26 / 28
26
しおりを挟む黒い髪が眼に当たるのだろうか、手の甲でしきりに眼を擦る様子が、 起きている時と違って幼い子供のような仕草で、エリザベスは思わず微笑み、アークの前髪をそっと眼の上から払った。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
22
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる