【完結】愛は封印?厄介払いの聖女は異国に輿入れさせられる

白雨 音

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おまけ

顛末

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◇◇ 十年後 ◇◇


「王様!またもやファストーヴィ王国からの書状が届いております…」

「フン、どうせ、いつもと同じ事であろう」

王は鼻で笑った。

十年前、聖女が身籠った子を暗殺する様、ファストーヴィ王国から密偵が送られてきた。
事なきを得て、密偵を捕らえる事に成功した。
その密偵の証言を持って、ファストーヴィ王国から賠償として、
交易条件を見直させ、我が国に有益なものにした。
それで、件は片付いたのだが…
ファストーヴィ王国の方では、そこからが大変だった。

聖女の子を暗殺しようとしたと他国が知れば、信用を落とす事になる為、
大司教に全ての罪を負わせ、称号の剥奪、王都追放にした。
その途端、聖女アンジェリーヌが、実は聖女の力を失っていた事が発覚した。
今までは大司教がその事実を隠蔽していたが、新しく就いた大司教は厳しい人で、
不正を許さなかったのだ。

聖女アンジェリーヌは聖女職から降ろされたものの、
第三王子クレマンの妃だったので、「自分は安泰だ」と高を括っていた。
だが、王室に密告があった。

『聖女アンジェリーヌとクレマン様の讒言により、力ある聖女が貶められ、異国に渡す事になった』

王室は二人を厳しく問い詰めた結果、クレマンが「アンジェリーヌから聞いた」と白状した。
アンジェリーヌは認めなかったが、神殿の中でも、
アンジェリーヌがセリーヌを邪険にしていた事は有名で、アンジェリーヌを信じる者は少なかった。

遂には、国中に『聖女アンジェリーヌは、聖業を怠った為に、二十歳という若さで力を失った』
『聖女アンジェリーヌと第三王子クレマンが企み、大聖女様を追い出した』等々、
悪評が広まり、アンジェリーヌとクレマンは辺境の地に追放となった。
二人には子が出来ず、夫婦仲は破綻していたが、王室からの援助で暮らしている為、
別れる事も出来ずにいる。

ファストーヴィ王国の聖女バルバラは三十歳で力を失い、聖女職を退いた。
全ては若き聖女ジャネットの肩に掛かっていたが、ジャネットはいつまでも力が弱く、
王都の結界を張っただけで、半年は力が使えなくなる。
実質、現在、ファストーヴィ王国には聖女がいなかった。

国の瘴気は晴れず、土地は痩せていき、実りも年々少なくなっている。
食糧が乏しい地域では暴動が起き、それにより、更に土地は枯れ、
瘴気が蔓延り、獣たちは畑を荒らす…悪循環に嵌っていくのだった。

その為、ファストーヴィ王国から定期的に、『聖女を交換しろ』と書状が来ていた。


「___元々、聖女セリーヌは我が国の聖女なのだから、戻って務めを果たされよ。
従わぬ時は、聖女奪還を掲げ、攻め入る事も止むを得ない___とあります、
王様、いかがなさいますか?」

噂では、ファストーヴィ王国は、これまでの豊さとは無縁で、国中が殺伐としているらしい。
十年ともなれば、ファストーヴィ王国も相当、追い詰められているらしいな…

一方、聖女セリーヌの働きにより、ブラーヴベール王国は見違える程豊かな国になっていた。
元々、金山、宝石鉱山を所有しているが、浄化の効果なのか、
各地で新たな金山、宝石鉱山がみつかっている。

土地は肥え、寒冷地特有の食物が豊富に出来た。
今や、アップルパイは家庭に浸透し、誰もが気軽に口に出来る様になった。
国中で愛される菓子の定番だ。
牛や羊、ヤギは肥え、質の良いミルクを出し、それは質の良いバターやチーズとなった。
肉も素晴らしく美味しいと評判だ。
他国との交易でも高値で売買され、それにより、ブラーヴベール王国で手に入れられない物も、
安価で手に入り、十分に行き渡るのだった。

碌に食べる物もなく、国中が暗澹としていた頃が、嘘の様だ___

十年といえば、聖女セリーヌも三十歳だ。
だが、彼女の力は未だ、衰えていない、その気配も無い。
聖女は出産率が低いといっていたが、セリーヌは今年二人目を懐妊した…

これは、一体、どういう事か…
全ては神の計らいか?

王は思いを馳せながら、返事を待つ側近に告げた。

「聖女奪還だと!笑わせてくれる!聖女セリーヌは我が国の聖女だ、交易条件に記しておる。
返事はこうだ、勝手を言うな!聖女は物ではないのだぞ!
それに、愛する者を手放す愚か者は、この国にはおらん!
聖女のいない国など珍しくもない、今まで聖女の力に胡坐を掻いてきた報いであろう、自分たちでなんとかしろ。
それでも攻め入るというなら、いつでも相手になってやる___」

ブラーヴベール王国は、元々高い軍事力を誇っている。
ファストーヴィ王国の相応の軍事力は持っているが、実践経験は乏しい。
実際に剣を合わせれば、相手にならないのは火を見るよりも明らかだった。

側近も顔色一つ変えず、「承知致しました」と下がった。
それと入れ替わりに、銀髪の少年が緑色の瞳をキラキラとさせ、元気よく駆けて来た。

「おじいちゃん!」

瞬間、王の相好は崩れた。

「おお!よく来たな、可愛いジョゼフ!」

王は両手を広げて少年を迎えた。
少年は躊躇いもせずに、王の懐に飛び込んだ。

「また、大きくなったか?」

王は少年を膝に抱き上げた。
少年はふっくらとした頬を膨らませた。

「もー、先週も会ったでしょ!」

「ははは!そうだったな!」

王は笑ったが、少年が急にしんとしたので、「どうしたのだ?」と覗き込んだ。
陽気な少年が、珍しく悲しそうな顔をしている。
緑色の目は涙で潤んでいるようだ…

「僕は、聖女になれないんだって、男だから…妹が生まれたら、追い出されるの?」

「馬鹿を言うな!おまえを追い出すやつは、おじいちゃんが許さんからな!
安心しろ、聖女など、おまえが結婚すれば相手が産んでくれる。
それに、おまえは、私の愛する大事な孫だ___」

王の言葉に、少年は笑顔になった。

「おじいちゃん、大好き!」


扉から入って来た少年の父と母は、二人の姿に足を止めた。
そして、互いに寄り添い、微笑みを交わした。


《完》
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