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わたしは保健室でタオルと着替えを借りた。
わたしがしがみついてしまった為、ユーグの制服も濡れてしまったが、
ユーグは「大した事はない」と、上から拭いただけで着替えはしなかった。

「おまえ、誰かに意地悪をされているんじゃないのか?」

保健室を出て、ユーグが低い声でわたしに聞いてきた。
わたしはゾクリとし、笑って誤魔化した。

「まさか!地味なわたしなんて、イジメ甲斐もないわよ!」

ユーグが知れば、ただでは済まないだろう。
勿論、卑怯者たちの事などどうでも良いが、
大事になれば面倒だし、ユーグがやり過ぎれば、教師たちからの心証を悪くするかもしれない。

「それならいいが…困った事があれば、いつでも俺に言うんだぞ?」

「うん!頼りにしてる!」

「教室まで付いて行くよ、俺から遅れた理由を話そう…」

「自分で言えますから、お義兄様は戻られて下さい!
お義兄様が首席から転落したら、わたしの所為になっちゃうわ!」

「安心しろ、おまえの為にも、俺は首席を取り続けるよ」

ううっ!言ってみたい台詞!!
ユーグは実力が伴うから、可愛げがないのよねー!

「兎に角、わたしにも自尊心があります!独りで大丈夫よ!」

わたしは強引にユーグの背を押して、追いやった。





昼食時、ユーグの隣にはエミリアンが座っていた。

「エミリアン!?」

幻ではないかと思わず瞬きをしたが、その姿は消えなかった。
エミリアンがふわりと笑う。

「ユーグが誘ってくれたんだ、来て良かったかな?」

エミリアンが伺う様に上目で聞く。

ううう!!かわいいーーーーー!!!

「勿論よ!うれしいわ!!お義兄様、ありがとう!」

わたしはユーグに感謝の眼差しを向けた。
ユーグは振り返ると、「ああ」と微笑み、頷いた。

食事をしていて、ふと、視線を感じて顔を上げた。
遠くから、ドロレスがこちらを見ている…
わたしが気付いた事が分かると、スッと視線を反らされた。

わたしに意地悪をしているのは、ドロレス?

まさか!彼女がそんな事をする理由はない。
アンジェリーヌならば分かるが、わたしは全く関係ない筈だ。

「わたしは、モブだもの…」

いや、確か、《エリザ》はドロレスに手を貸す事になる…
それが露見し、ユーグはアンジェリーヌを諦め、《エリザ》と距離を置こうとするのだ…

「エリザ?どうしたの?」

エミリアンの紫色の目がわたしを見る。
それはドロレスと似ていて、ギクリとした。

「ううん!何でもないわ!」

わたしは笑って誤魔化した。

いつの間にか、ドロレスの姿は消えていて、その後は、楽しく食事をした。
ユーグとエミリアンはわたしたちを女子部棟まで送ってくれた。
それで、すっかり忘れていたのだけど、教室に向かう道中、
擦れ違いざまにまたもや意地悪を言われた。

「白豚は男好き!」
「流石、白豚!いい根性してるよな!」

ムカツク!!!

「エリザぁ、大丈夫?ユーグ様に相談した方がいいんじゃないかしらぁ?」

ジェシーが不安そうに聞いて来る。

「大丈夫よ、白豚と言わせない程に痩せてやるわ!」

わたしが言うと、ジェシーは笑った。


◇◇


寮では嫌がらせは受けなかった。
嫌がらせは、女子部棟に限られる様になった。
恐らく、下手に共同棟で手を出せば、シスコンでお馴染みのユーグが飛んで来るからだろう。

だが、段々と慣れてくるもので、意地悪を言われる位は無視出来た。
物を投げつけられたりした時は、流石に黙っていられなかった。
何処からともなく飛んで来た本が、わたしの後頭部に直撃し、廊下に落ちる…

「いっ、痛~~~~!!
ちょっと!いい加減にしなさいよ!この、卑怯者!!」

「フン!自業自得だ、バーカ!!」

思い切り、遠くまで走って行き、そこから叫ぶ…
子供なの!??呆れるしかない。

だが、そこに思わぬ助けが入った。
豊かな黒髪を靡かせ現れたのは…

ドロレスだ___!

「捕まえなさい」

彼女の一言で、取り巻き二人が、わたしに本を投げつけた女子生徒たちを捕まえた。

「ど、ドロレス様!?」
「ど、どうして??」

恐々としている女子たちを、ドロレスは超然と見下ろした。

「あなた方、この様な野蛮な行いをして、一体、どういうおつもりですの?
学院の名を穢したいの?それとも、退学になりたいの?」

女子生徒たちは、「ひぃ!」と悲鳴を上げた。
わたしは漸く、彼女たちの元に辿り着いた。

「ドロレス様、ありがとうございます…」

ドロレスはチラリとこちらを一瞥しただけで、視線を戻した。

「《自業自得》というのだから、相応の理由があるのでしょうね?
お話なさい、それとも、罪人として突き出されたいかしら?」

流石、悪役令嬢!!
真顔で迫ると、女子生徒たちは泣き出した。

「うわああ!すみません!こんな事、するつもりじゃなかったんですぅ!」

いやいや、無防備な後頭部に本を投げつけるなんて、強い意思がなきゃ、無理でしょうよ!!
わたしは憤然としたが、取り敢えずは聞いてみる事にした。

「理由をお話しなさいと言っているのよ?私の言葉はお分かり?」

「理由は…白豚…いえ、エリザ=デュランドが、義兄ユーグ様の権威を盾に、学院で好き勝手しているからです…
あたしたち、お仕置きのつもりだったんです…」

「好き勝手?わたしが何をしたっていうのよ?」

「エミリアン様に近付いたじゃない!!」

エミリアン??
まさか、エミリアンの名が出て来るとは思わず、わたしは瞬きした。
だが、相手は真剣だった。

「そうよ!エミリアン様は皆のものなのに!!ユーグ様に頼んで近付くなんて、狡いわよ!!」

確かに、食堂で一緒のテーブルに呼んでくれたのはユーグだが…
それ以前から、嫌がらせしてたわよね??

「お義兄様に頼んだりなんてしていないわ、自分で努力して仲良くなったのよ」

「嘘吐かないでよ!そんな事でもなきゃ、なんでエミリアン様が、
あんたみたいな白豚のエスコートなんかするのよ!」

ああ、新入生歓迎パーティの事ね…
新入生でエスコートがいる子は少なかったので、目立ったのだろう。

わたしは大きく息を吐いた。

「そんなの、エミリアンが天使みたいに純粋で、人を容姿で判断しないからじゃない?
エミリアンは太っていようが、痩せていようが、友達になってくれる、そういう人よ。
あなたたちの汚れきった目には、曇って見えるでしょうけど!
それに、《皆のもの》ですって?そんな事をして、何になるの?
エミリアンは友達が欲しかったのに、あなたたちは、彼を孤独にさせただけじゃないの!
悔しかったら、わたしに意地悪なんかしていないで、エミリアンと友達になる努力しなさいよ!」

わたしは言いたい事を言い、踏ん反り返った。
随分スッキリりたが、何故かドロレスからジロリと睨まれた。
ふえええ??何故かしらぁ??

「お黙りなさい、エリザ。
この際ですので、私の考えを申しましょう。
あなた方の様な薄汚い者たちが、私の大切な弟に近付く事は許しません!
これは、エリザに嫌がらせをした者たち全員への通告ですよ!
この場で知る限りの名を書き出しなさい!」

ドロレスはペンと用紙を持って来させ、共謀者の名を書き出させた。

おおお!流石、悪役令嬢!!手厳しい!!
でも、正直、ざまあ!だけど☆

わたしは感心して見ていたが、書き出された名の中に、ブリジットの名を見つけ、驚愕した。

「ブリジット!?嘘でしょう??彼女はわたしのルームメイトで、友達なのよ??」

多少《難あり》な友人ではあるけど…
だが、まさか嫌がらせの仲間になっていたとは思わなかった。
今朝も、昼休憩でも普通だったのに…
それに、ブリジットが好きなのはユーグの筈だ。
もしかして、エミリアンにも気があるのかしら?

「ルームメイトで友達?世の中、信じられるのは自分だけよ___」

悪役令嬢ドロレスが辛辣に言う。
そんな事言って…あなただって、取り巻き連中を信じているでしょう?
彼女たちが罪をドロレス一人に押し付けるなんて、想像もしていない癖に。
それに…

「エミリアンも信じていないの?」

聞くと、ドロレスはフイと顔を背けた。

素直じゃないな~!
でも、悪役令嬢だもんね、《ドロレス》はこれ位じゃなきゃ!

「今後、エリザに危害を加える事は許しません、彼女を貶す事もです!
エリザは私の弟の友です、もし、約束を違えたら、
この、第三王子の婚約者であり、公爵令嬢ドロレスが黙っていませんからね!」

ドロレスが厳しく言い放つと、女子生徒たちは震え上がり、
「は、はい!承知致しました!!」と言うが早いか、一目散に逃げて行った。

お見事!!

わたしは思わず拍手を送りたくなったが、ドロレスは既に興味を失ったのか、踵を返して歩き出した。
わたしは慌てて後を追った。

「ま、待って!ドロレス様にお話があります!」

「その様な暇はありません、授業に遅れます」

「エミリアンの事よ!」

ドロレスは僅かに眉を顰めた。
だが、歩みを止める事はなく…

「放課後、私の部屋に来なさい、あくまで、話を聞くだけですよ」

《エミリアン》の名を聞いただけで、態度を変えたわ…
やっぱり、ドロレスはエミリアンが大事なのね…

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