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14 /オーギュスト
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パーティが終わり、わたしはオーギュストに連れられ、会場を後にした。
人気の無い静かな回廊を行きながら、ふと、彼が聞いた。
「セリーヌ、元気が無い様だが、何かあったのか?」
わたしは内心でギクリとしつつ、「いえ、何も…」と誤魔化したのだが、
彼は信じていない様で続けた。
「何か言われたか?気にする事はない、何かしら言いたがるものだ」
彼はまるで承知しているかの様に言う。
オーギュストは《側室の子》だ。
その事で、これまで色々言われてきたのだろうか?
気になりながらも、わたしたちの関係でそれを正面から聞く事は憚られた。
「…気にしたくはありませんが、気になるものです。
努力しても解決出来ない事もあります…
例えば、オーギュスト様なら、どうなさいますか?」
わたしは神経を集中させ、それとなく伺った。
「心の内は読ませない様にして、頭の中で奴等を八つ裂きにする」
思わぬ過激さに、わたしは目を見開いて彼を見てしまった。
その横顔は、先の言葉が幻聴だったのではと思える程、平然としていた。
だが、彼の口からは物騒な言葉が続いた。
「私の頭の中には、沢山墓がある」
「蘇ってきませんか?」
「また八つ裂きにして埋める、そうしていれば、いつか忘れる。
だが、おまえは聖女だ、私の真似はするな」
一線を引かれた気がした。
確かに、真似は出来そうにないけど…
「それでは、楽しい事を考えます」
「ああ、それがいい」
「初めてのダンス」
わたしが挙げると、驚いた様な目が返ってきた。
漸くこちらを見た彼に、わたしは小さく笑みを零した。
「楽しいと思っていたのか?」
「あなたの足を何回踏んだか、思い出していると時間を忘れます」
「五回だ」
「覚えているなんて、酷いわ!」
「君は実に複雑な生き物だな」
オーギュストが嘆息し、長めの銀髪を掻き上げた。
わたしはこっそりと笑う。
心の中の暗い靄は、いつの間にか晴れていた。
彼の心も明るくしてあげられたらいい…
後付けでも何でもいい。
わたしの事、好きになってくれたらいいな…
◇◇ オーギュスト ◇◇
結婚式でのセリーヌは酷く緊張していた。
上から下まで真白い衣を纏った彼女は、ずっと俯いたまま顔を上げなかった。
誓いの言葉では、「はい」と答えるだけにも関わらず、それは細く震えていた。
指輪の交換の時も顔を上げなかった。
差し出された細い手は小刻みに震えていて、指輪を嵌めるのを拒んでいる様だった。
顔を上げたのは、誓いのキスの時だ。
酷く怯え、顔色を失っていた。
綺麗な淡い緑色の目は潤み、今にも泣き叫びそうだった。
オーギュストは内心で誰かを罵りつつ、その唇を奪った。
小さな唇は、意外にも柔らかかった。
こんなキスは、いつぶりだろうか…
オーギュストは無意識にそれを味わっていた。
唇を離した時、罪悪感があったが、それは直ぐに消えた。
セリーヌの顔から、怯えや恐怖が消えていたからだ。
相手が私だと知らされていなかったのだろう。
私だから、安心したのか?
私が相手でも良いのか?
信頼されていると思えばうれしいが、変な期待をさせてもいけない…
「き、騎士団長様は、この事を知っていらしたのですか?」
礼拝堂を出て、セリーヌからそう聞かれた時、オーギュストは《今》だと思った。
「打診はあったが、断るつもりでいた」
「どうして、受けられたのですか?」
「君があまりに子供だったからだ」
その一言に尽きるだろう。
気の毒に思い、助けてやりたかった。
女子供、か弱い者を見れば、誰もがそう思うだろう。
増して、オーギュストは騎士団精神を持つ、《騎士団長》なのだ___
オーギュストは自分の計画を話した。
「このまま結婚させては気の毒過ぎる、今の君では自暴自棄になる恐れもある。
私は君に暫く猶予を与えるべきだと考えた。
王の事だ、一年も子が出来なければ、離縁しろと言って来るだろう。
一年で心の準備をしろ、そして、気に入る相手をみつけろ、後は私が上手くやってやる」
セリーヌは安心し、喜ぶだろうと思った。
だが、恐ろしく重い沈黙を感じた。
何か気に入らない事があるのか?
自分は何かを見落としただろうか?
少し頭を巡らせたが、今はそんな場合でもなく、話を切り上げる事にした。
「ああ、言っておくが、この事は他言無用だ」
「はい、承知致しました…騎士団長様、ご配慮下さり、ありがとうございます…」
オーギュストはその言葉に満足し、頷いた。
◇◇
セリーヌにまた泣かれては困る___
オーギュストは懸念していたが、意外にも、セリーヌは楽しく過ごしている様だ。
オーギュストはこれから聖女を連れ、国中を周る為、その計画や準備で忙しく、
セリーヌとの生活の為に与えられた宮殿に居る時間は短かった。
朝は早朝に起き、身支度をして直ぐに王城に向かう。
帰って来るのは、晩餐の時間だった。
その間、セリーヌが何をして過ごしているのかと言えば…
ブラーヴベール王国の資料を集め、勉強をしている。
これは今後の仕事の上でも大事な事なので、オーギュストも進んで協力している。
後は、ピアノを弾いたり、讃美歌を歌ったり、編み物や刺繍…
披露パーティの後からは、メラニーとナタリーを相手にダンスの練習もしているらしい。
「まるで、令嬢だな…」
尤も、令嬢は、讃美歌は歌わないか…
そんな事を考えていると、メラニーとナタリーが怖い顔で迫ってきた。
「騎士団長様は何も知らない事にしていて下さいね!
あたしたちが話したと知れば、聖女様から信頼を失います!」
密偵なので、対象物の報告をするのは当然なのだが、
どうやら二人は自分たちが《密偵》と知られる事を恐れているらしい。
随分、セリーヌを気に入っているらしい。
「ああ、分かっている、だが、これは仕事だ、あまりセリーヌに入れ込むな」
「それが難しくて…やはり、聖女様ですから、向き合っていると、
自分が何か悪い事をしている気分にさせられるんです…」
「素直で純粋ですし、全く疑ってもいませんし、聖女様を傷つけたくないんです…」
「全く、密偵の言葉ではないな」
オーギュストは呆れ、嘆息した。
だが、メラニーとナタリーは気に入らなかったのか、睨んできた。
「そういう、騎士団長様だって!聖女様に随分優しいじゃありませんか!」
「《女嫌い》で有名な騎士団長様が、パーティでは聖女様の側から離れず、
お姫様抱っこをされたとか!」
「聖女様を誘いに来た男たちを、一睨みで追い払ったとか!」
「氷壁の騎士団長様も、結婚すれば氷が解けると、皆申しておりますよ!」
オーギュストは眉を顰めた。
「誤解をするな、パーティでの事は、あの世間知らずの聖女が、
何かしでかしはしないかと見張っていただけだ。
踊った事が無い、踊れないというから、転んだのを良い事に運び出しただけだ。
ダンスに誘われたら困るだろうから、追い払ったまで___
結婚しようが、私は一ミリも変わっていない。
報告が終わったのなら、仕事に戻れ」
メラニーとナタリーは「承知致しました」と頭を下げ、部屋を出て行った。
オーギュストは独りになり、「はー」と重い息を吐いた。
「何を、ムキになっているんだ…」
自分に呆れ、長めの銀髪を掻き上げる。
「聖女か…」
確かに、調子を崩される。
結婚したから変わったのではない、あの聖女の前では、自分を保てないだけだ。
つい、引き込まれる。
普段は慎ましく、繊細な娘にしか見えないというのに…
聖女の力だろうか?
