【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音

文字の大きさ
上 下
19 / 33

19

しおりを挟む

レオンから話が伝わったのか、陽が傾いた頃、ユーグが寮を訪ねて来た。
男子生徒は寮の中に入る事は出来ないので、わたしたちは外で話す事にした。

「話はレオンから聞いた。
エリザ、おまえからも話を聞かせてくれないか?」

レオンはアンジェリーヌを信じた。
ユーグもアンジェリーヌを信じるだろう…
そう思うと、虚しさが込み上げたが、泣き寝入りはしたくなかった。
わたしはなるべく冷静になろうと努め、それを話した。

「寮に帰る途中で、悲鳴を聞いて駆けつけたの。
泉の側でアンジェリーヌがずぶ濡れになっていたから、声を掛けたんだけど、
彼女は錯乱してたみたいで、悲鳴を上げて…そこにレオン様が駆け付けてきたの。
アンジェリーヌはわたしが突き落としたと言って、レオン様は最初信じなかったけど、
わたしがドロレス様の取り巻きだと聞いて、信じたみたい。
わたしの話なんて聞かずに、わたしを詰って行ってしまったわ」

「ドロレスの取り巻きをしているというのは、本当なのか?」

「取り巻きとは少し違うの、言うならば、アドバイザーかしら?」

「アドバイザー?」

「わたしは美容と健康に詳しいから、助言をしたり、実際にメイクや髪のセットをしてあげていたの。
わたしは断ったんだけど、報酬も貰っているわ。その価値はあるって。
いつも一緒にいる訳じゃないの、教室で会ったり、放課後に寮の部屋を訪ねるだけよ。
誓って言うけど、ドロレス様と一緒の時に、アンジェリーヌと会った事は無いわ」

「そうか…」

ユーグが息を吐く。

「信じられない?」

わたしが上目に見ると、ユーグは視線を返し、「いや」と頭を振った。

「だが、どうしてアンジェリーヌが嘘を吐いたのかが、分からない…」

「そうね、良い人そうだったのに…やっぱり、錯乱していたのかしら?」

「そういう事もあるだろう、誰かとおまえを見間違えたのかもな」

本気でそう思っているとは思えなかったが、ユーグはわたしの肩に手を置き、優しく撫でた。
慰められている気がし、少し泣きたくなった。

「アンジェリーヌは、わたしみたいに太っている女子生徒は他にいないから、見間違えたりしないって」

「おまえは太っていないよ、それに、見間違いは良くある事だ」

もう!義兄馬鹿なんだから!!
それでも、優しく微笑まれると、心が震えてしまった。

「そ、そんな事言うの、お義兄様だけなんだから!」

「エリザ、おまえが卑怯な真似などしない事は、俺が良く知っている。
おまえが意地悪な子じゃない事もな。
ドロレスにしている事も、彼女やエミリアンを思っての事だろう?
おまえは胸を張っていればいい___」

ユーグがギュっとわたしを抱擁した。
その温もりに、わたしは泣きたくなり、想いのままに、ギュっと抱きしめ返した。


◇◇


三日が過ぎても、アンジェリーヌの件は、大事にはならなかった。
アンジェリーヌの正体はまだ知られていないし、わたしはドロレスの取り巻きと思われている様で、誰も口にしないのだ。
このまま沈下し、忘れ去られる事を期待していた。

だが、そう簡単にはいかなかった。


「エリザ、少し付き合ってくれるか?エミリアンには俺から断りを入れた___」

放課後、図書室の前でユーグが待ち伏せていた。
ユーグが向かった先は、例の場所、アンジェリーヌが落ちた泉だった。
そこには、レオンとアンジェリーヌの姿があり、少し離れて、学院生ではない男女二人が立っていた。

レオンは固い表情をしているし、アンジェリーヌは不機嫌そうだ。

例の話をするのだと思うと、どっと疲れた。
「言った」「言わない」の話になるのが目に見えていたからだ。

アンジェリーヌさえ嘘を吐かなきゃ、何も問題は無かったのに…

アンジェリーヌの表情を見る限り、彼女はわたしに敵意を持っている様だ。

「レオン、待たせたな、始めよう。
アンジェリーヌの話では、エリザに突き落とされたという事だが…」

「あたし、嘘なんて言ってないわ!あたしを信じてくれないの?
ユーグ様がそんな人だなんて!あたし、ショックでどうかなりそう!」

アンジェリーヌが大袈裟に騒ぐ。
何処か芝居染みているんだけど…
レオンにはそうは見えないのか、「落ち着け、大丈夫だ」と彼女を励ましていた。

「アンジェリーヌ、その日はどうして《ここ》に来たんだ?」

「手紙で呼び出されたんです。
放課後、泉に来いって、ドロレス様の名だったわ」

「その手紙を見せて貰っていいか?」

「手紙は無いの、燃やせと指示されていたから…」

「そんな不審な手紙を貰い、誰にも相談しなかったのか?」

「レオン様に相談したかったけど、ドロレス様が悪く思われるんじゃないかと…
レオン様の婚約者ですし、可哀想で…」

アンジェリーヌが殊勝な事を言い、レオンが「アンジェリーヌ」と彼女を支える。
レオンは騙されているんじゃないかしら?と不安になってきた。
アンジェリーヌはヒロインだし、レオンが好きになるのも仕方ないんだけど…
彼女はヒロインとしての魅力に欠ける気がする。

平気で嘘を吐くんだもの!信用出来ないわ!

「ここに来た時、エリザがいたのか?」

「誰もいませんでした、暫くして、エリザが来て、あたしを突き飛ばしたんです!」

嘘よ!!わたし、そんな事してないわ!!
叫びたくなったが、ユーグが手で止めた。

「それは正面からか?顔を見たのか?」

「正面からです!凄い勢いで突き飛ばされたの!」

「それで、泉に落ちた…他には誰もいなかったのか?」

「はい、エリザだけです!
ユーグ様が義妹を庇いたいお気持ちは分かります、
ですが、あたしはこの名に掛けて、嘘は申しません!」

この名に掛けて?
わたしは違和感を持った。
もしかして、アンジェリーヌは自身の出生を知っているのかしら?
チラリとそう思ったが、わたしはそれを打ち消した。

まさか!だって、それが知れるのは、もう少し先だ。
それに、まずは王室に報告がされ、王室から迎えの馬車が来た筈___

「エリザから聞いた話では、悲鳴を聞いて駆けつけた時には、アンジェリーヌはずぶ濡れだったそうだ。
声を掛けたが、悲鳴をあげられ、そこにレオンがやって来た。
そうだったな、エリザ?」

わたしはキッパリと、「はい!」と答えた。
勿論、アンジェリーヌは「そんなの、嘘よ!!」と、叫んだ。

「どちらが真実か見極める為、人を使って調べさせた。
報告をしてくれ___」

ユーグが見知らぬ男女に促した。
もしかして、この人たち、《探偵》だったの?この世界では、《密偵》かしら??

「はい、事件が起きた時間に通り掛かった生徒を探した処、何人か見つけました。
アンジェリーヌが一人で泉の方へ向かうのを目撃した者もいます。
程なくして、悲鳴が上がったそうです。
悲鳴の後、エリザが泉の方に走って行き、再び悲鳴が上がり、レオン殿下が向かったと」

その通り!!ブラボー!!
こんな場でもなければ、拍手喝采を送っていただろう。
一方、アンジェリーヌは見る見る顔色を失くした。

「嘘よ!皆であたしを陥れようとしているのね!?
幾ら、平民の娘だからって、酷いわ!
あたしは努力して、特待生になったのに!あたしには、学院生の資格がないというの!?」

そんな事、誰も言ってないし!話をすり替えないで欲しいわ!

わたしは腰に手を当て、アンジェリーヌを睨み見た。
この状況だというのに、レオンは「そんな事は誰も思っていない」と慰めている。
いい加減、その金色の頭を殴りたくなってきた。

「レオン、おまえはどうなんだ?」

ユーグがレオンを促した。
レオンも青い顔をしていた。

「ユーグからエリザの話を聞き、思い出したんだが…
一度、悲鳴を聞いた気がしたが、気の所為だと思った。
次に、はっきりと聞こえ、駆けつけた。
あの時は頭に血が上っていて、冷静ではなかった…
エリザの話を嘘だと決めつけ、責めて悪かった」

レオンに陳謝され、わたしは機嫌を直した。
間違いを認める事は、勇気ある行動だもの!

「間違いは誰にでもあるわ。
わたしは分かって貰えたらそれでいいから、この事は水に流しましょう!」

「エリザ、ありがとう…」

らしくなく弱々しい笑みを見せるレオンに、わたしは力強く頷いた。
だが、一方、アンジェリーヌは嘘を認める気がない様だ。

「でも、誰もここから出て来た人を見ていないのでしょう?
だったら、エリザしかいないわ!彼女しかいなかったんだから!」

「ああ、そうなんだ、だから不思議なんだよ。
一度目の悲鳴の時、誰もいなかった事になる___」

ユーグがじっとアンジェリーヌを見つめる。
これが、チェックメイトだった。
誰の目にも明らかだったが、アンジェリーヌは尚も食い下がった。

「違うの!確かに、突き飛ばされたのよ!きっと、茂みの中に隠れたんだわ!
きっと、ドロレス様よ!あの人に決まってるわ!
あたしは泉に落ちていたから、見てなかったの!
泉から上がった時、エリザがいたから…勘違いなの!」

あんなに自信満々に証言しておいて、今更「勘違い」??
わたしは嘘を重ねるアンジェリーヌに苛立った。
仇を取ってくれたのは、またもやユーグだった。

「ああ、ドロレスの名が出たから、一応、調べておいたよ。
君たちが泉にいた時、ドロレスは既に寮に帰っていた。
寮のメイドが証言している、彼女の着替えを手伝い、紅茶を運んだそうだ。
勿論、彼女の制服には草一つ付いていなかった」

完璧なアリバイに、アンジェリーヌは今度こそ沈黙した。
そして、突然、レオンに抱き着いた。

「あたし、ドロレス様の他にも、誰かに恨まれていたのね!あたし、怖い!!」

「アンジェリーヌ、君は休んだ方がいい、寮まで送って行こう…」

レオンはアンジェリーヌの肩を抱き、立ち去った。

レオンってば!!絶対に騙されてるんだから!!

わたしが憤慨していると、ふと、レオンがこちらを振り返った。
それに対し、ユーグが頷く…

どういう事?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

悪令嬢ブートキャンプ

クリム
恋愛
 国王に見染められた悪令嬢ジョゼフィーヌは、白豚と揶揄された王太子との結婚式の最中に前世の記憶を取り戻す。前世ダイエットトレーナーだったジョゼは王太子をあの手この手で美しく変貌させていく。  ちょっと気弱な性格の白豚王太子と氷の美貌悪令嬢ジョゼの初めからいちゃらぶダイエット作戦です。習作ということで、あまり叩かないでください泣

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双

柊彼方
ファンタジー
「この穀潰しが!」 アストリア国の第二王子『ニート』は十年以上王城に引きこもっており、国民からは『穀潰しの第二王子』と呼ばれていた。 ニート自身その罵倒を受け入れていたのだ。さらには穀潰士などと言う空想上の職業に憧れを抱いていた。 だが、ある日突然、国王である父親によってニートは強制的に学園に通わされることになる。 しかし誰も知らなかった。ニートが実は『天才』であるということを。 今まで引きこもっていたことで隠されていたニートの化け物じみた実力が次々と明らかになる。 学院で起こされた波は徐々に広がりを見せ、それは国を覆うほどのものとなるのだった。 その後、ニートが学生ライフを送りながらいろいろな事件に巻き込まれるのだが…… 「家族を守る。それが俺の穀潰士としての使命だ」 これは、穀潰しの第二王子と蔑まれていたニートが、いつの日か『穀潰士の第二王子』と賞賛されるような、そんな物語。

世界を救う予定の勇者様がモブの私に執着してくる

菱田もな
恋愛
小さな村の小さな道具屋で働くイリア。モブの村娘として、平凡な毎日を送っていたけれど、ある日突然世界を救う予定の勇者様が絡んできて…?

【完結】破滅エンド回避したはずなのに、冷酷公爵が「君以外いらない」と迫ってきます

21時完結
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・ヴァレンティーヌに転生した私。 このままだと、婚約者である公爵との婚約が破棄され、国外追放……最悪、処刑エンド!? そんなの絶対にイヤ!! 前世の記憶を頼りに、地道に努力を重ねた私は、ついに破滅フラグを完全回避! 公爵との婚約も無事に解消し、自由の身になった……はずなのに—— 「どこへ行こうとしているの?」 「君を手放すつもりはない。俺には、君以外いらない」 冷酷と名高い元婚約者、カイゼル・ディアス公爵がなぜか執着モードに突入!? 「私はもう、公爵様とは関係のない立場のはずです!」 「それは君の勘違いだ。俺は一度も、お前を手放すとは言っていない」 どうして!? 破滅フラグは回避したはずなのに、むしろ悪化してるんですけど!? 逃げようとすれば、甘く囁いて絡め取られ、冷徹だったはずの彼が、なぜか私にだけ激甘で溺愛モード!?

処理中です...