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最終話
しおりを挟む「ああ、そうだ!王女を暗殺する様に、エリザ=デュランド伯爵令嬢から、金を貰い頼まれた!」
エリザ=デュランド伯爵令嬢…って、わたし!??
わたしは茫然となった。
周囲の生徒たちがわたしに気付き、さっとわたしから離れた。
「エリザ!」
ユーグ、レオン、ドロレス、エミリアンが駆け付けて来て、わたしを囲んだ。
わたしはパニック寸前で、ユーグに縋り、訴えていた。
「わたしじゃない!わたし、何もしていないわ!」
「当たり前だ!おまえがそんな事をする筈がない!」
ユーグがキッパリと言ってくれ、わたしは幾らか安堵した。
「どうせ、おまえの名を騙った誰かだろう!」
「そうですわ!不可解な現象の裏には、何かあるものよ…」
「エリザ、心配しないで、僕たちがついてるよ!」
レオン、ドロレス、エミリアンの言葉に泣きそうになった。
ユーグはわたしを守る様に抱き締めてくれた。
「エリザ=デュランド伯爵令嬢!出て来い!!」
警備の者が叫ぶ。
わたしは恐ろしく、ユーグにしがみ付いていた。
だが、こんな緊迫した状況に、突如、大きな笑い声が轟いた。
「はははっ!はーははははーー!!」
体を仰け反らせて笑っていたのは、アンドリューだった。
「お、おまえは何を笑っている!」
気でも触れたのでは?と、皆が恐々として見ている中、アンドリューは気が済んだのか、笑いを消した。
「あー、悪ィ、悪ィ、あんまり面白い事言うからよー、冗談かと思ったぜ、おい、今の冗談だよな?」
アンドリューが捕まえている男を小突く。
男は顔を上げずに、「冗談ではない!」と吠えた。
「だったら、おまえ、エリザ=デュランド伯爵令嬢の顔、知ってんだろうな?」
「顔は見ていない…フードを被っていた」
「顔を隠す位なら、名だって偽るだろうよ!どうせ、エリザ本人だって証拠は無いんだろう?」
アンドリューの声は野太い、故に、彼の言う事は皆の耳まで届いた。
「確かに、そうだよな…」「顔を隠すのに、本名告げる馬鹿いないよなー」
「しかも、爵位まで言ってんの?」「人の名を騙って、王女を暗殺するなんて酷いわ…」
わたしは聞こえて来る声に安堵した。
「そんでさー、俺、良い事知ってんだよなー」
アンドリューが呑気な調子で言い出し、皆、「今度は何を言い出すんだ?」と、
面白半分、怖いもの見たさで彼を注目した。
アンドリューは男の首根っこを掴み、その耳に向けて言った。
「おまえがアンジェリーヌと一緒にいる所、俺見ちゃった☆」
◆◆ アンジェリーヌ ◆◆
「エリザだけは、絶対に許さない!絶対に幸せになんてさせないわ!」
アンジェリーヌはその胸に、エリザへの激しい憎悪を燃え上がらせていた。
アンジェリーヌは転生者であり、前世では【溺愛のアンジェリーヌ】の読者で、内容も知っていた。
前世を思い出し、自分が《ヒロイン》であると知った時には、世界の全てを手に入れた気分だった。
最初こそ、物語通りに進んでいたが、いつしか、大きく変わってしまっていた。
四人の主要人物から溺愛される筈が、皆離れていき…今や傍にいるのは、アンドリューだけだった。
思い通りにならない事に、アンジェリーヌは酷く苛立っていた。
「あたしがヒロインなのに!!ここはあたしの為にある世界なのに!!」
そして、ままならない原因を、《エリザ》と決めつけたのだった。
「どうせ、《エリザ》は無理心中で死ぬ《モブ》だもの、死んだって構わないわよね。
ううん、《エリザ》の死は絶対に必要だわ、この世界を立て直す為にも___」
アンジェリーヌが考えた方法は、【溺愛のアンジェリーヌ】を模した作戦だった。
人を雇い、学院パーティの会場で、グランピュロス王国の王女である自分を襲わせる。
そして、犯人には、主犯として《エリザ》の名を言わせる。
そうすれば、エリザは【溺愛のアンジェリーヌ】のドロレス同様、追放、幽閉となるだろう___
誰に頼むかだったが、アンジェリーヌが王女という事で、警備は厳しく、会える者は限られていた。
アンドリューでも良かったが、彼にはパーティの折、エスコートをして貰い、且つ、自分を守って貰う必要がある。
そこで一気に距離が縮まり、彼と結ばれる筈だ。
目を付けたのは、警備の男だった。
警備の者といる分には、疑われる事はない。
それに、警備の者に興味を持つ者は稀だ、存在感の無い方が都合も良かった。
「あなた、名は何と言うの?」
「これは、王女様!ジャンと申します…」
「ジャン、いつもご苦労様___」
アンジェリーヌは警備の男に声を掛け、好意があると思わせ、十分に自分に惹き付けてから、話を持ち掛けた。
ジャンは忠誠心があり、詳しい事情を話さなくても良かった。
「エリザは危険人物なの、彼女を排除しなくてはいけないのよ…
あなたはそれ以上知らない方が良いの、
あなたは一旦捕らえられるでしょうけど、必ず救い出すと約束するわ。
これは、大義の為、二人だけの秘密よ___」
ジャンは神妙な顔で、頷いた。
「王女様の為、グランピュロス王国の為ならば、何でも致します」
◆◆◆ ◇◇◇
「俺さー、あんたらが何か企んでんのか気になって、それとなく尾行してたんだよ。
何かしたら止める気だったけど、まさか、アンジェリーヌを狙うとはなー」
「ち、違う!!王女様は関係ない!会ってもいない!いい加減な事を言うな!!」
「へー、暗殺しようとした相手を庇うんだ?オモロイねー、あんた。
尤も、暗殺するなら、二人きりの時の方がいいよな?
何で、突然、暗殺しようと思ったんだよ、まさか、痴情の縺れじゃねーよな?」
アンドリューに言われ、男は沈黙した。
側にいて傍観していた警備の者たちは、「はっ」とし、「不敬罪だぞ!」とアンドリューを責めた。
「悪ィ、悪ィ、それで、アンジェリーヌ、あんたは何か言う事ねーの?
自演でしたって言えば?余興だって事にすれば、皆許してくれるぜ?」
アンジェリーヌは険しい顔をしていたが、一瞬で表情を消した。
「あたしは何も存じません、この者とは会った事も話した事もないわ」
冷たく言い切った。
「それじゃ、仕方ないな、王宮に行くかー。
俺は見た事を全て話す、俺の名誉に掛けて、絶対にこの男の口を割らせてやる!
アンジェリーヌ、逃げられると思うなよ!」
アンドリューは啖呵を切り、男を引っ張って行く。
警備の者たちは後ろから慌てて付いて行った。
「レオン様、アンジェリーヌ様はいかがなさいましょうか?」
警備の一人に聞かれたレオンは、王子然として答えた。
「襲われ掛けたのだぞ、王宮へ連れて行き、保護すべきだろう」
「はい、その様に致します___」
アンジェリーヌは警備の者に付き添われ、会場を出て行った。
わたしたちはそれを遠目に見ていたが、突如、「私も王宮に行く!」とレオンが宣言した。
「エリザ、安心しろ、おまえの疑いは晴らしてやる!」
「レオン様!御願い致します」
答えたのは、わたしでもユーグでもなく、ドロレスだった。
レオンは熱い瞳でドロレスを見つめ、「ああ、任せろ」と彼女の肩を撫でた。
すっかり二人の世界が出来上がっていて、わたしたちは声も出せず、頬を赤くするしかなかった。
レオンはドロレスに暫しの別れを告げると、颯爽と会場を出て行った。
恐らく、彼等と一緒の馬車で王宮に戻るつもりだろう。
パーティは中断していたが、再び音楽が流れ出し、賑やかさを取り戻した。
「エリザ、気にするな…と言っても無理か」
「ううん、大丈夫!アンドリューが証言してくれるし、
レオン様もドロレス様もエミリアンも、わたしを信じてくれたし、
それに、ユーグがいるもの!」
誰に何を言われても、わたしは大丈夫。
皆がいてくれるから、
ユーグがいるから、
絶対に、生き残ってみせるわ___!
「ユーグ!踊りましょう!わたしたち、まだ踊っていないのよ?」
ユーグは微笑み、わたしにその手を差し出した。
◇◇
その後、男の証言から、アンジェリーヌの自演だった事が判明した。
この事は、グランピュロス王国にも伝えられ、王室を震撼させたらしい。
アンジェリーヌはグランピュロス王国に強制送還される事になり、一度も学院に登校する事無く、国を去った。
わたしとアンドリューは名誉を取り戻し、一躍、学院の有名人となった。
注目され慣れているアンドリューは、陽気に対応しているらしい。
わたしはと言えば…
「見て!エリザ様だわ!」
「今日も素敵ね~」
「大国の王女にも嫉妬されるんですもの、当然ね!」
「知ってる?彼女、ドロレス様ともお友達なのよ!」
「確か、白豚って呼ばれてたよな?」
「すっかり見違えたなー」
「可愛いし、なんかいいよなー」
「彼女の可愛さを見抜いていたユーグ様って、凄いよなー」
「ありがとう!あなたも、ありがとう!
メイクを教えて欲しい?いいわよ、明日の朝でいいかしら?」
アンドリュー同様、陽気に対応している☆
「ユーグ!」
共同棟の入り口に、ユーグの姿を見つけ、わたしは駆け出した。
地面を蹴り、彼の胸に飛び込む。
固く逞しい胸は、すんなりとわたしを抱き止めた。
「髪型が崩れるんじゃないのか?」
「いいの!愛の証だもの!」
わたしたちは笑い、唇を重ねた。
この夏休暇は、一緒にデュランド伯爵館に帰り、両親に結婚の許しを得るつもりだ。
わたしたちの物語は、まだまだ始まったばかり☆
《完》
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