「俺は別に女嫌いじゃない」
オーギュストは自身の出生の事から、男に媚び諂う母親の様な女性を嫌っていた。
そして、女性と深い関係になるのを避けた。
それがいつしか、《女嫌い》と言われる様になったのだが、
それはそれで都合が良かったので、訂正した事は無かった。
「それに、アレは女というより、子供じゃないか___」
十分な広さがあるとはいえ、男と一緒にベッドを使っているというのに、
平気な顔をして寝ている。
二十歳といえば《大人》だが、《聖女》だからなのか、世間知らずで、
周囲の強かな女性たちとは全く違う。
それを、オーギュストは《子供》と結論付けていた。
「パーティといえば、ファストーヴィ王国の話を聞いたな…」
セリーヌが国を出た直ぐ後、第三王子クレマンと聖女アンジェリーヌが結婚した。
他国の要人たちが招待され、盛大に披露パーティが行われたらしい。
交易を結んだというのに、ブラーヴベール王国の者は誰も招待されていない。
「これはどういう事なのか…」
上層部は勿論、この事に疑念を抱いた。
「聖女アンジェリーヌは、国で一番力のある聖女と言っていたな…」
アンジェリーヌの結婚と、セリーヌを政略結婚させた事に繋がりはあるのか?
「セリーヌが邪魔になったのか?」
年齢的なものだろうか?
セリーヌを結婚させなければ、アンジェリーヌが結婚出来ない?
だが、ただ結婚させるだけならば、国の誰かで良い筈だ。
「セリーヌとアンジェリーヌの仲が悪ければ…」
派閥が出来れば、内紛の恐れもある。
国は力ある聖女を残し、反乱分子の恐れのある聖女を遠避けようと?
だが、あれ程力ある聖女を見す見す、他国にやるだろうか?
交換条件は有益なものだろうが…
「それに、セリーヌならば、相手に合わせるだろう」
セリーヌの気質は、優しく、我慢強く、従順だ。
「時にはっきりと物を言うがな…」
オーギュストの頭にそれが浮かび、思わず苦笑していた。
だが、オーギュストの頭の中で、増々糸が絡まった事は確かだ。
「一体、何があったのか…」
人気の無い静かな回廊を行きながら、ふと、彼が聞いた。
「セリーヌ、元気が無い様だが、何かあったのか?」
わたしは内心でギクリとしつつ、「いえ、何も…」と誤魔化したのだが、
彼は信じていない様で続けた。
「何か言われたか?気にする事はない、何かしら言いたがるものだ」
彼はまるで承知しているかの様に言う。
オーギュストは《側室の子》だ。
その事で、これまで色々言われてきたのだろうか?
気になりながらも、わたしたちの関係でそれを正面から聞く事は憚られた。
「…気にしたくはありませんが、気になるものです。
努力しても解決出来ない事もあります…
例えば、オーギュスト様なら、どうなさいますか?」
わたしは神経を集中させ、それとなく伺った。
「心の内は読ませない様にして、頭の中で奴等を八つ裂きにする」
思わぬ過激さに、わたしは目を見開いて彼を見てしまった。
その横顔は、先の言葉が幻聴だったのではと思える程、平然としていた。
だが、彼の口からは物騒な言葉が続いた。
「私の頭の中には、沢山墓がある」
「蘇ってきませんか?」
「また八つ裂きにして埋める、そうしていれば、いつか忘れる。
だが、おまえは聖女だ、私の真似はするな」
一線を引かれた気がした。
確かに、真似は出来そうにないけど…
「それでは、楽しい事を考えます」
「ああ、それがいい」
「初めてのダンス」
わたしが挙げると、驚いた様な目が返ってきた。
漸くこちらを見た彼に、わたしは小さく笑みを零した。
「楽しいと思っていたのか?」
「あなたの足を何回踏んだか、思い出していると時間を忘れます」
「五回だ」
「覚えているなんて、酷いわ!」
「君は実に複雑な生き物だな」
オーギュストが嘆息し、長めの銀髪を掻き上げた。
わたしはこっそりと笑う。
心の中の暗い靄は、いつの間にか晴れていた。
彼の心も明るくしてあげられたらいい…
後付けでも何でもいい。
わたしの事、好きになってくれたらいいな…
◇◇ オーギュスト ◇◇
結婚式でのセリーヌは酷く緊張していた。
上から下まで真白い衣を纏った彼女は、ずっと俯いたまま顔を上げなかった。
誓いの言葉では、「はい」と答えるだけにも関わらず、それは細く震えていた。
指輪の交換の時も顔を上げなかった。
差し出された細い手は小刻みに震えていて、指輪を嵌めるのを拒んでいる様だった。
顔を上げたのは、誓いのキスの時だ。
酷く怯え、顔色を失っていた。
綺麗な淡い緑色の目は潤み、今にも泣き叫びそうだった。
オーギュストは内心で誰かを罵りつつ、その唇を奪った。
小さな唇は、意外にも柔らかかった。
こんなキスは、いつぶりだろうか…
オーギュストは無意識にそれを味わっていた。
唇を離した時、罪悪感があったが、それは直ぐに消えた。
セリーヌの顔から、怯えや恐怖が消えていたからだ。
相手が私だと知らされていなかったのだろう。
私だから、安心したのか?
私が相手でも良いのか?
信頼されていると思えばうれしいが、変な期待をさせてもいけない…
「き、騎士団長様は、この事を知っていらしたのですか?」
礼拝堂を出て、セリーヌからそう聞かれた時、オーギュストは《今》だと思った。
「打診はあったが、断るつもりでいた」
「どうして、受けられたのですか?」
「君があまりに子供だったからだ」
その一言に尽きるだろう。
気の毒に思い、助けてやりたかった。
女子供、か弱い者を見れば、誰もがそう思うだろう。
増して、オーギュストは騎士団精神を持つ、《騎士団長》なのだ___
オーギュストは自分の計画を話した。
「このまま結婚させては気の毒過ぎる、今の君では自暴自棄になる恐れもある。
私は君に暫く猶予を与えるべきだと考えた。
王の事だ、一年も子が出来なければ、離縁しろと言って来るだろう。
一年で心の準備をしろ、そして、気に入る相手をみつけろ、後は私が上手くやってやる」
セリーヌは安心し、喜ぶだろうと思った。
だが、恐ろしく重い沈黙を感じた。
何か気に入らない事があるのか?
自分は何かを見落としただろうか?
少し頭を巡らせたが、今はそんな場合でもなく、話を切り上げる事にした。
「ああ、言っておくが、この事は他言無用だ」
「はい、承知致しました…騎士団長様、ご配慮下さり、ありがとうございます…」
オーギュストはその言葉に満足し、頷いた。
◇◇
セリーヌにまた泣かれては困る___
オーギュストは懸念していたが、意外にも、セリーヌは楽しく過ごしている様だ。
オーギュストはこれから聖女を連れ、国中を周る為、その計画や準備で忙しく、
セリーヌとの生活の為に与えられた宮殿に居る時間は短かった。
朝は早朝に起き、身支度をして直ぐに王城に向かう。
帰って来るのは、晩餐の時間だった。
その間、セリーヌが何をして過ごしているのかと言えば…
ブラーヴベール王国の資料を集め、勉強をしている。
これは今後の仕事の上でも大事な事なので、オーギュストも進んで協力している。
後は、ピアノを弾いたり、讃美歌を歌ったり、編み物や刺繍…
披露パーティの後からは、メラニーとナタリーを相手にダンスの練習もしているらしい。
「まるで、令嬢だな…」
尤も、令嬢は、讃美歌は歌わないか…
そんな事を考えていると、メラニーとナタリーが怖い顔で迫ってきた。
「騎士団長様は何も知らない事にしていて下さいね!
あたしたちが話したと知れば、聖女様から信頼を失います!」
密偵なので、対象物の報告をするのは当然なのだが、
どうやら二人は自分たちが《密偵》と知られる事を恐れているらしい。
随分、セリーヌを気に入っているらしい。
「ああ、分かっている、だが、これは仕事だ、あまりセリーヌに入れ込むな」
「それが難しくて…やはり、聖女様ですから、向き合っていると、
自分が何か悪い事をしている気分にさせられるんです…」
「素直で純粋ですし、全く疑ってもいませんし、聖女様を傷つけたくないんです…」
「全く、密偵の言葉ではないな」
オーギュストは呆れ、嘆息した。
だが、メラニーとナタリーは気に入らなかったのか、睨んできた。
「そういう、騎士団長様だって!聖女様に随分優しいじゃありませんか!」
「《女嫌い》で有名な騎士団長様が、パーティでは聖女様の側から離れず、
お姫様抱っこをされたとか!」
「聖女様を誘いに来た男たちを、一睨みで追い払ったとか!」
「氷壁の騎士団長様も、結婚すれば氷が解けると、皆申しておりますよ!」
オーギュストは眉を顰めた。
「誤解をするな、パーティでの事は、あの世間知らずの聖女が、
何かしでかしはしないかと見張っていただけだ。
踊った事が無い、踊れないというから、転んだのを良い事に運び出しただけだ。
ダンスに誘われたら困るだろうから、追い払ったまで___
結婚しようが、私は一ミリも変わっていない。
報告が終わったのなら、仕事に戻れ」
メラニーとナタリーは「承知致しました」と頭を下げ、部屋を出て行った。
オーギュストは独りになり、「はー」と重い息を吐いた。
「何を、ムキになっているんだ…」
自分に呆れ、長めの銀髪を掻き上げる。
「聖女か…」
確かに、調子を崩される。
結婚したから変わったのではない、あの聖女の前では、自分を保てないだけだ。
つい、引き込まれる。
普段は慎ましく、繊細な娘にしか見えないというのに…
聖女の力だろうか?
「俺は別に女嫌いじゃない」
オーギュストは自身の出生の事から、男に媚び諂う母親の様な女性を嫌っていた。
そして、女性と深い関係になるのを避けた。
それがいつしか、《女嫌い》と言われる様になったのだが、
それはそれで都合が良かったので、訂正した事は無かった。
「それに、アレは女というより、子供じゃないか___」
十分な広さがあるとはいえ、男と一緒にベッドを使っているというのに、
平気な顔をして寝ている。
二十歳といえば《大人》だが、《聖女》だからなのか、世間知らずで、
周囲の強かな女性たちとは全く違う。
それを、オーギュストは《子供》と結論付けていた。
「パーティといえば、ファストーヴィ王国の話を聞いたな…」
セリーヌが国を出た直ぐ後、第三王子クレマンと聖女アンジェリーヌが結婚した。
他国の要人たちが招待され、盛大に披露パーティが行われたらしい。
交易を結んだというのに、ブラーヴベール王国の者は誰も招待されていない。
「これはどういう事なのか…」
上層部は勿論、この事に疑念を抱いた。
「聖女アンジェリーヌは、国で一番力のある聖女と言っていたな…」
アンジェリーヌの結婚と、セリーヌを政略結婚させた事に繋がりはあるのか?
「セリーヌが邪魔になったのか?」
年齢的なものだろうか?
セリーヌを結婚させなければ、アンジェリーヌが結婚出来ない?
だが、ただ結婚させるだけならば、国の誰かで良い筈だ。
「セリーヌとアンジェリーヌの仲が悪ければ…」
派閥が出来れば、内紛の恐れもある。
国は力ある聖女を残し、反乱分子の恐れのある聖女を遠避けようと?
だが、あれ程力ある聖女を見す見す、他国にやるだろうか?
交換条件は有益なものだろうが…
「それに、セリーヌならば、相手に合わせるだろう」
セリーヌの気質は、優しく、我慢強く、従順だ。
「時にはっきりと物を言うがな…」
オーギュストの頭にそれが浮かび、思わず苦笑していた。
だが、オーギュストの頭の中で、増々糸が絡まった事は確かだ。
「一体、何があったのか…」
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