4 / 33
4
しおりを挟む「会わない内に、随分逞しく成長したな、エリザ」
小さな嘆息と共に言われ、わたしは元々膨らんでいる頬を、更に膨らませた。
「お義兄様、その褒め言葉は、女性に対しては失礼ですから!」
確かに、身長が少し伸びて、横にかなり成長したけど!
「ああ、悪い、そんなつもりで言ったんじゃないよ。
以前のおまえは、内気で人を助けたり出来なかっただろう?
いつも、俺の背に隠れていた。
優しくて繊細で、外に出たら萎れて枯れてしまうんじゃないかと思っていたよ…」
ユーグの碧色の瞳には、《愛》が見えた。
《兄妹愛》だと分かっているけど…やっぱり、どきっとしてしまうわ。
これは、エリザ=デュランドに生まれた宿命かしら?
義兄にときめくようになっているの??
うう…不毛過ぎて嫌だわ…
「わ、わたしだって、十五歳です!いつまでも、深窓の令嬢ではいられないわ!」
わたしは妙な雰囲気を払うべく、強気で言った。
ユーグは寂しそうな目で、小さく笑った。
「ああ、そうだな…だが、少し化粧が濃いんじゃないか?
以前は化粧をするのは嫌だと言っていただろう?」
エリザは特別美人という訳ではない。
その上、傍にこんな超絶美形がいれば、自分の容姿に自信が持てなくなって当然だ。
「わたしなんて…化粧をしても笑われるだけ…」なんて、卑屈に思ったものだ。
勿論、当人を前に、そんな事は言えないけど…
「化粧を嫌がったのは十歳の頃でしょう?十歳は子供だもの、わたしは十五歳よ?
もっと、可愛く綺麗になりたいの!」
わたしは「うふふふ」と笑い、くるくると回った。
勿論、この巨体なので、直ぐによろけてしまったが、すかさずユーグが支えてくれた。
この肉の塊を簡単に支えられるなんて、やっぱりユーグは頼りになるわ…
「おまえは十分に可愛いし、綺麗だよ」
!!??
真顔で言われ、頬がカッと赤くなった。
こ、この、真正のシスコンめっ!!!
これでは《エリザ》が義兄に恋心を抱くのも、仕方がないのではないか??
いや、至極当然だろう。
つまり、元凶は義兄の方だ!!
わたしは胸の中でそう決定付けると、ユーグから離れ、素っ気なく返した。
「お義兄様は身内だからそういうのよ」
欲目ってヤツね!
義兄の言う事など、ノーカウントだ。
「まさか、好きな男でもいるのか?」
わたしの頭に浮かんだのは、《エミリアン》だった。
まだ出会ってもいないけど…
「変な男じゃないだろうな?
おまえみたいな世間知らずの令嬢を騙す事など、造作もないだろう…
誰か言ってみなさい、どんな奴か俺が判断してやる」
騙される前提で話さないで欲しいわ。
それに、わたしは深窓の令嬢でも、世間知らずでもないもの!
前世…女子高生だけども…の記憶を持つ、ハイパー令嬢よ!
オレオレ詐欺を撃退した事だってあるんだから!
悪い男なんて、手玉に取ってやるわ!おーほほほ!
「わたしを信じて、お義兄様!
わたしが選ぶんだもの、相手は最高の人よ!!」
わたしはユーグの胸をポン!と叩き、踵を返した。
このまま図書室に行きたかったけど、ユーグが付いて来そうなので、今日の所は諦め、寮に帰る事にした。
思った通り、ユーグは「寮まで送る」と言って聞かず、強引に付いて来たのだった。
全く、困ったシスコンね!!
◇◇
わたしが『好きな人がいる』と匂わせた所為なのか、ユーグのシスコン具合は悪化してしまった様だ。
朝、寮を出た所で、ユーグが立っているのに気付いた。
「お義兄様!?どうなさったの!?」
わたしは勿論驚いたが、一緒に登校しているジェシーとブリジットなど、「きゃー!!」と黄色い声を上げた位だ。
「行先は同じなんだ、一緒に行ってもいいだろう?」
「でも、ジェシーとブリジットがいるし…」
三学年上の男子生徒が一緒では、気を遣うに決まっている。
だが、ジェシーとブリジットはわたしの腕にしがみ付き、高い声でわたしの言葉を遮った。
「はい!是非、ご一緒に!」
「ユーグ様のお噂は、エリゼから聞いています!私たち、エリザのルームメイトなんです!」
「ルームメイトか、いつもエリザがお世話になっているね、仲良くしてくれてありがとう」
ユーグは愛想の良い方ではないが、礼儀正しく、外面が良い。
殊更優しい表情で、優しく言うので、二人の脳内は爆発した様だ。
「きゃーーー!!」
「やだ、どうしようーー!!」
どうもしなくていいわよ。
わたしは嘆息し、三人を置いて歩き出した。
「エリザ、怒ったのか?俺がいると邪魔か?俺にいて欲しくないのか?」
怒ってはいないけど、邪魔ではある。
だけど、それを言うと、きっとユーグは傷付いてしまうから…
「そんな、殊勝に見せても駄目よ!お義兄様の魂胆なんて、お見通しだもの!
どうせ、わたしの片想いの相手を探りたいのでしょう?」
「片想いか…」
ユーグは安堵の息を吐いたが、直ぐに顔を顰めた。
「どうして片想いなんだ?相手が受け入れないのか?
