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週末、王城にて、結婚披露のパーティが豪華絢爛に、そして盛大に行われた。

わたしは聖女服とドレスとで迷ったが、結婚披露のパーティという事もあり、ドレスに決めた。
レースがたっぷりと使われた白色のドレスで、スカートはふわりと広がる。
清楚で可愛い…それは正に夢に見たものだったが、
華美に着飾った、王、妃、王太子、王太子妃、第二王子、王子妃と一緒に並ぶと、
自分が恥ずかしくなった。

幾ら化粧をしても、着飾っても、遠く及ばない…

体型にも容姿にも恵まれたオーギュストは良いが、わたしは絶対に見劣りしている自信があった。
侍女にしか見えないのではないか?
居たたまれず、直ぐにでもこの場を去りたい気分だったが、
パーティの主役となれば、それは叶わず、わたしは無理に微笑みを張り付けたのだった。
オーギュストなどは無表情でいても済まされるので徳だ。

パーティに招かれたのは、国の要人たち、高位貴族たちで、
これまた皆が豪華に着飾っている。
ドレスもだが、何といっても目を惹くのは《宝飾品》だ。
女性たちの髪飾り、耳飾り、首飾りは、全て大きな宝石と金細工で出来ている。
ファストーヴィ王国では王族しか身に着けない様な物だ。
それが至る所で見られるのだから、唖然とするしかなかった。

わたしも、王家から贈られた宝飾品を着けているが、とても重いものだ。
着飾った女性たちは、皆、平気な顔をしているので、それにも驚いた。

遠目に監察していたが、ふと、皆の視線が、わたしに向けられているのに気付いた。

「あれが聖女様かー」
「見た目は普通だな、平凡だ」
「オフェリー様やディアナ様と違って、威厳がない」
「だが、聖女様だろう?」
「ああ、結界を張ったらしい…」
「見た目には分からぬものだな…」

まるで見世物になった気分だ。
ファストーヴィ王国では聖女は珍しくもないので、《好奇》の対象にされた事は無かった。
それ処か、容姿がどうあれ、《聖女》として、皆、称えてくれていた。
だが、ここでは《聖女》に敬意を払ったり、感謝の念を持ったりはしない様だ。

無遠慮に見られ、益々居た堪れなくなる。
ああ、早く終わればいいのに…
いっそ、この場から飛び出したかったが、隣にはオーギュストがいる。
彼に恥を掻かせる訳にはいかない、わたしは形式上、《彼の妻》なのだから…

「セリーヌ、ダンスは出来るのか?」

オーギュストに聞かれ、わたしはそれを思い出した。
聖女は踊ったりはしない、軽率に見えるし、品位を貶めるからだ。
故に、踊りを習う事も無かった。

「いえ…ダンスは…した事がありません」

オーギュストが「そうか、困ったな…」と呟き、わたしは慌てた。

「す、すみません、次の機会までには習っておきますので!」

次の機会?
当然の様に言った自分に笑った。

「オーギュスト様、聖女様、ファーストダンスを___」

臣下に促され、オーギュストがわたしの手を取り歩き出した。

「オーギュスト様!わたし、ダンスは、本当にした事がないんです!」

わたしは青くなり、オーギュストに訴えた。
だが、彼は歩みを止めない。

「悪いが、ファーストダンスは避けられない。
私も想定していなかった、悪いが、適当に合わせてくれ___」

ダンスフロアの真中、広く開けられた所に、オーギュストと向かい合って立つ。
わたしは生きた心地がしなかった。
ああ、絶対に、酷い事になるわ!!

「私の言う通りにしておけば大丈夫だ、セリーヌ」

抑揚の無い声だが、何処か安心出来る。
それに、この場には、彼しか頼れる者はいない。

「それでは、失敗した時は、オーギュスト様の指示が悪かった事にします」

「ああ、責任を取るのには慣れている」

オーギュストは薄く笑ったが、わたしは内心、足を踏んでやりたくなった。
わたしは《部下》ではないわ!《妻》よ…

「礼を」と彼に促され、わたしたちは同時に礼をした。
オーギュストの指示で、わたしは彼の手に自分の手を乗せた。
ここまでは何とか形になったが、音楽が流れ出してからは、必死だった。

「右に…次は左、そう、繰り返しだ、音楽に乗って…」
「背を正して、私の方を見て…堂々としていれば大丈夫だ」

それでも、上手くいく筈もなく、わたしは躓き、彼の胸に飛び込んでいた。

「きゃ!」

流石に、オーギュストも足を止めるしかなかった。
わたしは彼にしがみついたまま、青くなっていた。

ああ!どうしたらいいの!!

すると、オーギュストがいきなりわたしを抱え上げた。
そして、そのまま、ダンスフロアから出て行ったのだった。


オーギュストはわたしを、脇に置かれたソファに下ろした。
遠くから、招待客たちがチラチラとこちらを伺っているのが分かり、
わたしは気まずく、小さくなった。

「す、すみません!台無しにしてしまって…」

「いや、私が伝えていなかった所為だ、それに言った筈だ、後始末には慣れている」

『責任を取るのには慣れている』では無かったか?

「あなたに従っていれば大丈夫だともおっしゃったわ」

恨みがましく上目に見たが、オーギュストは事も無げに言った。

「ああ、そうだ、私でなければ、この程度では済まない」

自信家だわ!

「飲み物は何が良い?」

オーギュストが聞いてくれたが、わたしは「結構です」と返した。

「何か食べるか?」

わたしは頭を振る。

「君は小食だな」

わたしは「むっ」としたが、それを教えてあげた。

「《聖女》ですから、こういった場では、飲食は控えなければならないのです!」

会食の場なら良いが、公の場で聖女が飲食をするのは禁じられている。
多くの者たちは、聖女には《聖人》でいて欲しいという、願望を持っているのだ。

「聖女だから、何だというんだ?」

逆に、わたしはオーギュストの問いに目を丸くしてしまった。

「喉も乾けば、腹も減る、当たり前の事だ。
王も妃もあの通り好きに食べている。
聖女だからと我慢を強いられるのはおかしいだろう」

「《聖女》は《聖人》でなければ、皆をガッカリさせますので…」

「装っていると知れば、更にガッカリする」

痛い所を突かれ、わたしは強く反発していた。

「何とでも申されて下さい!
理解不能であっても、これが《聖女》の規則なんです!」

規則に厳しい氷壁の騎士団長は、固まった。
そして、「ならば、仕方あるまい」と頷いたのだった。
凄い効果だわ!


「あれが、聖女様?」

オーギュストが呼ばれ、離れたのを見計らい、貴婦人たちが近付いてきた。
尤も、わたしに話し掛けるのではなく、わざと聞こえる様に話すのだ。

「普通の娘にしか見えませんわね」
「聖女というのですから、美人だろうと思っていましたわ」
「そうそう、先日結婚された、ファストーヴィ王国の聖女は凄い美人だというじゃない?」

アンジェリーヌ!?

わたしはギクリとした。
この国に来てまでも、彼女の名を聞くとは思わなかった。

だが…

アンジェリーヌとクレマン様は、結婚したのね…

不思議と胸は痛まなかった。
何の感情も沸かない。
もう、随分、遠い昔の事に思えた。

「国を挙げての結婚式だったそうね!」
「王都中がお祭り騒ぎですって!」
「他国の要人たちも呼ばれて、それはそれは、素晴らしかったとか!」
「我が国とは大違いねー」
「何もかも突然だったわよね、私たちに全く知らせないなんて、祝って欲しくなかったんでしょう!」
「政略結婚なのよ!」
「オーギュスト様も、あんな娘と結婚させられて…」

想像していた事だったが、耳にするとやはり気落ちした。
彼に相応しくない事は、誰よりも自分が良く知っている。
それに、オーギュストにとって迷惑なだけである事も間違いない。

「聖女というだけで、王子と結婚出来ていいわよねー」
「あら、オーギュスト様が《側室の子》だからでしょう」

オーギュストが、側室の子!?
わたしは聞かされていなかった事に驚いた。

「王妃様は勿論、王太子も王太子妃も、第二王子のガブリエル様も、
王子妃ディアナ様も、いつもオーギュスト様には誰も声を掛けないけど、
今夜は特に冷めているじゃない?」

わたしはついと、そちらを見た。
王と王妃は早々に用意されていた豪華な椅子に座り、食事を楽しんでいる。
王太子アレクサンドルと王太子妃オフェリー、
第二王子ガブリエルと王子妃たちは、それぞれ、招待客たちと歓談している。
こうして見ると至って普通に見えたが、確かに、祝いの言葉は言われなかったし、
挨拶も無かった気がする。
そういうものとばかり思っていた…
そんな事を考え眺めていると、不意に第二王子ガブリエルがこちらを振り返った。

!!

わたしは咄嗟に視線を反らした。

嫌だわ!見ていたのに気付かれたかしら?

無作法が恥ずかしく、頬が熱くなる。
恐る恐る目をやると、ガブリエルの視線はもう他に向けられていた。
わたしは「気の所為ね」と、安堵に胸を撫で下ろした。

「オーギュスト様もお気の毒ね!」
「でも、妃の子を、あんな得体の知れない者と結婚させる訳にはいきませんもの!」
「国を乗っ取られては大変だものね!」

貴婦人たちは笑い声を上げ、去って行った。

ふと、嫌な考えが浮かんできた。

オーギュストは側室の子だから、貧乏クジを引かされたのだろうか?
わたしを助ける為というのは後付けで、
本当はわたしが嫌で、早く結婚を解消したくて、そう言っていたら…

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