【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音

文字の大きさ
上 下
8 / 33

しおりを挟む

女子部棟では、週末に開かれる《新入生歓迎パーティ》の話で持ち切りだ。
新入生はこの日の為に、家から真新しいドレスを持って来ているが、
二年、三年の女子たちは、幾度かパーティを経験している為、どのドレスにするか迷っていた。
いかに美しく見せるか、目立つか…

「あなた、どんなドレスなの?」
「新しく仕立てたの?」
「私は刺繍を入れて貰ったわ!」
「母が髪飾りを送ってくれたの…」

あちらこちらで、意味もなく甲高い声が上がる。
女子部棟全体が、浮かれまくっているが、それも仕方が無いと思って欲しい。
パーティは男子部と合同、つまりは、貴重な《出会いの場》だった。


「新入生歓迎のパーティかぁ、ちょっと、楽しみ!」

わたしは家族以外のパーティに出席した事が無い。
大人向けのパーティは、デビュタントを終えなければ参加出来ないし、
デビュタントは大抵、十八歳の年に行う。
前世などは論外で、ドレスなんて触れる機会は皆無だった。
精々、結婚式で着る位だっただろう。

「お姫様ドレスは、憧れよね~♪」

入学時に家から持たされたドレスは、淡いピンク色で、
ふわふわとフリルやレースが多く、正にお姫様ドレスだった。

「エリザ、お願いがあるんだけど…」

ブリジットが異様に目を輝かせて寄って来た時には、わたしは嫌な予感しかしなかった。

「お願いって?」

ブリジットは「ごくり」と唾を飲み、意を決し、それを口にした。

「私、新入生歓迎のパーティで、ユーグ様にエスコートをして貰いたいの!」

お義兄様に、エスコートを??

「エリザから頼んで貰えない?」

頼む事位は出来るが…ユーグはモテる!
ユーグにエスコートして貰いたいという女子は多い筈だ。
義妹のコネを使ったとなれば、周囲の女子たちは良い気がしないだろう…
面倒になるのは御免だし…

「わたしは手を貸せないわ、だって、一度手を貸したら、他の子の頼みも断れないもの」

「私が一番に頼んだんだから、私以外の子は断ればいいじゃない!」

「そういう訳にはいかないわよ…」

先着一名様!なんて、札を出している訳じゃないし、
上手く断れる自信はない。

「お願いよ、エリザ!私、ユーグ様が好きなのよ!
親友だったら、恋の手助けをしてくれるものでしょう?
もし、手助けしてくれないなら、親友止めるからね!!」

「自分で頼めばいいでしょう?わたしの友達だって知ってるし、優しいから無碍にはしないわよ」

「そんなの出来っこないわよ!
一緒にいるだけで、他の子から目の敵にされるんだから!話し掛けるなんて、絶対に無理!!」

それなら、パーティで一緒にいる事だって無理じゃない??
思わずツッコミそうになったけど、黙っておいた。

「それなら、一度だけ食堂の席を換わってあげるわ、それなら話せるでしょう?」

隣の席であれば、声を掛け易いだろう。
ブリジットも納得したのか、「まぁ、いいわ」と承諾した。

そんな事があり、わたしも「エミリアン様を誘ってみようかな~」と思い始めた。





昼休憩の食堂で、わたしは約束通り、ユーグの隣をブリジットに譲った。
ブリジットは顔を真っ赤にし、端から見ても緊張が伺える程だった。
ジェシーはやはり、不満そうに頬を膨らませていた。

「どうしてぇ?席を換わるなんてぇ…エリザぁ??」

ジェシーが聞いて来るのを、「まぁ、まぁ」と宥め、彼女をブリジットの隣に座らせ、わたしは一番端に座った。
すると、当のユーグが背を伸ばし、物言いたげにこちらを見てきた。
お義兄様!許して!!
わたしは内心でユーグに謝罪し、表向きでは気付かない振りをして、食事を始めた。

ユーグが不機嫌オーラを隠しもせずに食事を進めるので、ブリジットは話し掛けられずにいる様だ。
わたしにはあんなに態度が大きいのに!

その上、ユーグはいつもわたしたちを女子部棟まで送ってくれるが、
この日はレオンとアンジェリーヌと共に先に行ってしまった。
そんなもんだから、ブリジットの機嫌は最悪だった。

「あんなユーグ様に話し掛けるなんて無理よ!
急に席を換わったりしたから、怒ったんだわ…
私が頼んだんじゃないのに!酷い娘だと思われたらどうしよう…
エリザの所為よ!責任取って、ユーグ様に私のエスコート役になるように頼んで!
そうじゃなきゃ、友達止めるから!!」

また始まった。
『友達止める』なんて、伝家の宝刀にはならないんだから!
うんざりしつつも、言い返すとますます拗れそうなので、兎に角、謝る事にした。
わたしはパン!と両掌を合わせ、頭を下げた。

「本当にごめんね!わたしの考えが浅はかでした!
お義兄様に頼む事は出来ないけど、
代わりに、ブリジットがとっても良い子だって事は話しておくから!」

ブリジットは不満そうではあったが、この交換条件が気に入ったのか、怒りを解いてくれた。

「それなら、許してあげるわよ、でも、しっかり伝えてよ」
「勿論よ!任せて!」

わたしは笑顔で親指を立てた。
それに、エスコート役は無理でも、パーティで話す機会位は作ってあげられるだろう。

ブリジットが機嫌よくBクラスの方へ歩いて行くのを見て、安堵の息を吐いたが、
今度はジェシーが不機嫌になっていた。

「ブリジットの言う事なんて、無視すればいいのにぃ!
ブリジットは我儘過ぎるわよぉ!」

その通り!!
大きく頷きたくなったが、それではブリジットとジェシーの仲が最悪になるので止めておいた。
陰口は良く無いしね…

「まぁ、まぁ、ブリジットの気持ちは分かるから…
きっと、本気でお義兄様の事が好きなのよ…」

「だからって、狡いわよ!ユーグ様の隣に座ったり、エリザに仲介を頼むなんて…!」

確かに…
ブリジットは要領が良いのよね…
本人には自覚は無いし、悪い事だとも思っていないだろうけど…
他のユーグ狙いの女子から不興を買っても仕方が無いとも思える。

「嫌な思いをさせてごめんね、ジェシー、あなたの事も良く言っておくから。
明日はお義兄様の隣に座る?」

「隣は止めておくけど…私の事も言ってくれるとうれしいなぁ」

ジェシーが頬を染める。機嫌が直り、わたしは安堵した。

「うん、任せて☆」

有名人を兄に持つと大変なのね…





放課後、図書室を覗くと、奥の席にエミリアンの姿があり、わたしの気持ちは浮き上がった。
エミリアンを目指し、真直ぐに進む。
わたしが向かいの椅子を引いた時、エミリアンがふっと、顔を上げた。
わたしの顔を見て、ニコリと笑う。

「こんにちは、エリザ」

ううう、かわいい~~~!!!
エミリアンの笑顔は、荒んだ心も浄化させるわ!!

「こんにちは、エミリアン!前の席、座ってもいい?」

「うん、エリザが来てくれたらいいなって、思ってたから…」

ううう!うれしい事を言ってくれる!!
歓喜の雄叫びを上げてしまいそう!!
勿論、図書室なので我慢した。

「わたしも!エミリアンが居たらいいなって思ってたの!」

わたしたちは「くすくす」と笑い合った。

わたしたちはすっかり友達の様になっていた。
普段のエミリアンは言葉遣いが丁寧だが、わたしに対しては少し砕けた言葉を使ってくれる。
親密度を表しているみたいで、うれしいのよね~♡

わたしはほわほわとした気持ちで、本を机の上に出して開いた。
ふと、視線を感じ、何気無く振り返ると、図書室の入り口にユーグが立ち、こちらを見ていて、ギクリとした。
こちらに来て、エミリアンに余計な事を言うのではないかと、警戒したが、
意外にも、ユーグは何も言わずに出て行った。

目が合ったと思ったのに…

声も掛けずに行ってしまうなんて、ユーグらしくない。
それが、わたしを不安にさせる。

きっと、気を利かせてくれたのよ!

わたしは自分に言い聞かせた。

「エリザ?どうしたの?」

エミリアンが伺うように見ているのに気付き、わたしは「ううん!」と笑顔を返した。

「週末に新入生歓迎のパーティがあるでしょう?
エミリアンは誰かと一緒に行くの?」

エミリアンは銀色の髪を振った。

「僕は人が多い所は苦手で…それに、直ぐに体調が悪くなるから…」

「もしかして、行かないつもりだった?」

エミリアンがコクリと頷く。
こんな風に言われると、無理に誘うのも悪いけど…

「少しだけ、出てみない?
わたし、あなたにエスコート役になって欲しくて…駄目かな?」

「エスコート役?僕が?」

紫色の瞳が大きく見開かれた。

「エリザは、僕なんかでいいの?」

「あなたがいいの!あなたと一緒にパーティに行きたい!」

「うん、僕もエリザと一緒なら、パーティに行きたいな」

「本当!?うれしい!!」

「え、エリザ、しーっ」

わたしは思わず声を上げてしまい、慌てて手で口を覆った。
わたしとエミリアンは顔を合わせて、肩を震わせた。

「でも、体調が悪くなるかも…」

エミリアンは不安そうだ。
周囲に奇異な目で見られると嫌だろうし、迷惑を掛けたくないのだろう。
わたしはそれを察し、胸をポンと叩いた。

「わたしが付いているから大丈夫よ、何かあれば、わたしが上手く連れ出してあげる!」

「うん、ありがとう、エリザ」

エミリアンの笑顔に、わたしは天にも昇る思いだった。

ああ!歓迎パーティが楽しみ!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

悪令嬢ブートキャンプ

クリム
恋愛
 国王に見染められた悪令嬢ジョゼフィーヌは、白豚と揶揄された王太子との結婚式の最中に前世の記憶を取り戻す。前世ダイエットトレーナーだったジョゼは王太子をあの手この手で美しく変貌させていく。  ちょっと気弱な性格の白豚王太子と氷の美貌悪令嬢ジョゼの初めからいちゃらぶダイエット作戦です。習作ということで、あまり叩かないでください泣

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

天才第二王子は引きこもりたい 【穀潰士】の無自覚無双

柊彼方
ファンタジー
「この穀潰しが!」 アストリア国の第二王子『ニート』は十年以上王城に引きこもっており、国民からは『穀潰しの第二王子』と呼ばれていた。 ニート自身その罵倒を受け入れていたのだ。さらには穀潰士などと言う空想上の職業に憧れを抱いていた。 だが、ある日突然、国王である父親によってニートは強制的に学園に通わされることになる。 しかし誰も知らなかった。ニートが実は『天才』であるということを。 今まで引きこもっていたことで隠されていたニートの化け物じみた実力が次々と明らかになる。 学院で起こされた波は徐々に広がりを見せ、それは国を覆うほどのものとなるのだった。 その後、ニートが学生ライフを送りながらいろいろな事件に巻き込まれるのだが…… 「家族を守る。それが俺の穀潰士としての使命だ」 これは、穀潰しの第二王子と蔑まれていたニートが、いつの日か『穀潰士の第二王子』と賞賛されるような、そんな物語。

世界を救う予定の勇者様がモブの私に執着してくる

菱田もな
恋愛
小さな村の小さな道具屋で働くイリア。モブの村娘として、平凡な毎日を送っていたけれど、ある日突然世界を救う予定の勇者様が絡んできて…?

【完結】破滅エンド回避したはずなのに、冷酷公爵が「君以外いらない」と迫ってきます

21時完結
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、エリス・ヴァレンティーヌに転生した私。 このままだと、婚約者である公爵との婚約が破棄され、国外追放……最悪、処刑エンド!? そんなの絶対にイヤ!! 前世の記憶を頼りに、地道に努力を重ねた私は、ついに破滅フラグを完全回避! 公爵との婚約も無事に解消し、自由の身になった……はずなのに—— 「どこへ行こうとしているの?」 「君を手放すつもりはない。俺には、君以外いらない」 冷酷と名高い元婚約者、カイゼル・ディアス公爵がなぜか執着モードに突入!? 「私はもう、公爵様とは関係のない立場のはずです!」 「それは君の勘違いだ。俺は一度も、お前を手放すとは言っていない」 どうして!? 破滅フラグは回避したはずなのに、むしろ悪化してるんですけど!? 逃げようとすれば、甘く囁いて絡め取られ、冷徹だったはずの彼が、なぜか私にだけ激甘で溺愛モード!?

処理中です...