どんな理由で、おまえを受け入れないというんだ?
おまえ程可愛い娘はいないというのに…
おまえを振る様なら、その男は見る目がない!今の内に諦めるんだ、エリザ」
真剣な顔で何を言っているんだか…
恐るべし、シスコン男…
「お義兄様、例え兄妹であっても、恋愛に口出しをするものではなくてよ?」
「ああ、だが、俺はおまえが心配なんだ…」
「分かっています、心配して頂けてうれしいわ。
でも、わたしをもっと信用して下さい、わたしは、あなたの妹よ!」
わたしはユーグの逞しい肩をポン!と叩き、笑って見せた。
◇
朝にしっかり言ったつもりだったが、然程効果は無かった様だ。
昼休憩になり、わたしはジェシーと一緒に、食堂へ向かった。
トレイを手に、栄養を考えて料理を乗せていく。
サンドイッチ用のバケットを一つと、サラダ、卵のフィリング、カットされた果実。
わたしに限らず、女子生徒は体型に気を遣っている者が多く、果実だけなんて女子も珍しくない。
ジェシーも丸パン一つとサラダ、果実だけだ。
「エリザ、何処に座る?」
「ええと、席は…」
わたしはさり気なくエミリアンがいないかと、周囲を伺った。
エミリアンは繊細で物静かだ、病弱なので直ぐに疲れてしまう事も考慮して…
トレイを返す事を考えれば、カウンター近くの隅の方にいる筈…
目を凝らしていると、カウンター近く、奥のテーブルに独りでいる姿を見つけた。
居たわ!!エミリアン様!!
直ぐに分かったのは、彼が銀色の髪をしているからだ。
銀髪は珍しいもの!
わたしはトレイをギュっと握り、そちらに向かおうとした。
だが、それを許さなかったのは…
「エリザ、席なら空いている、こっちだ!」
ユーグがわざわざ呼びに来て、わたしを促した。
ええ…
テーブルから呼ばれたのであれば、聞こえなかった振りも出来るが、
押し掛けて来て、上から威圧しているのだから、無視するのは無理だ。
ユーグは、微妙に引き攣るわたしの笑みに気付かないらしく、
「ジェシーだったね、お友達も一緒においで」と、愛想良くジェシーを誘い、仲間に付けた。
「エリザ、行こうよ~」
ジェシーの顔は輝き、その声は弾んでいる。
ジェシーが喜んでいるなら仕方が無い…今日の所は義兄の顔を立てて上げよう。
わたしは内心で嘆息し、ユーグに従ったのだった。
ユーグのテーブルにはレオンとアンジェリーヌの姿もあり、わたしの笑みは更に引き攣った。
アンジェリーヌはわたしたちの事など興味ないのか、料理を食べる手を止めない。
アンジェリーヌは平民だが、食べ方は上品で、マナーは身に付いている様だ。
流石、異国の御姫様ね!
レオンはわたしを見ると、食事の手を止め、愛想の良い笑みを見せた。
「エリザ、昨日は失礼したな、あの後、アンジェリーヌから話を聞いた。
アンジェリーヌに声を掛けてくれて感謝する。誤解し、責めた事を許せよ」
第三王子に向かって、『許さない』など言う者はいない。
故に、彼から緊張感は見えない。
「勿体ない御言葉です、レオン様」
「そうかしこまる必要は無い、おまえは我が親友の義妹だからな、
俺にとっても妹の様なものだ」
「勝手におまえの妹にするな」
ユーグがすかさずツッコミを入れ、レオンの隣に座った。
ユーグの体でレオンの姿は見えなくなったが、その楽しそうな笑い声はしっかりと届いた。
「常に冷静沈着で他人に執着しないおまえが、これ程入れ込むのだからな、
興味を持つなという方が無理だ!」
ユーグは「はー」とあからさまに嘆息して見せた。
「エリザってば、ユーグ様だけでなく、レオン様とも親しいなんて…凄いわぁ」
ジェシーが小声で言って来るのに苦笑して返し、「いただきます!」と手を合わせた。
143
あなたにおすすめの小説
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
【完結】大変申し訳ありませんが、うちのお嬢様に貴方は不釣り合いのようです。
リラ
恋愛
婚約破棄から始まる、有能執事の溺愛…いや、過保護?
お嬢様を絶対守るマンが本気を出したらすごいんです。
ミリアス帝国首都の一等地に屋敷を構える資産家のコルチエット伯爵家で執事として勤めているロバートは、あらゆる事を完璧にこなす有能な執事だ。
そんな彼が生涯を捧げてでも大切に守ろうと誓った伯爵家のご令嬢エミリー・コルチエットがある日、婚約者に一方的に婚約破棄を告げられる事件が起こる。
その事実を知ったロバートは……この執事を怒らせたら怖いぞ!
後に後悔しエミリーとの復縁を望む元婚約者や、彼女に恋心を抱く男達を前に、お嬢様の婿に相応しいか見極めるロバートだったが…?
果たして、ロバートに認められるようなエミリーお嬢様のお婿候補は現れるのだろうか!?
【物語補足情報】
世界観:貴族社会はあるものの、財を成した平民が貴族位を買い新興貴族(ブルジョア)として活躍している時代。
由緒正しい貴族の力は弱まりつつあり、借金を抱える高位貴族も増えていった。
コルチエット家:帝国一の大商会を持つ一族。元々平民だが、エミリーの祖父の代に伯爵位を買い貴族となった資産家。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる