて来た。
顔色は悪く、怯えた表情をしている。
「コレー、証言をして貰おう」
「は、はい…魔蟲は私が発見したもので…それは、偶然、いや、奇跡だ!
これ程、心躍る発見はない!実に素晴らしい!研究者としての血が騒ぎましたよ!
で、ですが、あの町の人たちは実に愚かで、理解しようとしなかった!
私は研究を続けたかったが、町から追い出され…
そんな時、王妃様の父上が救って下さったのです!
父上は私に住居を与えて下さり、研究の援助もして下さった!」
ピエールの目は異様に輝いていた。
「あ、ある日、王妃様が私の元を訪ねられ、
実際に魔蟲を与える実験をしても良いとおっしゃって下さった!
それで、私は王宮の主治医となったのです。
子供に魔蟲を与え、観察出来るとは!ああ、王妃様のお陰です!!」
「お、お黙りなさい!!」
王妃は青くなり叫んだが、ピエールは全く意に介さず、喋り続けた。
「い、いいですか、私の身立てでは、
子供は二十歳には完全に寝たきりになる筈だったのですよ、
最初は足、それから手、口も満足に動かなくなるでしょう…
ああ、それなのに、私の可愛い蟲を排除するなど…何と愚かな!!
私の長年の研究を台無しにしおって!!」
ピエールは突如怒り出し、暴れたが、衛兵に抑えつけられた。
「聞いたであろう?おまえの父親も今頃は拘束しておる、罪を認めるな?」
「あの男は狂っていますわ!」
「それには同意する。全く罪悪感を持っておらぬ、子の命を何とも思っておらぬのだな。人の命と研究と、どちらが大事なのか…」
「研究に犠牲はつきものでしょう?王様、あなただって、犠牲の上に立っているじゃありませんか」
「ならば、おまえの処分は決まりだ。
おまえ自身が魔蟲を飲み、好きなだけ、その体を観察するが良い。
幸い、おまえの部屋から大量の魔蟲を確保しておるからな」
「ああ!それは言い考えだ!流石王様ですな!はははは!」
周囲が驚愕し鎮まり返る中、ピエールは高笑いをしながら、衛兵たちに連れ出されて行った。
「ドミニク=デュトワは、宰相を排斥し、斬首に処す!
カサンドラは王妃剥奪、離縁の上、幽閉___」
王が処分を言い渡すと、王妃は暴れて抵抗を見せたが、衛兵たち相手に敵う筈も無く、即刻連れ出されて行った。
「ピエール=コレーは主治医を解任、先に申した通り、地下牢にて魔蟲を飲ませよ!
新しい主治医には、バトリス=モランを再任させたいが、
バトリス、受けてくれるか?」
「しかし、私は、王妃様と宰相の陰謀を知りながら、保身に走った者にございます…相応しくはございません」
「十六年、十分に罰を受けたであろう、自分を許してやれ、そして、再び王家の為に尽力して欲しい。
私もおまえを信じ、助けられなかった事を悔いておる、私にも挽回の機会を与えて欲しいのだ」
「有難く、お受け致します___」
バトリスは王の想いに胸を熱くし、体を震わせていた。
「カサンドラの実家、カントルーブ公爵の事は、後に協議する事にしよう…」
王は側近に幾つか指示を出し、それから再び向き直った。
その顔は幾分疲れている様に見える。
「第二王子パトリックだが、実子では無いが、今まで実子として育てて来た。
王子に相応しく成長するなら、一生口を噤むつもりでいたが…
おまえの素行は、王子に相応しくない、このままでは王家の名を穢すであろう…」
「はっ!俺は用済みって事か!自分の妻を幽閉に追い遣る位だもんな!
息子を見捨てる位、平気でやるだろうさ!!」
パトリックは自棄になっているのか、悪口を重ねた。
王は一通り、パトリックに喚かせてから、それを告げた。
「今の様な態度では、とても王宮に置く事は出来ぬ、王族としてもだ。
よって、身分は平民に落とし、おまえには監視を付ける。
隣国の魔法学園に通い、三年掛かって良い、卒業する事を命じる。
それまで、王都に立ち入る事は許さん。
更生が見込まれるなら、その時また考える事にしよう。
だが、このまま悪行を重ねるのであれば、然るべき処置をとる___」
「くそ!!おまえの所為だ!
おまえが、大人しく蟲に食われて死んでいれば___!!」
パトリックは突如、ユベールに牙を剥いた。
襲いかかろうとしたパトリックだったが、それはユベールには届かなかった。
「なっ!??」
ユベールの傍にいたリゼットが、盾の魔法を編んでいた。
リゼットは余裕の笑みを見せている。それは、パトリックを嘲っている様にも
見え、パトリックは怒りと悔しさで、力づくでそれを破ろうとした。
「ぐ…く!!!」
だが、リゼットが空いている右手を振ると、パトリックはあっさりと後方に吹き飛んだのだった。
「ぐはああ!!」
リゼットは何事も無かったかの様に王に向き直ると、頭を下げた。
「パトリックを連れて行け!暫く牢に入れておけば、頭も冷めるであろう」
王が苦々しく言うと、衛兵たちは、床の上で大袈裟に痛がり喚いているパトリックを、無理矢理引き起こした。
「くそ!離せ!俺は王子だぞ!!」パトリックは何とか逃げ出そうとしていたが、
相手は屈強な衛兵で、全く相手にならず、連れ出されて行った。
「こういう事情であるから、パトリックとヴィオレーヌ公爵令嬢との婚約は無効とする。ドュ・ラ・ファージュ公爵、よろしいかな?」
「は…はい…」
ドュ・ラ・ファージュ公爵は、パトリック王太子と結婚する事で、王家と懇意になれると考えていた。その為に、王妃とパトリックにかなりの出資をして来たのだが、全てが無駄になり、ガクリと肩を落とした。
「さて、全てが片付いた所で、皆に一つ良い知らせがある」
王は漸く柔和な表情を見せた。
そして、厳粛にそれを告げたのだった。
「第一王子ユベールを、王太子に命じる___」
22
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される
佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。
異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。
誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。
ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。
隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。
初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。
しかし、クラウは国へ帰る事となり…。
「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」
「わかりました」
けれど卒業後、ミアが向かったのは……。
※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜
月
恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。
婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。
そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。
不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。
お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!?
死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。
しかもわざわざ声に出して。
恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。
けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……?
※この小説は他サイトでも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?
せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。
※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる