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しおりを挟む「ドロレス様が助けて下さったの!」
わたしは事の顛末をエミリアンに話した。
アンジェリーヌの事は、「勘違い」と話しておいた。
「姉さんが…流石だなぁ…
やっぱり、姉さんは変わってなかった…!」
エミリアンは頬を高潮させ、姉と良く似た紫色の目をキラキラとさせている。
ドロレスはエミリアンを大切に思っているし、エミリアンも同じだ。
相思相愛ね!美しき、姉弟愛!!
エミリアンとドロレスは、学院内では相変わらず顔を合わせようとしないが、
しっかりと、手紙のやり取りをしていた。
エミリアンは読書家で筆の立つ方で、ドロレスは友人付き合いが無く、手紙を書く時間は十分にある様だった。
その内容を、エミリアンはわたしと会った時に、話してくれるのだった。
「エリザのお陰だよ、僕も姉さんも、エリザに感謝してるよ」
いつもそんな風に言ってくれ、わたしは照れながらも、うれしかった。
◇◇
その日の昼休憩、いつも通り、トレイに料理を乗せ、テーブルに向かった所、
ユーグの隣に見慣れない女子生徒の姿があった。
美しい金色の髪の女性___
わたしは一瞬で、彼女がディオール=ボワレー伯爵令嬢である事を悟った。
遂に、来たのね…
家同士の話で決められた縁談で、ユーグは断るが、
父から「付き合ってみろ、案外気が合う事もある、良い娘の様だ…」としつこく言われ、世話になった恩から、断る事が出来なかったのだ。
わたしが【溺愛のアンジェリーヌ】を読んだ限り、エリザが無理心中をしなければ、ユーグはディオールと結ばれたのではないかと思う。
エリザに恋愛感情は無いし、アンジェリーヌに対してもレオンに義理立てし、自分を抑えてしまう。
ディオールに対しては、何も柵は無く、自然に付き合えた。
わたしが無理心中しなければ、ユーグはディオールと幸せな家庭が作れる…
応援したいのに、どうしてだろう、少しも胸が躍らない。
ぼうっと立ち尽くしていると、ユーグが気付き、席を立った。
「エリザ、紹介しよう、彼女は父の知り合いのボワレー伯爵の令嬢で、ディオールだ。
これから顔を合わせる事も多いだろう___」
「あなたがエリザね、ユーグから聞いているわ、よろしくね」
ディオールは魅力的な笑みを見せた。
感じの良い人だし、中々の美人だ。
反対する理由なんて無い___
ただ、ユーグの隣はわたし専用だと思っていたから…少し寂しいだけ。
駄目よ! 無理心中は嫌だもの!妹らしくしなきゃ…!
「エリザです、こちらこそ、義兄共々、よろしくお願いします!」
「あら!」とディオールは楽しそうに笑う。
ユーグは苦笑し、わたしの後頭部をポンと叩くと、席に戻った。
わたしは空笑いをし、エミリアンの隣に座った。
心配そうなエミリアンの視線は気付かない振りをし、適当な話題を振り、食事を平らげた。
ユーグとエミリアンはいつも通り、わたしとジェシー、それから今日はディオールも一緒に、女子部棟まで送ってくれた。
「それでは、ユーグ様、ごきげんよう」
ディオールの上品な挨拶に、ユーグは「ああ」と頷く。
ぼうっと見ていると、ユーグに頭をポンポンと叩かれた。
「エリザ、午後からも頑張るんだぞ」
「分かってますー!もう、髪が崩れちゃうってば!」
ユーグは明るく笑い、エミリアンと共に去って行った。
「お二人は、兄妹仲がよろしいのね」
ディオールに言われ、わたしは「ええ、まぁ」と曖昧に答えた。
「それじゃ、ユーグ様が結婚するとなれば、寂しいかしら?」
「いえ、いつでも会えますし、寂しいなんて全然思いません」
胸がチクリと痛む。
寂しいに決まっている。
いつでも会えても、わたしよりも大事な人が出来るのだと思うと、辛いに決まっている。
だけど、そんなのは、わたしの我儘だから___
ユーグの幸せを考えてあげなきゃ…
「それを聞いて安心したわ、私ではユーグ様に相応しくないかしら?」
「いえ!ディオール様はとても素敵ですし、相応しい方だと思います。
結婚は、義兄の気持ち次第ですけど…」
完璧な女性だとしても、愛せるかどうかは、別問題だ。
ディオールには時間を掛けて、ユーグを振り向かせて欲しい。
ディオールは「そうね、その通りね」と薄く微笑んだ。
「あぁ!いけない!わたし行く処があるので、お先に失礼します!」
ドロレスの教室に向かうのを思い出し、わたしは二人と別れて教室に急いだ。
◇◇
ディオールの出現により、わたしの生活も少し変わってしまった。
朝の登校時には、ディオールはユーグと共にわたしたちを待っていて、一緒に登校し、
昼休憩の食堂では、ディオールはユーグの隣に座っていて…嫌でもその存在を意識する事になる。
【溺愛のアンジェリーヌ】でのエリザは、ユーグに本気で恋をしていたし、さぞ辛かっただろう。
心を病んでも仕方が無い気がしてきた。
ユーグは基本、『来る者は拒まず』で、自分から声を掛けたりはしないが、寄って来る分には無碍にはしない。
話し掛けられれば答えるが、話が盛り上がる事は無い。
ユーグが盛り上げようとしないのだ。
モテる男の余裕ってヤツかしら??
憎たらしいこと!!
それとも、アンジェリーヌへの想いがあるから、かしら?
その方が大いに納得出来たし、出来ればそうであって欲しい気もした。
気の多い義兄なんて嫌だもの!
《ユーグ》は誠実な人だ。
義妹からの想いに気付いた時には、自分から遠避けようとしていた。
でも、完全には冷たくなれないから、《エリザ》も諦めきれなかったのだ。
「…エリザ、エリザ、聞いているか?」
ユーグの声で、わたしは「はっ」と我に返った。
サンドイッチを手にしたまま、ぼうっとしていた様だ。
「どうした、熱でもあるのか?」
ユーグが立ち上がり、席までやって来て、わたしの額に手を当てた。
「きゃああ!!」
思わず声を上げてしまい、周囲から注目されてしまった。
ううう!!義兄からバックハグされてるみたいで、恥ずかしいんですけど!!
わたしは赤くなってしまったが、ユーグは平然と、気の済むまま手を当てていた。
「変な声を上げるな、少し熱があるな、保健室に行こう」
「保健室なんて、大袈裟よ、全然平気だから!」
わたしは明るく笑ったが、ユーグは一欠片も笑っておらず、
「行かないなら、抱えてでも連れて行くぞ」と脅してきた。
もぉ!心配症なんだから!!
「行く!行きます!でも、食事が終わってからね」
わたしはバクバクとサンドイッチを食べた。
「俺はエリザを保健室に連れて行くから」と、食堂を出た所で、ユーグとわたしは皆と別れた。
「本当に、大した事無いのに、きっと、先生にも笑われちゃうわ」
「おまえが無事だと分かるのなら、誰に笑われてもいい」
こんな事をサラリと言ってしまうのだから、やはり小説の主要人物は違う。
熱なんてないのに、顔が熱いわ…
「おまえと二人で話すのは久しぶりだな」
しみじみと言われ、わたしは顔を上げた。
確かに、いつも誰かと一緒だし、最近はディオールがいるから、遠慮して、あまり話さない様にしていた。
「おまえはエミリアンと仲が良いし…」
ん??エミリアン??
ディオールの事を考えていたわたしは、思い掛けない事を言われ、キョトンとしてしまった。
ユーグとディオールの邪魔をしないように、エミリアンとジェシーを自分の方に引き付けてはいるけど…
「もしかしてー、お義兄様、妬いてる?」
軽口だったが、ユーグは「はっ」と息を飲み、その大きな手で顔を隠した。
予想していなかった反応に、わたしまで恥ずかしくなってしまった。
「もー、お義兄様ってば、シスコンなんだから!」
変な空気を吹き飛ばそうと、明るく言って笑った。
だが、ユーグは元気が無く、小さな声で漏らした。
「俺の事、迷惑か?」
こんなに自信の無いユーグは初めてで、胸がキュっとした。
「迷惑なんて思った事ないよ!
こんなにわたしの事を想ってくれるのは、お義兄様だけだもん!」
ユーグがくれるのは、家族愛、無償の愛だ。
かなり重めの愛だが、だからこそ、わたしは安心出来る。
「わたし、頑張って、お義兄様と同じ学校に入れて良かったと思ってるよ!
お義兄様がいてくれるから、毎日が楽しいの!」
だから、ずっと、わたしを好きでいてね___
そんな事を願ってしまっている。
「ありがとう、エリザ」
ユーグが薄く微笑む。
何だか、泣きそうに見えて、わたしはユーグの腕を胸に抱いた。
「大好きよ!お義兄様!」
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